第2話 白い悪魔

「で、この国の東西を結ぶ幹線道路を占領するってか?」

「ご名答なんだが、そんなに上手くいくとは俺には思えんぞ?計画の漏れがあまりにも多くないか?」

「将軍自身物量差で押し切るつもりだろう。所詮使い捨ての駒ってもんよ。」


鍵も何も得られないまま、朝になり行軍が再開された。八甲田山の二の舞になるだけじゃないかと疑心暗鬼になりつつも隊列に加わっている俺を褒めてほしいもんだね。

文句を垂れながら進んでいるうちにカナダ側の陸地に上陸したが抵抗も何も無かった。さらに内陸に引き込んで遅延戦術で消耗していくのを待つつもりなのか、意図も何も読めずにいた。


湖から離れ、小さな氷河湖と針葉樹林が一面に広がる地帯に入った頃だった。

突然銃声が鳴り響く。


初めて射撃をまともに食らい顔の目の前をかすめていく。正直恐怖で身が固まったがそんな場合ではない。


かつて1週間でフィンランドを征服すると意気込んだモスクワの独裁者が激しい抵抗を前に損害を出し続け敗北したあの戦いが頭に浮かんだ。

甘い見積もり、敵地の中での戦い、白い世界、全てが一致していた。


どこから攻撃されているか分からず、カモフラージュしているであろう敵軍への攻撃なのか雪への攻撃なのか把握しようがない。

しかも道に沿って伸びきった隊列を狙われたので進軍どころではない。


重火器の力を借りようやく静まったが、自身啞然として立ちすくんでいるだけだった。


そうか、全て敵の手のひらの上で転がされていたのだ。

その後の進軍は遅々としてなかなか進まなかった。



物量差でナイアガラ川の防衛ラインを突破した別働隊が、トロント市街地で戦闘を始めたとの報が届いた。

レニングラードからスターリングラードになってどうすると呆れ溜息をつくと、

同期は「市街地で敵の狙撃手にやられてばかりらしいぜ。散々だなぁ。」と白い息とともに乾いた笑いを漏らした。

「どんな奴なんだ?」と聞くと、

「よく分らんがアザカーだかいったような気がするな?恐ろしいほどの被害が出ているし早く市街地を制圧しないといけないな。」と言う。


「ああ、そういえば東海岸の大隊で寒いせいか体調不良の兵士が多くなっているそうだ。ジョンも気をつけろよ。」

ああと流して答えるが鍵がこんな何もない場所には無いのではないか、どこか遠い場所にあるんだろうかなどと頭を高速回転させていた。

とりあえず今はラジオを聞きつつ、情報を集めておくしかない状況だ。政府筋の情報によればカナダを早急に陥落させ日英同盟軍、特に日本に対し攻勢をかける腹積もりらしい。日本が出てきたので鍵に近づくチャンスかもしれない。この世界で軍に所属する立場をフル活用してやるさ。

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