第204話 潰し合えー

 一時は5位に転落したカミィも落ち着いた走りを見せて、2周目が終わる頃には3位となっていた。3位でも予選は突破できるから、このまま順位が変わらなければカミィの勝利である。しかし、何が起きるのがわからないのがマサオカートだ。その恐ろしさは、俺は身を以って味わったことがある。


「ラストスパート。いくよー。みんな応援コメント上げていこー!」


 カミィの掛け声にコメントも応えて熱量が上がっていく。ルビーを最大まで集めたカミィの速度は凄まじく、ついに2位になり視界に1位のスイカさんを捉えた。


『後ちょっとで1位。がんばえー!』


「応援あんがとー! がんばるからねー!」


 ここまで来たらカミィに1位を取って欲しい。しかし、スイカさんもやり手のようでバナナの皮をインコースに配置した。


「うわっ、ちょ、なにこれ! もー!」


 カミィは慌ててハンドルを切り、バナナの皮を避けた。咄嗟の判断力とドライブテクニックがなければ、確実にバナナの餌食になっていた。被害を抑える最小限の動きだったけれど、その分遠回りを強いられてしまった。スリップするよりマシとはいえ、このロスのせいで更に差がつけられてしまった。


 その後もやはり地力が違いすぎたのか、スイカさんに追いつけないままカミィはゴール。結果は2位だった。


「やった! 見たっすか! みんなー! あーしが②位! 予選通過したよ!」


『おおおおおおお』

『8888888』

『おめでとー!』

『風呂から上がったら本当にカミィが予選通過してて草』


 子供のようにはしゃぐカミィ。コメント欄も大いに盛り上がっている。やはり、カミィのファンが多い場なので、推しの勝利を素直に喜べるのだ。


「まあ、でもスイカちゃんには勝てなかったっすけどねー。準決勝で当たるかどうかはわからないけど、次はリベンジしたいねー」


 予選は無事に突破できたものの、やはり1位の壁は厚い。とはいえ、シード抽選権を持っていた相手に肉薄できるのはカミィもかなりの実力者だ。


ショコラ『おめでとうございます。カミィ様。決勝で会いましょう』


「ふぇ!? ショコラパイセンじゃないですか! 見に来てくれたんですか? あざす。一足先に予選突破したっすよ。凄いっしょー。へへ。ショコラパイセンもがんばってくださいね」


『決勝のレースに出るカミィと応援席のショコラ。確かに決勝で会えてるな』


 ショコラはこの場でもディスられてしまうのか。でも、俺だってこの大会のために練習を重ねてきた。予選突破するつもりでがんばるしかない。


「それじゃあ、あーしのレースも終わったことだし、残りの枠はカミィと大会運営の放送を同時視聴する感じで行くっすよ。第2レース以降に他の推しの子に会いに行きたいって言う人がいたら、そっちを応援してあげてねー。あーしは、束縛しないタイプだから。あは」


『そんなこと言われたら、残るしかない』

『乙カミィー』

『ちょっと浮気しに行ってきます』


 カミィに対して忠誠心を見せる者もいれば、あっさりと行ってしまう者もいた。本人が行って良いって言うなら、素直に行けばいいとは個人的には思う。


 ここからは本当にカミィのファン層が残っているし、ショコラはある程度親交があるとは言え、部外者であることには変わりない。居座ったら迷惑に思うファンもいるだろうし、ここは一先ず退散しておくか。



 再び、大会本部の放送に戻ってきた。全員ゴールしたようで、第1レースの決着はついた。


「第1レースが終了しました。1位はスイカさん。おめでとうございます。2位のカミーリアさんも良い走りでしたね。白熱した戦いでした。第2レースも期待してますよ」


 ヨハンさんが第1レースの感想を述べている。ヨハンさん。彼は一体何者なんだろうか。この大会を主催したってことは、それなりにマサカに対して造詣ぞうけいが深いと思うけど……やはり、レーサーとしての実力はそこそこあるのだろうか。彼のレートも不明だから実力の程もわからない。


