第369話 自爆を恐れぬ爆発炎上の化身

 第1ゲームを終えて第2ゲームへと移行する。当然、神とお題も変わるので人狼も変わってくる。さあ、次は誰が神か。ワクワクしてきた。


【ショコラさん。あなたの役職は 神 です

 あなたは、人狼に ロマンチスト の才能を授けました

 市民の中で最も ロマンチスト だと思う人物を指名してください】


 今度はショコラが神になってしまった。娘のビナーの次が母親であるショコラとはなんという因果か。


 それにしても、今回の才能テーマは【ロマンチスト】か。才能と言えば才能なのか。考え方の1つで能力とまでは言えないと捉える人もいるだろう。しかし、思考は簡単に変えられるものでもないし、生まれ持ったものとしてはある意味1番大きな差異なのかもしれない。思考が違えば、そこから生まれる発想も違ってくるし、発想力をほとんどの人が能力として認める。つまり、それに影響を与える思考、考え方のタイプや傾向も才能の1つであると言えそうだ。


 うん。こんな現実的な分析をしている時点で俺は【リアリスト】側の人間だし、ロマンチックな思考とは無縁だろうな。


 さて、誰がロマンチストに該当するか考えてみようか。佐治さんは……まあ、対極の存在って感じがする。こう、デリカシーがないと言うか。多分、彼女とかと綺麗な夜景を見たとしても、感動している彼女を横目にこの後どうやってホテルに連れ込もうか考えているタイプの人だとは個人的に思う。まあ、勝手な偏見だけど。


 アウルさんと獅子王さんはまあ、割かし常識人的なポジションだとは思う。でも、獅子王さんはたまに佐治さんの悪乗りに乗っかる時もあるしなあ……アウルさんは、あんまりロマンチストってタイプじゃなさそうだ。


 そう考えるとリドルトライアルのメンバーの中で最もロマンチストな感じがするのは、コクマーさんだろうか。まあ、この場にいない人間だから指名のしようがないけど。


 となると……ビナーかケテルさんのどちらかを指名すべきか。ビナーは……さっき、神の大役になっちゃったから今度は市民をやらせてあげたい。他のメンバーならまだしも、2連続で重たい役職持ちはなんか可哀相な気がしてくる。


 Vtuberとモデラーという偽の血縁関係ではあるけれど、ママと呼ばれるとどうしても情が沸いてしまうし、庇護欲のようなものが出てしまう。俺はまだ実子がいないけれど、人の親になるとこういう感情になるのだろうか。


 そんなわけで、人狼はケテルさんにしよう。そんな絡みがあるわけでもないし、気兼ねなく使命できるな。


 ケテルさんを人狼に指名したので次の画面に偏移する。市民の人たちが今一度自分たちの役職と今回の才能を確認するフェーズだ。ケテルさんはどんな反応を示しているんだろうか。気になるところだ。


 さて、今の内に作戦を考えておくか。まず、立ち回りは2パターン考えられるな。初手でケテルさんが怪しいといきなりぶち込むか、それとも市民の議論の流れを作ってくれるのを待つか。


 前者のパターンは、ハイリスクハイリターンが見込める。人狼はいきなり使命されたことで少なからず何か反応を示すだろうし、神は慎重に行動するべきだと言う思い込みから、人狼視点でこの人は神ではないと思ってくれるかもしれない。


 ただ、答えを知っているからこそ特攻ができたなんてパターンも考えられてしまうかもしれない。そうなったら、勝手に自爆するだけのアホな神だ。


 後者は安定性があるけれど、1度誤った議論の流れになって、それで固まり始めたら覆すのは難しい。覆すムーブをした時点で、人狼に神だとバレてしまう可能性がある。


 これは先程のゲームでビナーがやらかした失態だ。ビナーはもっと早い段階で議論に参加して流れを一緒に作るべきだったのだ。最初のゲームだからそのミスを責めるつもりはない。むしろ、失敗例というデータを作ってくれたことはありがたい。次につなげることができる。


