第368話 神「私だ」 人狼「お前だったのか」
ビナーがまさかの獅子王さんが人狼であるとの指摘だ。一体なぜこのタイミングでその指摘なんだ?
「ビナーちゃん。流石にそれはないんじゃないか?」
「まあ、ビナーちゃんの話を聞こうじゃないか」
佐治さんがビナーに茶々を入れるが、それを獅子王さんが制止する。疑われている当の獅子王さんがビナーの話を聞きだそうとしているのか。
ん? なんだこの違和感は。なにか1つの可能性を見落としているような……そんな気がする。
「えっと、獅子王さんって中性的じゃないですか。その感じがセクシーだと私は思うんですよね」
「なるほど……それだとちょっと弱い気がするなあ」
ビナーが自分の意見を述べるも、それを一蹴する獅子王さん……あ、そうか。わかったぞ。このゲームで誰が人狼なのかを。とりあえずここはビナーを援護するしかない。
「いえ、ビナー様の言うことも一理あるとは思いますよ」
俺は誰が人狼か。そのことばかりに目をやっていた。けれど、このゲームにはもう1つ目を向ける要素があった。それは……誰が神かだ。
人狼は自分が投票された時の保険として神を必死に探そうとする。つまり、自分に疑いを向ける者にどうしても目をやってしまうんだ。
もし、ビナーが人狼だった場合、明らかにその心理に逸脱している。ビナーは複数から疑いを向けられていた。その時にビナーは動揺していたのもあってか、誰が人狼なのかを探ることはせずに自分の弁明を優先しようとした。
それがおかしいんだ。追い詰められているならビナーは誰が神かを探し出してそこから一発逆転を狙うはずなんだ。ビナーは全く神を探す素振りを見せてない。つまり、彼女は人狼ではない。
でも、ビナーは明らかに市民のムーブをしているとは思えない。なにか役職を抱えてしまった。そういう緊張感がビナーから伝わってくる。ビナーが人狼ではないとしたら、残る役職は……神だ。
そして、ビナーが神だと判明した以上、人狼はおのずとわかってしまう。ビナーが疑いを向けた者。そして、その疑いを受けてビナーから情報を引き出そうとしている者。それが人狼だ……そう、獅子王 ツバサ。彼こそがセクシーの才能を与えられた者なのだ。
獅子王さんはビナーが神かどうか見極めようとして、自分が疑われているのにも関わらず、ビナーの意見を訊いたんだ。なるほど。流石はインテリ集団の1人なだけはある。すぐにゲームの本質を理解して、あえて自分を疑っている者に喋らせる。恐ろしい人だ。
「ビナー様の意見を聞いて考えを変えました。獅子王様はスフィンクスがモチーフですよね?」
「ん? ああ、そうだけど」
「エジプトにあるスフィンクスの石像。あのポーズ。もし、人間がやったらセクシーな感じになると思いませんか? そうした意味でも獅子王様はとってもセクシーな方だと思いました」
ショコラが今やるべきことは、ビナーの援護だ。獅子王さんはまだビナーが神だと確信したわけじゃない。自分を唯一疑った者として疑いの目を向けているだけで確信は持ててないはず。だから、ビナーに喋らせることでボロを出させようとした。
なら、神の候補をもう1人増やすためにショコラを盾にするしかない。かなり厳しいけれど、勝ちの目があるとしたらこれしかない。ショコラは自分の神バレが怖くて最初は獅子王さんに疑いの目を向けなかった。けれど、ビナーが疑ってくれたから、それに乗っかった。その筋書きを提示すれば獅子王さんは迷ってくれると思う……
「まあ、確かに私があのポーズをやれと言われたら屈辱を感じてしまいますね。でも、屈辱的なポーズとセクシーはまた違うのではないでしょうか?」
ケテルさんが援護射撃を誤射しやがった。まずい。ビナーの神バレを防ぐ以前に獅子王さんに票を入れないと勝てないんだ。こうなってしまっては、ケテルさんには期待できそうもないな。佐治さんとアウルさん。その両方はわかっているのだろうか。
