第249話 あばよ、イギー
俺は爬虫類の理解を深めるために爬虫類が登場するゲームをプレイしたくなった。そこで調べてみたところ、蛇のキャラクターを使ってオンライン上で対戦ができるゲームがあることを知った。そんなわけで、俺はこのゲームを配信することにした。
「みな様おはようございます。バーチャルサキュバスメイドのショコラです。みな様。突然ですが、蛇は好きですか?」
『嫌い』
『好き』
『どちらでもない』
『うなぎの方が好き』
「はい。私もうなぎの方が好きですね。本日プレイするゲームはスリザー。蛇を操作して大きく育てるゲームですね。早速やっていきましょう」
ゲームはブラウザ上で動くので
HTMLを覚えたての初心者が作るような無駄にカラフルな蛇。じっくり見ると目が痛くなりそうなので、あんまり直視しないようにしよう。
「この光っている玉みたいなものを取れば大きくなるんですよ。まずはこれを集めてこの子を大きくしましょう」
『サキュバスが細長いものを太く長くする配信と聞いてきました』
『大体あってる』
玉を集めていると他の蛇と遭遇した。この蛇はNPCではなく、同時にプレイしている他のプレイヤーだ。
「うわ。出ましたね! こいつを食べてあげましょう!」
このゲームは対戦要素もある。この蛇は、自分の頭が他の蛇の胴体にぶつかると死んでしまう。自分の胴体なら死なないで胴体を貫通して進行する。つまり、敵の進行方向に自分の胴体を這わせてやれば、頭がぶつかって倒せる。そして、倒された蛇は今まで集めた玉を吐きだしてしまう。それを吸収してまた大きくなれるのだ。
相手の進行方向に先回りして胴体を差し出す。しかし、この蛇はマグロの如く常に動き続けている。止まることはない。敵の頭が胴体にぶつかる寸前で、敵は尻尾の下を素通りした。そう、進みすぎて胴体の長さが足りずに相手をぶつけることができなかったのだ。
「む……この攻撃をかわすとは流石ですね! ならこれならどうですか!」
俺は大きく旋回して、敵の後をストーキングした。しかし、その尾行の距離が近すぎたのか、敵も旋回して胴体をこちらに差し出して来た。
「うきゃ!」
急な方向展開に対応できずに、俺の蛇の頭が敵の胴体にぶつかってしまった。そして、ゲームオーバー。俺の蛇がいた場所には俺が今まで集めていた光の玉が散乱している。そして、それを回収する俺を倒した蛇。どうやら相手の方が1枚上手だったようだ。
「ぐぬぬ。やりますね。でも、次は負けませんよ」
『サキュバスが棒状のものに負けてて草』
『女は触手に勝てない。サキュバスとて例外ではない』
『触手じゃなくて蛇なんだよなあ』
『いやこれ蛇じゃなくてミミズだよ』
『蛇でしょ』
『アンチ乙。これはミミズ』
『どう見てもウツボだろ』
この謎生物が蛇かミミズかウツボかどうかでコメント欄が議論して勝手に伸びてきた。
「なんでこの生物の正体で揉めてるんですか。ショコラブ同士仲良くしてくださいよ。こんな蛇で喧嘩しないで下さい」
『はい、ショコラちゃんが蛇って認めたー。はい俺の勝ちー』
まだ続けるかこいつは……小学生か!
『僕はウナギの方が好きです』
まだ言ってるよこの人……
そんな言い争いを諫めている間に次のゲームが開始された。ゲームが終わるのが一瞬なら次のゲームに移行するのも一瞬。手軽に遊べるこのゲームは、結構ハマってしまいそうになる。
「さて、まずは順調に大きくしますよ」
また例によってスタート地点にある玉を確実に吸収していく。序盤の立ち上がりとしては多分大事なことなんだろうと思う。このゲームは自分の胴体がでかければでかいほど相手に当たり判定のデカさを強要させることができる。つまり、攻撃性を高めるためにも体は大きくした方が良い。
順調に玉を回収していると俺の蛇と同じくらいの大きさの蛇と遭遇した。敵を見つけたら即に狩りに行くストロング方式で行く! つまり、この蛇は犠牲者だ!
