第148話 ワードウルフ② お題提供者:ビナー
・ワードウルフ(制限時間5分)
お題提供者:ビナー
参加者:ショコラ、カミィ、イェソド、コクマー
ショコラのお題:夢オチ
次のお題提供者はビナー。ショコラが引いたお題は夢オチになった。この時点で俺は対抗のお題もわからないし、俺が多数派なのか少数派なのかもわからない。自分のお題を透かしすぎずに他人の情報を落とさせるように上手いこと誘導したいな。
「それでは、ワードウルフ2回戦始めるよ。スタート」
コクマーさんの合図で、タイマーが動いた。初手は、どう動くべきか悩むところだ。
「みんなはこれを許せる?」
最初に動いたのはイェソドさんだ。質問が許せるかどうか……なるほど。イェソドさんの持っているお題は俺と同じ可能性が高くなったな。夢オチは好ましく思わない層も一定数いる。
「あーしは、賛否両論って感じっすかね。何の脈絡もなくこれをやられると逆に冷めるっつーか」
「私は、効果的にやってくれるんだったら文句はないかな。これに至るまでの過程や伏線がきちんとしてあるんだったら、むしろ称賛したいくらい」
「あー。確かに。わかりみが深いわー」
カミィとコクマーさんが答える。俺も答えないと怪しまれるな。
「まあ、これに関してはあんまり強いことは言えませんね。私の原点を辿ればこれに辿り着いてしまいますから」
ショコラの原点は夢魔であるサキュバス。他人に淫らな夢を見せる存在は、起きたら夢でしたっていうオチに繋がる。これが伝わってくれれば……俺は多数派側にいると言えるかもしれない。
「なるほど。確かにショコラ君の原点を考えれば、批判もできないし、称賛をするのも違うって言うのはわかる」
「確かにそだねー。コクマーさんの言うこともわかるってばよ。きゃは」
コクマーさんとカミィがショコラの発言に同調してくれた。
「ところで、イェソド君。キミは話題を提供した割にはあんまり喋ってないようだけど、どうかしたのかな?」
人狼用語で、怪しいと思う人物や情報が落ちていない人物を揺さぶることを殴る、殴りと言う。コクマーさんがイェソドさんに対して殴り、情報を引き出そうとする。イェソドさんはそれに対して「うーん」と考えている様子を示した。
「決定的に違う……とは言い切れないけど、今の発言にどこか引っ掛かりを覚えたんだよね。ショコラさんが“原点”っていう曖昧な言い方をしたのが気になる程度かな。それをちょっと考えていたんだ」
少しメタ考察が入ってしまうけれど、イェソドさんは前のゲームでとんでもない鋭い攻撃をしてきた。そのせいか、彼の発言に少し注意深くなってしまう。
「まあ、このゲームは考えるゲームである前に話すゲームだからね。僕も自分の意見を述べるよ。許せるかどうかと言えば、僕はこれが好きな方だから、多少雑にやられても粗があっても許してしまう方かな。と言っても、シリアス寄りの作品で最後の最後にこれをやられるとぶち壊しになると思うし、カミィさんとコクマーさんの意見もわかる」
ん-? なんだ。イェソドさんの発言に違和感があるな。夢オチを好きな方って言っている人は初めて見た。確かに、これまでの伏線がしっかりしてあれば、認められるっていう論調はわかる。でも、これそのものが好きっていう人はあんまりいないんじゃないか? でもなー。イェソドさんがただ単に変人の可能性があるからな。そこは突っ込んでもしょうがない気がする。他の2人もスルーしそうな雰囲気があるし、俺もそれに倣おう。
「うーん。しかし、情報が落ちないねー。この中に本当にウルフがいるんすか?」
「最悪なパターンとしては、またイェソド君が多数派のお題を理解して合わせているパターンだね。それをやられたら、決定的な判断材料がなくなって、運ゲー勝負にしかならないから困る」
「なんで僕前提なんですかねえ。コクマーさんだって最初のカミィさんの一言で自分が違うお題だって気づいて合わせた可能性もありますよね?」
バチバチに殴り合うコクマーさんとイェソドさん。同じ箱とは思えないくらい、お互い容赦がないな。もしかし、ここ不仲説とかあるんだろうか。と一般杞憂民並のことを考えてしまう。
「うーん。そうだ。あーしから1つ質問いいすか? これは現実で再現可能だと思う人いるー?」
