第109話 豆腐って美味しいよね

「さて、みんな原木を集めたね? それじゃあクラフト画面を開いて原木を木材に変換してね」


 マルクトさんの指示に従って、クラフト画面を開き、スタックされている原木を木材に変換した。1つの原木から4つの木材に変換できるのはなんだかお得な感じがする。


「「できました」」


「じゃあ、次は木材を4つ使って作業台を作って欲しいんだ。この作業台があると、クラフトの幅が広がるの。これで道具ツールを作れるようになるの。そのツールを使えば効率良く素材を集められるんだ。そして、集めた素材を使って、またツールをアップグレードしたり、集めたブロックで家を建てたり自由に遊べるゲームなの」


「へー。中々難しそうですね」


「そうだね、ビナーちゃん。でも、慣れたら自分だけの遊び方を探求できるし、大勢で集まってプレイするのも楽しいゲームなの。ある程度ソロプレイになれたら、セフィロト鯖に遊びにおいでよ。待ってるから」


「ありがとうございます。早く先輩たちに追いつけるようにがんばります」


 セフィロト鯖。セフィロトプロジェクトのライバー達が集まっているサーバーのことだ。そこには先輩たちが既に建築した建物が沢山あり、賑やかで楽しい場所なんだろうなと思う。こうした先輩たちが築き上げてくれた土台があるのは、事務所に入って良かったと思う点かな。私1人じゃ絶対に造れないようなものもあるし、他人の建造物を見るのも楽しそうだし。


「木材が余っているなら、木のツルハシを作った方がいいよ。材料は木材から作れる棒と木材を重ねれば作れるから。その木のツルハシで石を掘って、今度は石のツルハシを作って道具をアップグレードさせていくのが基本的な流れなんだ」


「そうですか。ありがとうございます。早速作ってみますね」


 私は作業台を置き、それでクラフト画面を開いて木のツルハシを作ろうとした。慣れない作業に戸惑っていると、またもやプレイヤーがダメージを受ける効果音が流れた。


「お命ちょうだい!」


「ちょ、ケテル! アンタ! 誰が木の剣を作れって言ったの!」


 ケテルさんが木の剣を持って、マルクトさんに斬りかかっている。マルクトさんは突然のことに対処できずに戸惑いウロウロとしている。


「私の仇ィ!」


「あ!」


 マルクトさんのキャラが倒れて、消滅してしまった。マルクトさんは先ほどもケテルさんから殴られていたので、そのダメージが蓄積していた。その影響もあってか、ケテルさんに倒されてしまったんだろう。


「悪は滅びました」


「ケテルゥ! 後で覚えておきなよ!」


 お父さん。お母さん。今日も私の職場は平常運転です。


「ビナーちゃん。石を採掘したら、今度は石の斧を作って、それで木を沢山集めて。ケテルは自由行動で良し。その辺の洞窟に入って、野垂れ死んでね」


 復活したマルクトさんが指示を出してくれている。さっき作った木のツルハシで石ブロックを採取して石の斧を作った。その斧で木を切ると素手の時とは比べ物にならない速さで木が壊れていく。


「わあ。こんなに楽に木が切れるんですね」


「鉄の斧やダイヤの斧になるともっと早く切れるよ。鉄とダイヤは手に入れるのがちょっと手間だから、また次の機会だね」


 マルクトさんは近くの砂浜を掘って砂を集めている。一体なにをしているんだろう。砂ブロックが貴重な資材になったりするのかな?