「お、餌発見! 早速美味しく頂いちゃいましょうか。ふふふ」
『エッッッッ』
『僕もショコラちゃんに美味しく頂かれたいんですけど』
先程と同じように敵の進行方向に自分の胴体を持っていく。シンプルながらにしてこのゲームの基本的な動きだ。敵は俺の攻撃を避け切れずに自ら首を突っ込んで死んでしまった。
「お! やりました! ついにこのゲームで初のキルをしましたよ!」
『おめでとう』
『キル数稼げてえらい』
爆発四散した敵の玉を回収しよう。そう思って俺はUターンをする。しかし、どこの世界にもハイエナ行為をする者はいる。俺が倒した敵の玉を別の誰かが回収しようとしていたのだ。このゲームは敵を倒したからと言って強くなるとは限らない。敵の
「ああ! それ私の玉です!」
俺は玉を盗まれないように急いで回収しようとした。しかし、その急いでいたのが良くなかったのだろう。ハイエナの胴体に俺の首が接触。爆発四散して死亡してしまった。
「ああ! な、なんてことを! 私の報酬を横取りした相手に負けるなんて二重に悔しいです!」
『わかる』
『このゲームではあるあるすぎること』
「このゲームは欲張ると死ぬ」
「そうですね。確かに欲張るのは良くないことかもしれません。もっと慈愛の精神を持ってこのゲームをプレイしましょうか。そんな、自分の報酬を横取りされそうになったからと言って心を乱してはいけません。これはそういうゲームなのですから」
命あっての物種とはよく言ったものである。何事も命があってこそ価値を見いだせるというもの。死んでしまっては、今まで集めた玉も意味をなさないのである。特にこのゲームはオワタ式。すぐに死ぬ分、大胆な行動よりも慎重性が求められるのかもしれない。
「さて、このゲームで最後にしますよ。この空間で最強になりたい」
俺はデカイ蛇になるべく、最後の戦いに赴いた。今までの死亡の経験を活かして上手に立ち回り、先程と比べて圧倒的に長いボディを手に入れることができた。
「おお、いいですね。この長い感じ。やはり大きさこそが正義」
今までで1番順調な滑り出し。そのせいで俺は気が完全に大きくなっていた。しかし、俺の画面に映る巨大な蛇、それを見た瞬間、俺はこの世には絶対に勝てない相手がいると悟ってしまった。
「ひ、ひい! なんなんですかあの巨大な蛇は!」
当然のことながら、胴体が長い方がこのゲームでは攻撃性が高いのだ。もちろん、大きくなりすぎると小回りが利かなくなる弱点はあるものの、元から操作が得意ではない俺は小回りが利かないタイプだ。ある意味、俺の場合は大きくなるデメリットはないのかもしれない。
「とにかく逃げましょう。今はやつには勝てません」
そう思って引き返そうとした次の瞬間。図太い胴が俺の進行方向を塞いでいた。
「ひ、ひい。なんですかこれ」
慌てて別の道を探そうとする。しかし、どの道を進んでも巨大な胴体がある。そして、俺はやっと状況を理解した。自らの尻尾を食らうウロボロスの如く、この蛇は同じところをずっとグルグルしていた。自分の胴体に当たってもダメージは受けない。つまり、このゲームは気軽に円形に動くことができる。
「そんな……どこにも逃げ場がないじゃないですか!」
『こうなったら相手を倒すしかない』
『え? この状態からでも入れる保険があるんですか?』
確かに相手を倒すしかない。頭が敵の胴体にぶつかれば死ぬ。それは相手も同じことだ。例え取り囲んでいたとしても、俺の胴体にぶつかれば死亡。それは不変のルールだ……俺は反撃のチャンスを静かに伺っていた。しかし、それが悠長なことであったと思い知らされる
「あれ? なんか段々狭くなってきてませんか?」
敵の円周がどんどん小さくなっていく。そして、中にいる俺は余計な圧迫感を覚える。そうか! こいつはずっとただ単に同じ周期を回っていたんじゃない! 徐々に徐々に自分の周回範囲を狭めていたんだ。中にいる俺を確実に圧殺するために。
「ぐぬぬ」
ここでセクシーなショコラは突如反撃のアイディアを思いつくということもなかった。動けるスペースがなくなるプレッシャーに耐えきれなかった俺はそのまま絞殺されてしまった。正に蛇のような戦い方。俺は蛇のなんたるかを学べたような気がした。
「不思議なことに、悔しいという気持ちは一切湧いてきません。なんというか……自分の見えている世界が段々と狭くなる。そんな世界の真理を垣間見たような気がしました」
ちょっと何言っているかわからない。自分でもそう思った。
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