第147話 ワードウルフ① お題提供者:ショコラ
・ワードウルフ(制限時間5分)
お題提供者:ショコラ
参加者:ビナー、カミィ、イェソド、コクマー
多数派:行方不明者 少数派:指名手配犯
「さて、最初の話題を提供していいかな? これを見かけたことはあるかい?」
初手はコクマーさんが動いた。その言葉を受けて、みんなの表情がぴくりと動く。既にゲームは始まっている。多数派でも少数派でも自分が疑われないように行動しなければならない。そのためなら、嘘をつくことだった許されているゲームだ。
「見かけたって言うのは……リアルの世界の話ですか?」
ビナーが質問を質問で返す。この定義はかなり重要なことだ。なにせ、バーチャルの世界では指名手配犯の方は全員見かけているのだから。
「バーチャルの世界や創作物の話をしてもしょうがないからね。実際に対面で見かけたことがあるかにしようか」
コクマーさんが定義を決めたことで、各々が話し始める。
「あーしは見かけたことがないかな」
「僕は自分が認知している範囲ではないかな。すれ違った人の個人情報なんて全て把握しているわけじゃないし、赤の他人を含めると見かけた中で“これ”に該当している人がいないとも言い切れない」
「確かに、イェソド君の言うことも一理あるな。“これ”についての情報を全て頭に入れている人もいないだろうし、知らない内に接触している可能性もゼロとは言えないね」
「ちょっとちょっと。メンズたち、頭硬いね。こういうのは適当に、ないって言っておけばいいっしょ」
確かにカミィの言っていることも一理ある。自分のお題の人に接触してないことは証明できない。なら、確実に“ある”と言えない限りは“ない”で通せばいいだろう。
「でも、近隣にこれに該当する人がいたら、ちょっとした騒ぎになると思います」
「あー。確かに。そんなに頻繁にあるわけじゃないけど、近隣住民に知らせる放送は流れるかもね」
ビナーとイェソドさんの話が上手い具合に合致した。けれど、それでも油断できない。お題を知っている身としては、どっちでも該当することだって知っているからだ。
「そだねー。あ、でも、あーしはこれのポスターが貼ってあったら、とりあえず見るかな。まあ、見た後にすぐに忘れるんだけどね」
「なるほど……私目線だと、放送という情報を出したイェソド君とポスターという情報を出したカミィ君の信頼が少し高いかな」
「えぇ! コクマーさんは私を疑ってるんですか!」
自分が疑われたことで焦り始めたビナー。両方のお題を知っている身としては、その情報を出したところで何の無罪の証明にもなっていないのに殴り合う材料になっているのが面白い。
「少し信頼値が高いって話だけでしょ。それに、コクマーさんも特に有益な情報は出してないと僕は思うけどな」
ビナーに援護射撃を入れるイェソドさん。予想外の反撃を食らったのかコクマーさんは含み笑いをする。
「おっと。信頼がある人物に撃たれるとは思わなかったな。確かに、私の無実はまだ証明されてないね。この調子で進めても
イェソドさんの煽りをきっかけに、コクマーさんが更に話を深掘りすることになった。こうして議論が進んでいくのは、お題提供者視点で見れば中々に面白い。
「みんなは家族が“これ”になったら、どうする?」
俺は思わず、吹き出しそうになった。これはかなり確信に迫る質問だ。行方不明者なら純粋に捜索して欲しいと思う。けれど、指名手配犯だとかなり複雑な気持ちになるだろう。逃げ切って欲しいという感情もあれば、自首して罪を償って欲しいも理解できる。上手く行けば、少数派の指名手配犯を炙る出せる可能性がある。
けれど、これは答える順番も重要だ。先に、多数派のみんなが答えたら、少数派は違和感に気づくかもしれない。そうしたら、嘘をついてもいいこのゲーム。少数派は多数派に合わせた回答をしてその場をやり過ごすこともある。最悪、少数派が対抗のお題に気づくこともありえる。
「あーしの家族はあんまり外に出ないからこれになる心配はないかな? だからあんまり考えられねえっす」
