第146話 ワードウルフ 準備編

 全てのきっかけは、ショコラの娘であるビナーが生配信中に発した一言「ワードウルフをやってみたい」から始まった。


 ワードウルフとは、各人にお題となる言葉が配られるゲームであり、多数派のお題と少数派のお題にわけられる。例えば、参加人数が4人いたとしたら、3人が【ムー大陸】について話し合い、1人だけ【アトランティス大陸】について話し合うと言う感じだ。


 このゲームの面白いところは主に2点あり、お題が対になっていたり、近しいものであること。そして、最大の特徴である自分でも多数派か、少数派か、どっちかわからないというところにある。通常の人狼では自分が少数派のウルフであることは、役が配られた時点でわかる。しかし、このゲームは最後の最後まで自分がどちらの陣営か明かされないのだ。投票が終わり、そこで初めて答え合わせが行われる。自分が多数派だと思っていたのに、少数派であった事象やその逆も起こりえる。こいつ絶対ウルフだろって思っていたのが、単なる解釈違いで意見が違っただけのパターンもあり、最後まで気が抜けないのが面白いところなのだ。


 ビナーの一言に、たまたま配信を見ていたセフィロトプロジェクトのイェソドさん、コクマーさんがコメント欄で参加を表明した。この時点で3人。マルクトさんとケテルさんがほぼ同時に参加を表明して5人。なぜか、2人がまたもや同時に辞退して3人に戻る珍事が発生した。


 一応、専用のアプリを使えば、お題と配役をアプリ側が勝手に決定してくれるので、3人でも開始することは理論上は可能である。しかし、ワードウルフは参加者の1人が抜けて、その人物がオリジナルのお題を出すという方式もある。3人だとそれが不可能なので、もう少し人数が欲しいという話になった。現状では、女性1名、男性2名。この状況で男性Vtuberを更に追加するとビナーが肩身を狭い思いをするだろう。ということで、なぜかビナーと親交がある人物としてショコラが選ばれた。


 しかし、これには問題がある。世間的にはショコラは女性寄りの性別不明で通っているから違和感がないのかもしれない。けれど、魂の性別は思いっきり男女比が男性側に偏っているのだ。ビナーも、ショコラが女性だと思い込んでいるのであればそれは問題ない。けれど、俺としては女子1人だけという状況に気を遣ってしまうかもしれない。だから、もう1人女性Vtuberが欲しい……ということで、ショコラと親交がある女性Vで呼び出せるのは、カミィしか思い浮かばなかったので彼女にコラボの打診をかけたのだった。


 カミィはあっさり了承してくれたので、これで5人揃いワードウルフをやるのに丁度いい人数になった。ワードウルフは理論上、参加人数を無限に増やせるが大体グダグダになるのがオチである。会話に参加するのは4~6人くらいがゲームバランス的に丁度いいと個人的には思う。


 打ち合わせの結果、1人が参加者から抜けてお題を出して配る人になり、5人全員お題を回したら終了。つまり、全体のゲーム数は5回で個人としては、4回参加できるということになった。


 お題は一旦、ビナーのマネージャーに提出し、そこで問題や被りがないかをチェックしてくれる。このメンツでやる人物もいないと思うけれど、センシティブなお題を出さないように気を遣わなければならない。それに、万一同じようなお題が被った場合に動画としての見映えが悪くなる。そういうところにまで気を遣えるとか、流石企業勢は違う。


 しかし、どういうお題にしようか悩む。このゲームの面白さはお題によってかなり左右されてしまう。1番避けたいのは、最初の一言でウルフが誰かわかってしまうことだ。それはそれで、面白い展開にはなると思うけれど、それはゲーム本来の楽しみ方ではない。例えるなら、ハードルを飛び越えるのではなく、くぐって進む行為だ。


 それを避けるためには……うーん。近しい方のお題で攻めた方がいいのか? 氷と水……ダメだ。硬いかどうかって話が最初に出たら詰む。できるだけ共通項が多くて、わかった時に「あー」ってなる面白いやつを考えたい。