 やはり、安牌は誰かの議論に乗っかることだな。これは神以外でも議論に乗っかることはあるし、それだけでは意外とバレないかもしれない。


「それでは、ゲームスタート」


 そうこう考えている間に全員が役職の確認を終えて準備を終えてゲームがスタートした。ここでショコラが取るべき行動は――


「私は佐治様が人狼だと思います」


 さっきの思考はなんだったのかと言いたくなるような、暴挙に出ることだった。心理戦とは、地雷を踏み抜かないように歩んでいくようなもの。その最初の一歩を踏まずにタップダンスを開始した。


「いや、ショコラちゃん。それはない」


 獅子王さんが即レスで否定する。やはり、佐治さんがロマンチストではないことが共通認識のようだ。


「おいおい、獅子王君よお。白で見てくれるのは嬉しいけど、そんなキッパリ否定しなくてもいいだろ」


 このゲームは白認定された方は複雑な気持ちを抱えてしまうゲームだ。疑われなくて良かったと思う反面、少しは疑えよって気持ちがせめぎ合うんだろうな。


「いえ、獅子王様。私は佐治様は意外と女性の気持ちがわかる人だと思いますよ。彼女とのデートの時にお花屋さんに寄って、プレゼントを買うくらいのことはすると思います」


 まあ、佐治さんは実際にするかもしれない。ただ……


「佐治ちゃんはその彼女のプレゼントを買う時に、花屋の可愛い店員に目移りするような奴だ。わたくしはそんな奴をロマンチストだと認めたくない」


「獅子王! てめえ! 正解だよこの野郎!」


 浮気性の佐治さんは置いといて、思った通りの反応をしてくれる獅子王さん。ここまで来ると内心ほくそ笑んでしまう。ここまで上手くハマってくれるとは思わなかった。


 ショコラの作戦は……全く関係ない人物をそれっぽい理由をつけて殴り、それを全く関係ない別の市民に否定させることだ。


 今回のケースで言えば、佐治さんをロマンチストだとそれっぽい理由を付けて殴れば、獅子王さんかアウルさんのどちらかがそれを否定してくれると思ったからだ。結果は、佐治さんに対してのツッコミのあたりが強い獅子王さんがやってくれた。


 この一連の流れを見て、人狼のケテルさんは何を思うか。それは後で彼女に答え合わせをするとして、型破りなこの作戦が成功することを祈るだけだ。


「まあ、僕も佐治はないと思うので、別の人物に焦点を当てましょうか。白確定の佐治はどう思う?」


 アウルさんにもロマンチストだと思われてないようで、メンバー間からは負の意味での信頼を得ている佐治さん。


「そうだなー……獅子王君、アウル君とウチのメンバー全員はないとして、やはりゲストのお三方が怪しいかな」


 よし、疑いの目を向けられている中にケテルさんが入っている。ショコラとビナーまで疑われているのは少し痛手だけど、このゲームの特性上仕方ないか。


「僕もそう思うかな。じゃあ、一旦はその3人に多めに話してもらって情報を落とす方向性ってのはどう?」


「え? アウルさん……その、私たちの中に人狼がいなかったらどうなるんですか?」


 ビナーが不安そうな声色でアウルさんに問いかける。


「時間はまだある。3人が議論した結果、人狼に繋がる情報がでないと思ったら、1度全員をフラットに戻して再度、議論すれば良いかな」


 白い人物が白目だとあげた人物を除外して、残った人物で殴りあう。一般的な人狼でもよく見られる展開だ。その中から投票するかどうかは別として、情報を落とす手段としては結構強いんだよな。このゲームでそのセオリーが通じるかどうかはわからないけれど、人狼に慣れてるっぽい人が進行してくれるのはありがたい。


 ショコラ、ビナー、ケテル。この3人の議論でどうにかして、ケテルさんの黒い要素をさりげなく出させたい。それと、ショコラが神であることもバレてはいけないから発言には気を付けないとな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る