第389話 ショコラわからせ配信
勇海さんの特訓によって、ついに俺は安定したカーブを身に付けることができた。これは最早、1位を取るのは夢ではない。となれば、今まで散々、ショコラの運転が下手だと煽り散らかしてくれたショコラブ民をわからせてやる必要がある。というわけで、俺はリスナー参加型の配信企画を立てた。
「みな様おはようございます。バーチャルサキュバスメイドのショコラです。本日はリスナー参加型のマサカー配信をやります。企画内容を説明しますと、私ショコラと一緒にレースするだけですね。勝った人はそのままレース続行する権利を得ます。負けた人は部屋から出ていくというルールですね。それでは、今から部屋を立てるので勝手に入ってきてください。早いもの勝ちですよ」
部屋を立ててからものの数秒で満室になった。これが配信者パワーか。
『これメンバー固定化されない?』
「メンバーは固定化されません。なぜなら私が1位を取るからです。ショコラブのみな様に私の実力をわからせてあげます」
早く勇海さんとの特訓の成果を見せつける瞬間が楽しみだ。カーブでコースアウトせずに曲がり切るという高等テクニックでショコラブの度肝を抜いてやる。
「それでは、コース選択から始めましょうか。みな様。好きなコースを選んでください。私はどのコースでも大丈夫ですから」
どのコースでも大丈夫。そう言ったはずなのに、参加者の大半が簡単なコースばかり選んだ。もっとテニクニックを要求するコースでも良いのにと思ったけれど、多分参加者は難しいコースを上手く走れないから簡単なコースを選んだんだな。決してショコラに気を遣ってのことではないな。
「さあ、そろそろ始まりますよ。3、2、1……スタート!」
スタートダッシュこそ失敗したものの、特に止まることなく、妥当なスタートを切れた。立ち上がりのスタート時の順位は8位。半分より下位だけど、まあまあな順位だ。ここから巻き返せる。切り替えていこう。
最初のアイテムボックスを失敗することなく取れた。ルーレットが回転して、ショコラが取得したアイテムは……ボムか。まあ、適当なところで適当なタイミングで投げるか。
そうこうしている内に最初のカーブにやってきた。勇海さんの言われた通り、視線を進行方向の先に向ける。俺はついつい自機を見てしまう癖があるけれど、きちんとカーブの先を見るイメージだ。大丈夫曲がれる! いくぞ!
ショコラのキャラが曲がる。ちょっとカーブの角度がズレているけれど、進行方向がわかっているからそこに合わせて修正できる! そして、ショコラは見事にカーブを曲がり切った。
「やった! やりましたよ! カーブを曲がりました!」
『!?』
『なん……だと……』
『ショコラちゃんがカーブを曲がった……?』
『ありえない』
「どうですか? 見ましたか? みな様! 私だってカーブを曲がれるんですよ!」
コメント欄の流れが一気に早くなる。ショコラがカーブを曲がれたことに驚愕する声、称賛する声、別人を疑う声などがあり、その反応たるや気持ち良すぎる。一通りコメント欄の反応を楽しんだ後で画面に目をやると……
「あっ……」
ショコラのキャラがコースアウトしてしまった。コメント欄を見たことによる脇見運転。現実ならば絶対にやってはいけない事故。それをやらかしてしまった。
「ぐぬぬ……」
『知ってた』
『安定のコースアウト』
「ちょ、ちょっと油断しただけです。ここから巻き返しますよ!」
このコースアウトによって、現在の順位は12位。つまり最下位だ。でも、まだここから巻き返せる! 俺は心の中で叫び、気合いを注入した。
「最下位ということは最下位ということなんですよ。誰も最下位を狙わない、だからこそ、逆にチャンスということです」
わけのわからない発言をしたところで、気を取り直して再び加速。なんか目の前にで甲羅にぶつかってクラッシュしているプレイヤーがいたので、持っていたボム兵で追撃しておいた。
『ボムを当てるのだけは上手なんだよなあ』
『運転技術がないだけでエイム力はあるのかも』
ボムを当てたプレイヤーを抜いて11位。最下位の方が良いアイテムが貰えそうな気がするから、なんか抜かしたら逆に逆転の目がなくなってしまうのかもしれない。けれど、俺はレース技術で1位を取りたい。アイテムなんかに頼らない!
しかし、走れど走れど追いつけない。中盤辺りで小競り合いしてくれていたお陰で1週目が終わる頃にはなんとか8位にまで上り詰めた。しかし、それだけである。上位勢とは圧倒的に離されてしまっている。
「えー? みんな早くないですか?」
『確かに上位勢は結構早いね』
『リスナーのレベルが高いのはあるある』
アイテムを拾う度になぜかボムが出てくる。その度に近くにいるプレイヤーに当てる。その度にコメント欄が加速する。しかし、カートは一向に早く走ることができない。ちゃんとアクセルを踏んでいるはずなのに、どうして他の人と差ができてしまうのだろう。
気づけば後続にも抜かされてあっと言う間に10位。そのまま2周目の終盤まで行って結局最後の競り合いに負けて12位でゴールしてしまった。もうアイテムとか関係ない純粋なレースのテクだけの敗北。これは……流石に実力不足を認めざるを得なかった。
『知ってた』
『もう1回遊べるドン!』
『まーたショコラちゃんをわからせてしまったか』
『勝ったけれど、他にも遊びたい人がいると思うので抜けます』
普通の配信者なら1ゲーム1抜けのはずが、ショコラに勝てた場合は抜けなくても良いルールがあるため、リスナーは出ていく必要はない。しかし、後続に気を遣ってかみんな自主的に出て行ってくれた。
「みな様本当にありがとうございます。なんか気を遣わせてすみません……」
その後のレースも……まあ、リスナーに気を遣わせる結果になってしまったのだった。
◇
ショコラの配信から数日後、再び勇海さんとオンラインチャットを繋いだ。
「勇海さん。俺、なんとか練習して上手くカーブを曲がれるようになりました」
「そうなんだ。おめでとう! その調子で練習するともっと上手くなると思うよ」
勇海さんの声色がどこか嬉しそうである。
「でも、未だにレースで勝てないんですよね。一体何が足りないんでしょうか」
「うーん……まあ、焦らずにじっくりやっていこう。琥珀君には琥珀君のペースがあるから」
「はい!」
いつかはショコラブに目に物見せてやりたい。それと師匠を助手席に乗せてドライブデートのためにもレースゲームで慣らしておきたい。そのためには、もっと練習あるのみだ。
「まあ。闇雲に練習してもモチベーションが続かないから少しずつ小さい目標を立ててがんばっていこう」
「そうですね。それじゃあ最初の目標は……11位になること。これを目指してがんばろうと思います」
「え? もしかして、最下位以外取ったことない?」
「あー……思い返してみれば確かにそうですね」
俺の脳裏に浮かぶ走馬灯の数々。Vtuber大会での周回遅れ。配信終了RTA。どれも苦い思い出だ。
「そ、そうなんだ。でも、カーブを曲がれるようになれば、継続していればいつかは最下位から脱却できると思うよ」
「本当ですか? 信じますよ」
勇海さんは嘘を言うような人ではない。ということは、俺もいつかは11位の高見を目指せるというわけか。
それに、11位が1番凄いまである。なぜならば、最も順位が高い1位よりも1の数が1つ多い。つまり、これは1位を超えた1位。実質1位……って、姉さんが昔勘違いしていたことを思い出した。そう考えると11はいわくつきの数字だから……やっぱり10位を目指すか。
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