 【風神】と【雷神】。ダメだな。これじゃあ、どっちか見えただけで対抗のお題がわかってしまう。それはそれで面白くない。自分のお題から対抗のお題を推理するのも楽しみの1つでもあるし、それがすぐにわかるとドキドキ感が薄れる。例えば、自分のお題が【プリン】だったら、対抗のお題が【ヨーグルト】か【ゼリー】、はたまた別の何かかって探り合いができるくらいの要素は欲しい。


 【サメ映画】と【ゾンビ映画】。うーん。悪くはないけど、どっちも同じようなもんだろ。それに、みんながみんな映画を観ているとは限らない。全員映画を観ているメンツって確定しているならいいけど、それがわからないからボツ。


 色々と考えた結果……俺は、参加者を弄ることに決めた。弄りの対象はもちろん、娘であるビナーだ。どうやって弄るのか……ビナーは賞金首という設定だ。つまり、お題の1つを【指名手配犯】にする。そして、もう1つのお題は……悩みに悩んだ既に【行方不明者】にした。


 しかし、一応犯罪が関係あるのでセンシティブな判定を食らわないか心配だ。だから、一旦ビナーのマネージャーに送って判定がセーフかどうか確かめることにした。教えてもらったビナマネの連絡先にお題を放り投げた。


 後日、ビナマネから返信が来た。普通に通ってた。過剰に心配し過ぎていたようだなあ。まあ、無事に通って良かった。もう1度考え直すのは流石に面倒だ。


 そして、収録当日。俺はショコラになり、通話アプリでみんなと繋がった。ビナーとコクマーさんはこの前コラボしてたし、イェソドさんとカミィも俺にとっては知らない仲ではない。3人は同じ箱内だけど、カミィはあんまりこの箱と親交がないからアウェイ感が強そうだ。それにも関わらず出てくれて感謝しかない。


 全員揃ったので、動画の収録がスタートした。各々がそれぞれのV特有の独特な挨拶をして、コクマーさんが進行役を買って出てくれた。


「今回の企画はワードウルフです。ビナー君の発案で開催することになりました。みんな集まってくれてどうもありがとう。それでは、早速ルールを説明しようか」


 コクマーさんが懇切丁寧にルールを説明してくれた。参加者たちは既にルールを知っているので、これは視聴者に向けての説明だ。


「それでは、最初のお題を出す人物をこれからルーレットで決めよう。私の画面……みんなに映ってるかな?」


 俺のディスプレイにルーレットのアプリが映し出された。円が5等分されていて、それぞれが色分けと名前分けされている。円の上部には矢印が示されていて、ここに止まった人物がお題提供者ということだ。


「大丈夫です。見えます」


「同じく」


 コクマーさんの確認にビナーが答えてから、他のメンバーも次々に共有できている旨を伝えた。無事に全員画面が共有できたところで次に進む。


「それでは、ルーレットをスタートさせるよ。ほい」


 コクマーさんがカチっとマウスをクリックするとルーレットが動き出した。十数回の回転の後に、段々と動きが鈍化していきやがて止まる。矢印が指し示していた人物は……


「私ですか」


「うん。ショコラ君。キミが一番手だ」


「一番手ですけど、実質お休みみたいなものですけどね」


 不参加者を決めるルーレットなので、別に当たったところで嬉しくない。むしろ緊張する。お題が不評だったら嫌だぞ。


「では、ランダムにお題が配られるから、みんな画面共有と音声をオフにしていることを確認してから開いて欲しい……うん。全員オフになってるね。それじゃあ、配ります。確認が終わったら、全員私にメッセージを送って欲しい」


 画面共有はもちろん、音声もオフにしないとリアクションで大体想像ができてしまう恐れがある。それを防ぐための処置だ。しかし、俺はこの時間暇すぎる。


「全員の確認が終わった。それでは、今から5分間の話し合いをして誰が少数派のウルフか当てます。タイマーは画面に共有してあるから、参考にして欲しい。ショコラ君は会話に参加できないから、適当に後方腕組みを頼む」


「はい。後ろでニヤニヤしながら待ってます」


「それでは、ゲームスタート」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る