第106話 再生数って100以上になることあるんだね
作業を開始してから数時間が経過している。今までの実況スタイルとは大幅に変えて慣れない作業が続く。でも、不思議とその作業は苦じゃない。琥珀君の改善点を元に俺なりに編集をがんばってみた。琥珀君の言う通りに編集したら、なんだか見やすくなったような気がする。やっぱりテンポがいい動画は見ていて気持ちが良い。
トークロイド。入力した文字を機械が喋ってくれるという優れものだ。これのパッケージイラストにイメージキャラクターが描かれていて、このキャラクターが結構人気なのだ。基本的なプロフィールしかないのにも関わらず、二次創作界隈も賑わっている。自由なキャラ付けができるが故に、ユーザーのみんなが協力してキャラクターを創り上げていく楽しみがあるのだ。
俺が今回購入したのはトークロイドの【
動画に使うコトネの立ち絵素材は自分で描いた。もちろん、立ち絵素材はフリー素材で沢山出回っている。手間を考えればそれを使っても良かったのだけれど、俺は自分の動画だけの強みというものを出したかった。フリー素材の立ち絵は確かに便利だけど、もし他動画と使用素材が被ってしまったら動画の個性が失われてしまう。個性が強みになる時代。この動画にしかないものに刺さってくれれば、その人がリピーターになってくれるかもしれない。
動画を見に来てくれる目的が“俺”である必要がない。オリジナルのコトネの絵が誰かに刺さって、その絵を目的に来てくれればそれを足掛かりに再生数が伸びる可能性がある。
大丈夫。俺ならやれる。現に俺はカミィのイラストを描いて成功したじゃないか。カミィが伸びたのは、莉愛の功績によるところが大きいかもしれないけれど……実際そうだけど。俺だって少なからずイラストで貢献はできたはずだ。自信を持て。俺の絵には集客力がある。もう自分の絵に誇りを持てない自分とは決別したんだ。
視聴者のことを考えた動画作り。視聴者が何を目的にこの動画を開いたのかそれを意識しなきゃ視聴者は結局離れてしまう。今回のケースで言えば、投稿者である俺を目的に来る人。そんなものは皆無だ。それは自分でもわかってる。誰も無名の実況者になんて興味がない。琥珀君が教えてくれたことだ。
だとすると単純にゲームのネームバリューとサムネで釣るしかない。有名タイトルは動画数も大きく再生数が分散しやすい。結局、同じゲームタイトルなら贔屓にしている実況者のところにいくのが視聴者だ。ゲームのネームバリューだけで勝てるほど甘い世界ではないことは、俺のしょぼくれた再生数が痛感している。
だとすると残ったのはサムネだ。織部 コトネのトークロイド実況だとわかるようなそんなサムネにする。自作のコトネイラストを全面に押し出して……否、それは悪手だ。コトネが全面に押し出されすぎるとゲームタイトルが見えなくなる。だからコトネ要素とゲームタイトルが分かる要素を7:3くらいにしてみよう。
そう言った微調整を繰り返していきその日が終了した。作業は次の日に持ち越しか。今は最初だから仕方ないけど、これから先はスピードも重要視しないとな。1本の動画を作るのに時間をかけすぎていたら、大手の動画に負けてしまう。
翌日、収録したゲーム動画を見ながらセリフを考えて、コトネに喋らせる。その音声データを動画に乗せる。この作業も中々に骨が折れる。当たり前のことだけど喋らせると時間が経過する。時間が経過しすぎるとゲームが次のシーンに移り替わる。次のシーンが見所で解説したい内容があるなら、そっちを喋らせたい。でも、コトネが前のシーンの解説をしている途中だと競合してしまう。喋る分量やテンポも考えなしじゃ良い動画は作れない。
後は間かな……ずっと喋りっぱなしだと情報量が多く、見ている方も疲れてしまう。かと言って、無言の時間が長いと見ている方が退屈になってしまう。効果的な間の使い方。それも意識しないと独りよがりな動画になってしまう。このバランスが実に難しい。