「わたくしは生まれてから1度もあのスフィンクスのポーズをセクシーに感じたことはないけど、まあ個人の感想として受け取るよ」
煙に巻くような獅子王さんの言い方。なんか見透かされているような気がする。
「おっと、時間だ。それじゃあ、投票タイムだ。人狼だと思うところに投票してください」
佐治さんの言葉と共に画面が投票画面に切り替わる。プレイヤー名の隣にラジオボタンが付いていて、これで人狼だと思う人物を選択。そのまま投票を押した。
頼む……佐治さん、アウルさん。伝わっていてくれ。
【投票結果】
ビナー……2票(獅子王、ケテル)
獅子王……4票(ビナー、ショコラ、佐治、アウル)
『投票の結果、獅子王 ツバサが処刑されることになりました……獅子王 ツバサの正体は――』
『 人 狼 でした』
よし、佐治さんもアウルさんもわかってくれていたみたいだ。まあ、俺でも気づけたんだから、頭の良い彼らなら余裕だろう。ケテルさんは……まあ、ドンマイ。
とはいえ、これでゲームが終わりではない。獅子王さんの選択次第ではここからの逆転は十分ありえる
『処刑される直前に人狼は最後の晩餐として村人1人を道連れにします
獅子王 ツバサさんが最後の晩餐を選択中です……』
頼む。何事もなく終わってくれ。ショコラをガブガブしていいから。セクシーなショコラの肉体を余すことなく味わっていいから!
「まあ、多分神はビナーちゃんでしょう」
『獅子王 ツバサは処刑される直前に、ビナー・スピアを食べました。ビナー・スピアの正体は――』
『 神 様 でした』
『神を喰らったことにより、人狼は神の力を得て、新たなる支配者になりました。市民たちは、新たなるセクシーな神様によって支配される存在となり、2度と自由で平穏な暮らしを手に入れることはできません』
『人狼 の勝利です』
「あー食べられちゃった……くやしいなあ」
第1ゲームは、人狼の勝利で終わった。神であるビナーは、折角人狼を処刑できたのに敗北をしてしまったのが非常に残念と言った感情をこめてため息をつく。
「え? え? どういうことですか?」
未だに状況を飲み込めていないケテルさん。この人はあんまりゲーム慣れしてなさそうだな。
「佐治様とアウル様。お2人共、気づいてらしたんですね」
「俺はショコラちゃんがビナーちゃんを庇ったところで気づいたかな。ショコラちゃんがなんで庇うんだろうって考えた時に、ビナーちゃんかショコラちゃんのどっちかが神だなって思った瞬間に、獅子王君が一気に黒く見えた」
「僕はビナーちゃんが獅子王を怪しいと名指しした時に気づいたよ。あそこで人狼だったら、他に疑われてそうな人を名指しするはず。ヘイトを集めてなかった獅子王に行った時点で神じゃないかと薄々感づいた」
佐治さんとアウルさんがそれぞれ自分の私見を述べる。それぞれ気づいた理由は違うにしろ自分の考えで動けていて頼もしい。
「わたくしがビナーちゃんが神だと気づいたのは、やはりわたくしが疑われたからだな。苦し紛れにわたくしを巻き込もうとしているのかと思ったのだけれど、質問してみて神くささが一気にでてきた。ただ、その後ショコラちゃんが急に出てきて考えが変わりかけた。けれど、ショコラちゃんの方が自分を盾にしようとしている感じがして、命が軽そうと思ってビナーちゃんを食べることにしたよ」
獅子王さんの解説も聞いてみるとやはり納得できてしまう。
「あー。そういうことですか。もう少し私も自分が助かりたい感を出せば良かったですかね」
「まあ、わたくしも最初のゲームだから裏をかくとかはなさそうだと思ったからね。これが何度かプレイしたり研究が進むと裏をかく戦術も出てくるからより奥が深いゲームになるかも」
獅子王さんの言う通り、これはまだみんながゲームに慣れていないからこそ単純な話で終わったゲームだ。みんな順応性が高そうだし、第2ゲームはより複雑な進行になりそうだ。
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