第367話 セクシーの定義を説明をするのはセクシーじゃないよね?

 画面にチャットのやりとりが流れる。


佐治:全員集まったかな?

獅子王:まだコクマーちゃんが来てないよ

福下:コクマーは「妻の体調が優れないから今日は来れない」ってさっきメールが来てた

獅子王:マジか

ビナー:え? じゃあ、今日は5人でやる感じですか?

ケテル:コクマーさんの同期だから呼ばれましたが……その本人が来ないんですか。まあ、事情が事情だけに仕方ありませんが

佐治:その辺は抜かりない。代役がいるみたいなんだ。では、どうぞ……

ショコラ:みな様おはようございます。急遽代役として呼ばれましたショコラです

ビナー:ショコラママ!


 という感じで、リドルトライアルから3人。セフィプロから2人。全く無関係のショコラが1人の計6人でゲームをすることとなった。ゲームのタイトルと内容は既にメールで添付されているから知っている。


 ここからは通話に切り替わって話すこととなった。収録だから、チャット画面よりかはVtuberたちが話している方が視聴者も嬉しいだろう。


「はい。このゲームの発案者である佐治 賢郎です。今日はお集りいただきありがとうございます。チャットにURLを送ったので、そこに飛んでください」


 佐治さんに指示に従い、そのページに飛ぶと……これは、天才最強イケメン人狼がブラウザ上で遊べるサイトのようである。ホストが合言葉付きの部屋を立てて、そこに合言葉を知っている人たちが入ってゲームをするという方式のようだ。まあ、ゲームの性質上、知らない人が入ってきたら気まずいから合言葉を知らない人が入れないような処置をされているんだろう。


「わー。これ、佐治さんが作ったんですか。凄いですね」


 ビナーが素直に佐治さんを褒める。忘れがちだけどこの人たちは高学歴で優秀な人たちである。これくらいは楽に作れるのだろうか。


「佐治ちゃんが一晩でやってくれました」


「おい、こら獅子王さんよお。簡易的とはいえ、ネットワークで対戦できるゲームのシステムが一晩で出来ると思うな。1人でエラー時の処理を書くだけでゲロ吐きそうだったぞ」


 兄さんが言っていたけど、ネットワーク系のプログラムはネットワークのシステム構築よりも、エラーが出た時の処理の方が膨大な量のコードを記述しなければならないって言ってたな。まあ、俺はそっち方面は詳しくないから本当のことかどうかは知らんけど。