「それでは、第2レースの人は準備してください。さて、準備の間、今回の注目選手について語りましょうか。やはり、みんなも注目しているのは、マルクトとケテルの同じ箱のコンビかな? この2人の熱い戦いに期待しているファンも多いのでは?」


『正直、これを観に来た』

『2人の視点の切り抜き編集した動画を早く見たい』


 ライブ配信の段階から切り抜き動画を所望する声が見えた。確かに、推しの勇姿は何度も見返したくなるのかもしれない。リアルタイムで見て、録画でもまた見返す気持ちはわからないでもない。


「準備ができたようですね。それでは、第2レーススタート!」


 今回のコースは、火山地帯だ。正直、俺はこのコースが苦手だ。落石を避けるのが難しいし、カーブもミスすると火口に落ちてロスが発生してしまう可能性がある。コースが壁で囲われていたり、コースアウトしたら減速で済むコースは、まだ良心的だ。すぐに落ちるコースを引いたら……ショコラの敗北が決定するな。


 そして、レースが始まった。それぞれのレーサーがスタートダッシュを決める。どの画面を見ていいのかわからないから、とりあえずマルクトさんの画面を見るか。順位は4位とまあまあの上位だ。セフィロトプロジェクトの中でも古株でそれなりにゲーム実況をやってきたから、ゲームの腕はやっぱりあるのだろうか。


 最初のアイテムの回収。マルクトさんは無敵になれるスターを拾った。マルクトさんは、それをすぐに使用した。スターは、移動速度が向上するし、敵と接触すれば敵を吹っ飛ばせる、更にほとんどの攻撃を弾くので、走攻守ともに完璧である。つまり、大当たりのアイテムの1つだ。


 マルクトさんは順調みたいだから、ケテルさんの方に視線を移すか。マルクトさんから遅れるも、ケテルさんもアイテムを回収。拾ったのは、サンダーだ。これを使えば、自分以外の相手に雷を落とすことができる。雷を食らった相手は、走りが妨害されるし、そこから復帰したとしても一定時間スピードが低下するという恐ろしい目に遭う。ハッキリ言って攻撃性能で見たら、最上位に位置している。


 ケテルさんは、拾ったサンダーをすぐには使わなかった。一体どういうことだ? 俺だったらすぐに使うのに。そう思っていて、しばらくするとサンダーを使った。全体の被害状況としては……あ、そういうことか。


 スター状態の相手がいると、サンダーがその相手に無効化されてしまう。だから、ケテルさんはマルクトさんにも妨害の手が行くように、マルクトさんのスターが切れるのを待っていたんだ。こういう戦術もあるのか……いや、しかし……わざわざ4位のマルクトさんをピンポイントで潰すために、発動を待ったりするのだろうか。俺だったら、12人もいる状態で1人1人の状態を確認していられないから、構わずサンダーを使ってしまうけど。


 サンダーの妨害で周りが遅くなったので、相対的に早くなったケテルさん。マルクトさんを抜いて4位になる。しかし、次の瞬間マルクトさんが赤い甲羅をケテルさんにぶつけた。攻撃を受けたケテルさんは、丁度火口近くだったので、そのまま火口下に落ちてしまった。雲の上に乗っている奇怪な生物に助けられたケテルさん。復帰したので再び走り出した。


 その後も、なぜかマルクトさんとケテルさんはお互いを潰しあっているかのようなプレイを見せた。その結果、2人とも順位が伸び悩み、ケテルさんが8位で、マルクトさんが10位という結果に終わった。セフィロトプロジェクトの2人組は予選で散ってしまった。


 続いての第3レースは、全員が順当な走りを見せて終わった。ティファレトさんとアウルさんが予選を突破した。知り合い2人が予選を突破できたのは素直に嬉しい。ティファレトさんも同じ箱の仲間の仇をとれて嬉しいだろう。


 そして、いよいよ第4レース……ショコラの番がやってきた。散々、負け確と煽られてきたけれど、ここで意地を見せてやる。番狂わせは起こるということをわからせてやるんだ!

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