兵士ジョン・スミス

Tylorson

第1話 オストラキスモス

おいジョン。起きろ!

そんなに湖に沈みたいならさっさと飛び込んでこい!


俺は大声とともに飛び起きた。


目が覚めるとキャンプ場のような場所に俺はいた。

いつものようにシャミセンと妹が叩き起こしに来る訳ではなく何故か知らない人間が周囲にいて、慌ただしく身支度をしているようだ。

それにしても寒い。よく分からない状況だったが、俺はひとまず流れに身を任せることにした。状況を把握するまでは下手な行動を起こさない方がいいだろう。ハルヒが消えた時でそれは十分に身に染みたさ。

周囲のマネをしながら枕元に畳んであった服に袖を通す。えらく地味な服だなと思ったがどうやらこれは兵隊だ。完全に歴史の資料集に載っていた写真と一致している。

じゃあどこの軍隊だ?湖と言っても何処だ?


栄養食らしきものを掻っ込むと、指揮官らしき人物が表れてこう言う。


「本作戦の目的は敵の最大都市の確保である。敵には後はないため死に物狂いで抵抗してくるだろう。殲滅はせず包囲し北上せよ。兵糧攻めで我らの勝利は確実である。そのためまず補給線を分断せねばなるまい。」


よりによって歩兵か。せめて戦車くらい欲しかったぜ。

ハルヒに振り回され非日常の経験値を蓄えたお陰で緊急事態に慣れてしまう自身が恐ろしいほどだ。どこの国かも分からないのに戦わなければいけないのか?


指揮官は続けてこう言う。

「凍ったスペリオル湖を進み進軍せよ。敵はナイアガラ川に沿い防御陣地を構築している。氷は例年よりも薄いかもしれないが価値はある。かつてのスウェーデン王カール10世ができて我々になぜできない?」

それに対し、「しかし大尉、この寒さの中の迂回進軍では兵士は疲弊し目的を完遂できないのでは?」

との声が上がる。

成程、どうやらアメリカ陸軍に紛れ込んでしまったらしいが、この世界に飛ばされた原因は何だ?ハルヒの退屈凌ぎにしては珍しいな。

結局部隊を二手に分け、半分はスペリオル湖、もう半分はオンタリオ湖を進むことになった。

俺はスペリオル湖の部隊に所属することになったが何となく嫌な予感がした。

第二次世界大戦でかつてのドイツ軍がアルデンヌの森を抜けマジノ線を無効化したことを北米大陸でやろうとしているところまでは理解できた。ナイアガラや五大湖の名前がたびたび出てくるし、北に進軍するとなれば隣国は1つしかない。

カナダである。


あのナイフの使い手が飛ばされたことになっている国がここで出てくるとは思いもしかなかった。それにしても前回のようにヒントはどこにある?鍵はどこだ?

長門だとしたら俺をわざわざ海の向こうに飛ばす目的は何だ?

俺を飛ばして得をする人物は誰だ?


「おい、敵ってどこのことだ?」

「今更そんな事言っているのか?ブリテンと日本さ。」


What?

「何故同盟国を攻める?」

「フィリピンでも南米でもあいつらは俺らの金を奪いやがる。紅茶野郎を攻めない理由なんて無いだろ?同盟って何処のことだ?ちょび髭の皇帝のことだろ?」


ますます状況が分からない。

アメリカがイギリス・日本と敵対?

ここはどうやら俺らが生活している世界とは違うらしい。


スペリオル湖を隔てカナダと接するCopper Harborという町まで進軍したがその日は疲れて寝てしまった。

ああ…ハルヒに会いたい…

今は何もできなかった。

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