第268話 爆発炎上の神「過労死しそう」
本格的にコンテストの作品制作に取り掛かる前に、ショコラでの配信活動をしようと思う。なにせ、今回は賀藤 琥珀名義での参加だ。ショコラとして参加するわけではないので、ショコラブのみんなに応援してもらうことはできない。黙って、しばらく配信を休止することになるから、その前にせめて1本だけでも配信をしたい。
「みな様おはようございます。バーチャルサキュバスメイドのショコラです。本日プレイするゲームは、不思議なダンジョンシリーズ。所謂ローグライクゲームというやつですね。ダンジョンに入る度にレベルがリセットされるのが特徴で、キャラクターが成長するのではなく、プレイヤーが成長するのがゲームクリアの鍵になる感じです」
『オチは読めた』
「オチってなんですか。そんなフィクションの世界じゃないんだから、オチとかありません。これは、現実の配信なんですからね!」
あんまり前置きを長くしすぎるのもアレなので早速始める。セーブデータが全くない真っ新の状態からスタート。ゲームをプレイするために新しいセーブデータを作成するのだ。なにせ、このゲームは完全なオートセーブ機能付き。昨今の優しいオートセーブと違って、全滅してアイテムを全ロストしても強制的にオートセーブされるので、むしろ不親切の極みと言っても良い。ゲームは現実と違ってリセットすれば元通りというエアプ発言があるが、元通りにならないゲームもあるのだ。
操作キャラクターは最下層にある財宝を狙っている商人である。モンスターが
「早速ゲームが始まりましたね。この商人は武器商人の癖に武器の持ち込みをしないんですかね」
『売り物の剣が傷物になったら商売にならないからしょうがない』
『勝手に商品を持ちだしたら横領の罪に問われるからね』
「横領……この商人って個人事業主じゃなかったんですか?」
『商品として仕入れたものを私的に利用したらダメでしょ』
「確かに正論ですね。武器屋の癖に武器の調達ができないのはそういう理由があったんですね」
『俺も自動車工場に勤めているけれど、会社から自動車が支給されたことはないぞ』
「そんなパン工場で働いている人が、余ったパンを貰うみたいなノリで自動車はもらえないでしょ」
そんな雑談をしながらダンジョンを進んでいくと早速、第一村人……もといモンスターを発見。雑魚モンスターのイメージがついてしまったスライムが現れた。
「武器持ってませんけど、スライムに勝てるんですかね? どう見てもあのボディは打撃無効のソレなんですが」
『デブに腹パンしてもダメージが通るのと同じよ。ぷよぷよしてたからって打撃無効なわけないだろう。常識的に考えて』
コメント欄の理屈に納得してしまった。神経が通っていればそりゃあダメージは食らうに決まっている。
「その図太い理論は中々面白いですね。気に入りました」
商人とスライムの肉弾戦が始まった。お互い殴るだけの単調な戦い。それを制したのは商人である。流石に最初の敵を倒した程度ではレベルは上がらないか。
「倒す時間を短縮するためにも武器が欲しいですね」
RPGでは、武器と防具をどちらを先に購入したらいいのか。そういうのは良く議論の論争になるけれど、それに対する見解を述べている記事を読んだことがある。序盤は武器を新調すれば敵を一撃で倒せることが多いから武器を優先。中盤から終盤にかけては敵の体力も多くなるので、長期戦を見越すとダメージ量を減らせて回復の手間がなくなる防具が有利だと。確かに理屈の上では通っているので納得してしまった。
まあ、このゲームは基本的に武器や盾は現地調達。ランダムに落ちているものを拾って装備するのが基本なので、武器と防具どっちを買おうかみたいな悩みはあんまり存在しない。一応、ダンジョン内にもショップの概念があるが、これも配置されている商品はランダムという中々の仕様だ。
「お、こん棒を拾いました。装備しますね。そして、丁度いいところにスライムがいます」
『拾ったばかりのこん棒の殴り具合を試させろ』
なんかジャイアニズムなコメントがあったけれど、気にせずスライムを殴る。武器の力は偉大なのでスライムを一撃で葬ることができた。
そして、経験値が溜まり、レベルが2に上がった。
「おお、レベルが上がりましたね。この調子でどんどん進んでいきましょう」
◇
ダンジョンを探索して階段を降りる。それの繰り返しで中層にまで辿り着いた。商人は現在、銅の剣、皮の盾を装備している。序盤ではまあまあの武器だけど、中層辺りからは厄介な敵も増えてくるので、もっと強い武器と防具が欲しい。
アイテムには余裕がある。回復アイテムの薬草、空腹を凌げるパン。それらが潤沢にあるので、このフロアを探索して良い装備を見つけたい。
攻撃力を下げてくるキノコ、攻撃を受けるとたまに分身してくる変なやつ。普段は眠っている無害なやつだけど、攻撃を加えると起きて襲い掛かるやつ。そんな敵をなんとかやり過ごして……ついに武器を発見した。
「お、あれはきっと良い武器ですよ。下層に行けば行く程良いアイテムが拾えるというのはゲームの常識ですからね!」
商人は意気揚々と武器に一目散に歩いていった。しかし、このゲームにはとある要素があったのを、忘れていた。それは……足元に設置された罠だ。商人はでっぱりの罠にひっかかり、転んでしまった。そして、持っていたアイテムを周囲のマスにぶちまけてしまうのだ。
「ああ! 貴重な薬草が散らばってしまいました。でも、アイテムはロストしたわけではありませんので、拾うのは後回しにしましょう。先に武器の回収を……」
そう思って、前に進んだら……突如商人の足元が爆発してしまった。地雷の罠。商人に瀕死の重傷を負わせて敵やアテイムなど周囲のオブジェクトを消滅させる凶悪な罠だ。
「あ!」
『これを待ってた』
『これを見に来た』
『予定調和』
『知ってた』
『わざと爆発するな』
コメントの流れが加速した。地雷のダメージは痛いけれど、幸いこれは即死トラップではない。落ち着いて回復をすれば問題はない……が、ダメ。
「ああ、回復アイテムがありません……地雷の爆風で吹き飛ばされて消えてしまいました」
『草。薬草だけに草』
『油断する方が悪い』
『たった1行動の過ちで生死が分かれるんだよなあ』
「で、でも。このゲームには自動回復の概念がありましてね。ターン経過と共にHPが少しずつ回復するんです。敵に遭遇さえしなければ……」
目の前にいるのは、ゴースト。ダンジョン内の壁を貫通して移動する敵。障害物を避けてプレイヤーを追いかけるという鬼ごっこではチート級の強さを持つ。当然今の武器では一撃で倒せない。
ショコラは賭けに出た。会心の一撃が出てゴーストを一撃で倒せることに。しかし、そう都合よく地雷を引けても会心の一撃が引けるわけがなく……ゴーストの反撃によって、商人は絶命。ショコラの冒険はここで幕を閉じたのだった。
「やっぱり、でっぱりと地雷を同時に配置するような罠の仕掛け方は法律で規制するべきです。こんなのインチキですよ」
『壺が割れなかっただけ有情』
『ショコラちゃんの爆発炎上を引き当てる能力も十分インチキレベルなんだよなあ』
そんなインチキな能力は欲しくなかった。このゲームは、プレイヤーの腕に依存する部分は確かにある。けれど、運要素で今までの積み重ねが一気に台無しになるという恐ろしい一面も含んでいるのだ。上級者はその不運を出来る限り避けるように立ち回れるというのだけれど……どうやら、俺はその域に達せないらしい。
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