「じゃあ、1人でやったのならバグが出たら全部佐治ちゃんのせいってことで」


「獅子王ちゃん知っているか? バグと週末の駅近くの道端にあるゲロは発生させないようにするのは不可能だって。見つけた時に掃除をするしかないのさ」


 嘔吐は生理現象だから仕方のない部分はあるが……それを誘発させる酒を吐くまで飲むのは大人にしては自己管理ができてないと感じる高校生がここにいる。


「とりあえず、俺が部屋を立てておいたから、みんなそこに入って。合言葉は『バクダン』。カタカナで入力して欲しい」


 爆弾……まあ、このゲームで爆発するようなことはないだろう。メンバー的にも爆弾を抱えている要素もないしな。俺の中の現場猫が地雷を確認して「ヨシ!」って言ってるし。


「全員入ったかな?」


「入りました」


「ヨシ! それじゃあ始めようか。最初の神は誰かな?」


「私だ」


「お前だったのか」


 獅子王さんと佐治さんがまたふざけている。それと、ショコラの役職は市民だった。神ではないので、この時間は特にやることはない。


「え? 神になったら申告するんですか?」


「そんなわけありませんよビナーさん。申告しちゃったら人狼に食べられちゃいますから」


 ビナー。本当にルールを理解しているのか。なんか素直すぎて不安になってきたな。


 画面には神のプレイヤーが行動中ですと表示されている。与える才能を見て、誰に付与するのか決める時間だ。


 しばらく待っていると、画面に変化が訪れた。『神の行動が終了しました。3秒後に再び役職を確認します』


 3秒後、画面に表示されたのは『神が与えた才能は【セクシー】です』


 うわあ……これ絶対ショコラ選ばれるやつだよ。最初から人狼で立ち回るのか。ちょっと重いな。


 『ショコラさんは市民です。役職の確認が終わったら【準備完了】を押してください。全員が押すとゲームが開始されます』


 は? 納得できない部分はあるけど、まあ一応押さないと始まらないか。


 全員がボタンを押し終わったのかゲームが始まった。この中でショコラからセクシーの座を奪い取った不届きものがいる。そいつを成敗するのが今回の目的だ。後は、ショコラをセクシーにしなかった神もついでに処したい。けれど神は味方陣営だから処せないのが辛いところだ。


「はい、ゲームが始まったね。それじゃあ、1人ずつ怪しい人を言っていく流れにする?」


「佐治に賛成。僕はビナーちゃんが怪しいと思う。やっぱりセクシーと言ったら外見だし、バタフライマスクはその象徴たるものだと思う」


 福下さんがいきなりビナーに注目する。確かに、ビナーならば許せる。一応は、ショコラの娘だしセクシー遺伝子を受け継いでいてもおかしくない。子はいつか親を超えるものである。娘がセクシーに成長してくれたことを今は喜ぼう。


「え? 私? わ、私はやめておいた方がいいですよ」


 疑いの目を向けられてわかりやすく焦るビナー。


「私もビナーさんかショコラさんだと思います。2人とも“外見は”セクシーですからね」


 “外見は”ってところに引っ掛かりを感じるけど、ケテルさんはショコラをセクシー判定をしてくれる良い人のようだ。次にショコラが神になったら、優先的に才能をあげようか。


「ちょ、待ってください。私じゃないんです。本当に!」


 ビナーがあからさまに犯人ムーブを始める。え? もしかして、本当にビナーが人狼なのか? そうなるとなんか可哀相になってきた。前のワードウルフの時もそうだったけれど、ビナーは素直で純粋な面があるから、こういうゲームは妙に弱いところがある。まあ、その弱さがリスナーにはウケて、人狼系のゲームをやることを望む声が結構出てるんだけど。それを踏まえた上で、ビナーを人狼にするなんて神も残酷なことをする。


「それなら、ビナーちゃんは誰が怪しいのか言える?」


 獅子王さんがビナーに詰め寄る。ビナーはそれに対してもしどろもどろになっている。


「言えないなら、悪いけど、わたくしもビナーちゃんに投票することになるかな」


「あ、ちょ、待ってください。言います。言いますから、投票はやめてください。ただ、その……私が言うのは最後でいいですか? 一応、佐治さんとショコラママの怪しいところも聞いた上で判断したいです」


 なんだ? この先延ばしになにか意味があるのか? 疑われてテンパっているのか。


「俺はそうだな。まあ、ケテルさん、ビナーさん、ショコラさんの内の誰かだと思うかな。少なくとも、俺やアウル君や獅子王君をセクシー枠にする人はいないでしょ」


 女性のガワを持つVがセクシー枠に該当するという、至極当たり前のことをさも推理しました感を出して言う佐治さん。なるほど。これが大人が何も考えてなかった時のやり方か。


「私は……申し訳ないけど、ビナー様が怪しいと思います。なぜなら私が人狼ではないからです。私が人狼に選ばれてないってことは、神はセクシー枠を私かもう1人、私の娘たるビナー様のどちらかの究極の2択を迫られたと思います。母娘でセクシーなら、まあ丸く収まると思うので、ビナー様。消去法で処されて下さい」


「ちょ、ショコラママまでひどいよ! 私は違うのに……」


 ビナーはまだ否定を続けている。これだけ攻められてもまだ諦めるつもりはないようだ。


「えっと……約束通り怪しいところを言います。私は獅子王さんが怪しいと思います!」

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