「とりあえず、木材を集めたらそれを配置して家を作ってみようか。とりあえず、単純な形でいいから床と壁を作って」


「はい」


 マルクトさんの指示に従おうとした時、システムメッセージでケテルさんがゾンビに倒されたと表示された。本当に自由に行動してたんだ。


「マルクトー! 洞窟に潜ったらゾンビに襲われて死んだんですけど」


「暗いところは敵が沸くこともわかんないの? 十分な装備と光源を持たないまま潜るのは自殺行為なんだよ。これだから初心者は」


「はい出ました。経験者マウント。そうやって、自称中級者、上級者様が初心者を虐める環境は新規が入って来なくなるんですよ」


「そう思うんだったら、経験者の教えを素直に聞き入れなさいよ」


「だって、この鬼教官は初心者のミスに厳しいから嫌なんです。間違って攻撃しちゃっただけなのにカウンターしてくるし」


「どう考えてもさっきのはわざとでしょうが!」


 マルクトさんとケテルさんが、いつもの喧嘩をしている間に私は木材ブロックを使って家を作った。


「マルクトさんできました」


「おお、狭いけどきちんと家のていは成してるね」


「えへへ。ありがとうございます」


 なんだか褒められて嬉しい気持ちになった。私はハク兄と違って、芸術的なセンスはないし、工作も苦手だったからちゃんとできているかどうかは不安だったけど。なんだか少し自信がついた。


「うんうん。ビナーちゃんは素直でいい子だね。どこかの誰かさんとは違って」


「誰かさんって誰ですか? マルクトのことですか?」


「お前だよ!」


 マルクトさんのアバターがケテルさんをペシっと叩いた。


「あ、やりましたね! 私には木の剣が……あ、ない」


「ははは。バカめ! 死亡したらアイテムはその場に落としてしまうのだ!」


 武器がない状態でマルクトさんに一方的に殴られるケテルさん。あっと言う間に倒れて、また消滅してしまった。


「じゃあビナーちゃん。話の続きだけど……」


 何事もなかったかのように話を変えるマルクトさん。もう、ケテルさんに触れようともしていない。


「真四角の建造物は、豆腐ハウスって呼ばれていてバカにされることもあるんだ」


「そうなんですか?」


「もちろん初心者の内は豆腐ハウスでも全然問題ないよ。だから、今は全然気にしなくていい。でも、やっぱりライブ配信するんだったら、豆腐ハウスを卒業できるように頑張りたいよね」


「うーん……私に建築ができるのかな。こういうの苦手なんですよね」


 セフィロト鯖の建造物は凄いものがたくさんある。そんな中で私が豆腐ハウスを建築したら、それが浮いてしまう。先輩たちががんばって築き上げてきた景観をぶち壊しかねないのだ。


「とりあえず、色んな建造物を参考にして自分で建ててみるといいよ。こういうのは慣れだから。いきなり独創的なことをしようとしなくてもいい。少しずつ成長してくれたら、それでいいから」


「はい。ありがとうございます。マルクト先輩」


 マルクトさんは本当にいい先輩だ。私の面倒を見てくれるし、優しいし。本当に、ケテルさんさえ絡まなければ良き先輩なのに。


「あ、そろそろ日が暮れて来るころだ。夜の過ごし方も教えるね。夜になると敵が沸くから、どこか安全な場所を作って朝まで待つといいよ。安全な場所の作り方だけど、家を作るのがその手段の1つ。家はビナーちゃんが作ってくれたのがあるね。ここで朝まで過ごそうか」


「はい」


「夜でも松明たいまつとかで光を作れば、敵の沸き潰しができる。だから、家を作るんだったら、灯りも必要なんだ。今回は私が松明を作っておいたから、それを設置するね」


 マルクトさんが家の壁に松明を設置してくれた。


「ありがとうございます。色々と覚える仕様が沢山ありますね」


 私に覚えきれるのだろうか。大亜兄みたいに頭が良ければ、こういうのもスっと覚えられるんだろうけど。


「私はケテルの様子を見に行ってるからちょっと待ってて」


 マルクトさんは私の豆腐ハウスから出て行った。


「ケテル。アンタは家がないから、穴を掘ってシェルター作って敵をやり過ごしな」


「シェルター?」


「とりあえず真下に3ブロック分穴を掘って」


「こうですか?」


「真上に土を被せて蓋をすれば、とりあえず敵に襲われることはない。私が塞いであげる」


「え? あ、ちょ、なんで? ダメージ食らって? え?」


「あ、ごめんごめん。土と間違えて砂を落しちゃった。砂ブロックに埋まると呼吸ができなくて死ぬんだった」


「あなた! 絶対わざとやったでしょ!」


 テラクラの世界に初めての夜がやってきました。マルクトさんとケテルさんの2人は激しい初夜を過ごしそうです。

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