カミィが答える。お題を知っている俺ならわかる。カミィは多数派(シロ)だ。インターネットが発達した現代においては、引きこもりがサイバー犯罪をする可能性だってある。つまり、彼女が話しているのは“行方不明者”の方だ。
だが、このカミィの発言が少数派に違和感を与えたのならば、少数派も意見を引っ込めるかもしれない。いや、それともカミィの方をおかしい少数派だと糾弾する可能性もある。自分がどっち陣営かわからないから、どう動くのが正解なのか判断に困るのがこのゲームなのだ。
「なるほど。私は、家族と言うより、過去に恋人がこれになったことがある」
「えぇ!? そうなんですか!」
コクマーさんの発言にビナーがリアクションをする。俺はコクマーさんの恋人について知らない。行方不明者か指名手配犯か。どっちになったのかは知らないけど、後者はあまりにもセンシティブな話題すぎて言わないから前者か? ビナーのリアクションも少し大袈裟な気もするけど、まあありえる範囲とも言える。
「それを言うなら、僕はこれになりかけたことがある。生まれ育った場所が田舎だったからね。山で遊んでいる時にちょっとね……」
イェソドさんの爆弾発言にビナーが急に黙った。さっきは、コクマーさんの恋人についてはリアクションしたのに、イェソドさんにはリアクションをしなかった。俺の予想では、恐らくなにかに気づいて身を潜めようと思ったんだろう。今のビナーの胸中は穏やかではないはずだ。誰かがイェソドさんの発言をおかしいことだと指摘して欲しい。そういう思考に至っていると思う。
でも、残念ながらイェソドさんの発言には誰もおかしいと指摘しない。だって、多数派にとってはおかしくない発言なのだから。
「あ、時間だ。まだビナー君の意見を聞いてなかったけど仕方ない。投票は通話アプリのメッセージの方に、せーので一斉に投票する方式だ。みんな準備はできたかな?」
コクマーさんの合図で一斉に投票された。
コクマー:ビナー
イェソド:ビナー
カミィ:コクマー
ビナー:カミィ
「え? わ、私ですか!?」
「それでは、ビナー様。自分が渡されたお題を教えてください」
「私が渡されたのは“行方不明者”です……」
「え!?」
俺は思わず驚いてしまった。俺はてっきりビナーが少数派(ウルフ)だと思っていたからだ。
「ショコラ君。答えは……?」
「えっと……市民の負けです。ウルフが勝利しました」
ビナーがウルフではないとしたら、誰がウルフなんだ?
「みんな。ごめんね。僕がウルフなんだ。お題は“指名手配犯”さ」
イェソドさんの口から告げられる衝撃の事実。一体どういうことなんだ?
「なるほど。見事にしてやられたってわけだ」
「うん。途中で自分がウルフだって気づいたからね。コクマーさんが自分から話を振っておいて、自分の恋人が指名手配犯になったってエピソード話す訳ない。仮に事実だとしても、「そんわけあるかい!」で、自分への疑いを強めるだけだからね。僕がウルフなのに、今までの会話でみんなと会話が成立していたのも考えると、正当な理由で探されている人物かと思ったんだ。だから、お題は迷子かなーって思って最後にそっちに寄せたんだ」
「えー。なにそれヤバすぎでしょ。怖っ!」
イェソドさんの脅威のプレイングにカミィが恐怖を感じている。ただ、一方で解せないことがあった。
「ビナー様はどうして終盤の方になると黙られていたのですか?」
「私は……その、家族のことが大好きだから。もし、この家族の誰かが行方不明者になると思ったら胸が張り裂けそうで上手く話せなくなったんです」
「そうなんですか。ビナー様は心の優しい良い子ですね」
「ショコラママァ……」
「ってか、ショコラパイセン絶対、ビナーちゃんを弄るためにこのお題考えたでしょ」
「そ、そんなことはないですよー」
親子のスキンシップをギャルに邪魔されたところで次の問題に移行する。俺はもうお題を提供したので、残りは全て参加者側だ。
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