そうした調整に告ぐ調整の結果。ついに動画が完成した。俺は早速動画を再生させた。
「初めまして。織部 コトネです。本日は草原活動をやっていきます。よし、やるぞぉ~」
ロビーでマッチングを待っている時間。そこも収録していたのだが、ハッキリ言って面白い部分がないので丸々カットした。ということで、動画の画面は飛行機からのスタートだ。
「まずは市街地に降ります。おっと。何人か一緒に降りてますね。ちょっと位置を上昇させて降りるタイミングをずらしましょうか。あえて、相手より遅く降りて、相手にアイテムを取らせます。どうせ後で物資を奪う予定なので拾って来てもらいましょう」
プレイヤーキャラが上空を泳ぎ位置を変えている。
「ちょっと市街地の中心から離れたところに降りましょう。まあ、大体降り立った位置で誰がどの武器を狙っているのか大体わかります。なので競争率が低い建物に乗り込んでまずは武器を充実させます」
こうしてプレイヤーキャラが地上に降り立った。無駄がない動きで近くに小屋に入る。小屋を開けて1秒。すぐに小屋の扉を閉めて隣の建物に移る。
「はい。アイテムが落ちてませんでしたね。探索するだけ無駄です。知っている人が多いと思いますが、このゲームはアイテムが落ちている可能性がある場所は固定されてます。その位置にアイテムがあるかどうかの確認は秒で済ますようにしてください……とか言っている内に武器を発見しましたね。すぐに拾います」
我ながら流れるような動きで銃を構える。近くに人の気配がないので少し中心による動きをする。この時の思考としては、そろそろみんなアイテムが充実してくる頃だろうと踏んでいたので狩りを始めようという考えだった。
「早速第一村人発見です。相手は後ろを向いてますね」
そんなセリフを言い終わる前に相手は既に頭を撃ち抜かれていた。
「はい。初キルです。多分相手は死んだことにも気づいてないでしょう。キルした人の名前は……ショコラさん? 例のVの人じゃないですよね……?」
プレイヤーキャラが物陰に隠れる。そして、ショコラさんの死体が確認できる位置取りをする。
「ショコラさんは動きに迷いがあったので、多分初心者だと思います。初心者がこの短時間でアイテムを充実するほど拾えているとは思えないので、あえて戦利品は漁りません。逆にショコラさんの死体を漁りに来た人を……」
銃声が鳴り響く。ショコラさんの死体に近づいた人を撃ち抜いた。
「はい。2キル目です。この人もあんまりいいアイテムは持ってなさそうですね。では、近くの建物に入って芋スナイパーを狩っていきますか」
その後も市街地に降り立ったプレイヤーを次々に狩っていきアイテムを補充させた。
「さて、そうこうしている間に最後の1人ですね。位置的には……安全エリアギリギリのところにいますね。多分走っても逃げ切れる位置にはいないでしょう。わざわざ私が手を下すまでもないです」
縮小する安全エリア。最後に残った相手は無情にも毒ガスエリアに放り込まれた。終盤の毒ガスのダメージはバカにできなくて、あっと言う間に敵の体力を削っていく。
こうなってしまっては、もう毒ガスから逃れることはできない。
「はい。勝ちました。対戦ありがとうございました
動画を確認して特に問題がなさそうだったので投稿した。投稿してから1時間後、気になった俺は動画を確認してみた。すると、再生数が既に1,220もついていたのだ。
「え……嘘だろ」
思わずそう呟かざるを得なかった。再生数が2桁が当たり前だった俺には3桁になるのですら衝撃的だったのに、1時間ちょいで4桁になっているだと……再生数って100以上になるんだ。都市伝説かと思ってた。
なんにせよ。俺にしては順調な滑り出しだ。この調子を保って少しずつでもいいから動画を伸ばせていけたらいいな。
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