カミィが何気にいい質問をしてきた。これまでのみんなの話をまとめると、全員なにかしらの物語の展開に関係するお題を持っているんだろう。その展開を現実で再現できるかどうか。それを言えば、話題が狭まる可能性が高い。
「私は、理論上は可能だけど現実的には不可能かなって思います」
「私はショコラ君の意見と少し違うな。ちょっと調べれば、可能と言えば可能だけど、やろうとは思わない」
「まあ、やろうとしたらただのヤバイ奴だからね。コクマーさんの言うことはわかる」
ん? なんだこの意見の食い違いは……? 夢オチなんて故意で起こせるのか? 確かに、夢は研究されていて、起きている間に起こった出来事を整理する特性を活かして、それ前提の行動をすれば見れるかもしれない。けど、それでも再現率は100パーセントじゃない。夢を見る確率が高くなるというだけで、どちらかと言うと「やれる・やれない」じゃなくて「できる・できない」の話じゃないのか? それなのに、コクマーさんとイェソドさんは故意で起こせる仮定で話している。
いや、わかった。これ、俺が
「まあ、これを故意に起こしたら、犯罪になりかねないっすよね」
わかった。3人が話しているお題が。
「そうそう。犯罪になるから現実的ではないと思ったんですよね」
すかさず、先程の失言を好意的な解釈してもらえるように、同調した。危なかった。ここで怪しまれたら終わってた。
今回の多数派のお題。それは、ショコラの“原点”でツッコまれなかったこと。そして、故意に起こしたら“犯罪”になる。夢オチと対をなす存在として違和感がないもの。つまり――
【爆発オチ】
しかし困ったな。対抗のお題がわかったのはいいけれど、票を集中させるスケープゴートが思い浮かばない。ショコラの“原点”発言でショコラは白寄りだと思われているのはいいんだけど……全員、失言らしい失言をしていない。ビナーみたいに途中で黙ってくれれば、そこに票が集中しているのに、みんなベラベラ喋るからなあ。
「おっと、もう時間だ。それでは投票タイムに行こうか。さっきと同じ方法でビナー君に少数派だと思う人物を入れてくれ」
まあ、少数派は俺なんだけど……誰に入れるべきだ? できるだけ票が集まりそうな人にいれたい。コクマーさんは……? 無理だ。コクマーさんは俺の意見を“否定”した。ウルフだったら、そんな強い手は使えない。自分がウルフだと気づいて対抗のお題がわからなかったら。ひたすらに“同調”するしかない。
だとすると、カミィかイェソドさんのどちらか……どっちに入れるべきなんだ――
「はい。最多投票者が決定しました。最多投票者はイェソドさんです」
ビナーがログを公開情報にした。
ショコラ:カミィ
カミィ:イェソド
コクマー:イェソド
イェソド:ショコラ
「あー。僕か。残念。ちなみに僕のお題は、爆発オチだったよ。これはどっちのお題?」
イェソドさん自身も自分が多数派か少数派かわかってないのか。まあ、今回は誰が決定的に怪しいみたいなものはなかったからな。
「えっと……爆発オチは多数派なので、少数派のウルフの勝利です」
「え、だ、誰? 狼ちゃんは誰っすか!」
「ごめんなさいカミィ様。私に与えられたのは【夢オチ】でした」
「夢オチ……あー。そういうことか。だから、現実的ではないと言ったのか。そこに気づくべきだったか。ショコラ君よりも、最初の立ち上がりが鈍かったイェソド君の方が怪しく見えたんだよな」
「そう! そこじゃん! また、イェソド君が合わせにきたなって、あーし思ったもん!」
「あー。あれが原因か。ごめん。もっと最初から会話するべきだったね」
多数派の村人たちが反省会を始めていた。その一方で俺は気になることがあった。
「ビナー様。これ、私を弄るためにお題を作ったでしょ」
「そうですね。ショコラママに爆発オチの方を引いて欲しかったんですけど……なんで夢オチ引いちゃうんですか!」
「私だって、ビナー様に指名手配犯引いて欲しかったですよ」
「ショコラママも私を弄ったってことで、おあいこにしませんか?」
「そうですね。お互いがお互いを弄ったことで手打ちにしましょう」
「「うぇへへへへ」」
反省モードの多数派に対して。なぜか親子でイチャついているウルフとお題提供者であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます