第105話 草原活動③

「よし、やるぞぉ~。見事に1位を取ってショコラちゃんすげえでコメント欄を埋め尽くしてあげますよ」


 建物も降り立っている人もそこそこいるエリアにショコラが降り立つ。とりあえず、俺の腕でもキルが取れることがわかったから積極的に戦っていこう。初戦は運が悪すぎただけだ。相手は多分プロ級の腕を持っている。あんなの実質負けイベントでしょ。


 ショコラは早速近くの小屋に入った。小屋の中には誰もいなくてアイテムが漁り放題だった。


「これはシャベルですね。また近接武器ですか」


 先程のレンガとクロスボウと言い、さっきから銃に恵まれていない。銃を撃ちあうゲームなんだから、そろそろ銃が拾いたい。そう思って探索を続けていると、金属の筒状のなにかが落ちているのを発見した。これは間違いない銃だ。


「お、銃が落ちてます。やったー。本日初の銃です。これはAK-47ですね。性能はそこそこですね。優秀だけどトップクラスではない感じが序盤に丁度いいです」


『おお、いいね』

『終盤まで使える良武器』

『クロスボウ拾え』


「クロスボウはありませんね。クロスボウガチ勢の人ごめんなさい。今日の相棒はこのAK-47です」


 とりあえず取るものを取ったしこの小屋から出よう。このまま小屋で待ち構えていて、小屋に入ってきたプレイヤーを即キルする芋虫スナイパーになってもいいけど、それではあまりにも動画映えしない。


 ショコラが小屋から出ようとしたその時、窓の方に一瞬なにかが横切ったのが見えた。


「今見えました? 誰かいますよ」


 窓の方に近づくと足音が聞こえてきた。近くに誰かいる。ショコラがAK-47を構える。


「窓から撃ち抜いて見せますよ」


 照準を窓に合わせる。緊張の瞬間だ。敵が窓の近くに来た瞬間に撃ち抜いてみせる。そう息こんでみるが手汗が凄いことになっている。コントローラーを持つ手が震える。タイミングを見計らって撃つ。失敗すれば敵に気づかれるという相応のリスクもある。正に命がけだ。


 窓に人がちらりと映った。今だ!


「あぁ! いた! 食らえ!」


 銃声が鳴り響く。しかし、照準が若干ズレていたのか弾が当たってない。別方向を向いていた敵がこちらに気づいた。そして、こちらに近づいてくる。逃げるのではなく近づいてくるということは、俺が完全に舐められているということだ。こいつのエイムじゃ当たらない。暗にそう言っているのだ。


「舐めプされてますね。いい度胸じゃないですか」


 敵がこちらになにかを投げてきた。そのなにかは地面に着弾すると爆発した。


「うわ! ちょ、手榴弾じゃないですか! そんなもの使うなんて卑怯ですよ!」


 そこそこダメージは受けたが、死に至るまでにはならなかった。もうちょっと位置が右にずれていたら危なかった。


『惜しい』

『チッ』

『相手が配信終わらせようとしてて草』

『お相手はショコ虐勢だったか』


「もう怒りました。そんなもの投げるひとにはこうです!」


 AK-47をもう1度撃つ。今度はきちんと頭を狙う。ヘッドショットだ! 心地いい銃声と共に敵がその場に倒れてキル数が1増えた。見事ヘッドショットで倒すことに成功したのだ。


「見ました? 今、ヘッドショットが決まりましたよ? これはもう神エイムじゃないですか!」


『神エイムなら最初の一発で決めてる定期』


「最初の一撃を外したのは撮れ高のためですよ。みんな、ドキドキハラハラしたでしょ? ちょっとしたお遊びですよ」


『お、そうだな』

『なんだーそうだったのかー』

『視聴者のことを考える配信者の鑑』

『さすショコ』

『ゲームで遊ぶな』


「それでは、みな様お待ちかねの戦利品確認タイムです。なにを持ってますかな」


 手に入れた戦利品はクロスボウとレンガだった。あれ? この並びどこかで見たことがある。


「ロクなアイテムがありませんね」


『クロスボウとレンガは草』

『相手も引きが悪いな』

『さっきのショコラちゃんで草』

『クロスボウに謝れ』


「まあ、とにかく。このままどんどんキル数を稼いでいきますよ。隠れてやり過ごすのは性にあってませんからね」


 ショコラは周囲を見回した。そこで車を発見したのだ。


「お、車がありますね。これに乗って市街地に向かいましょうか」


『あっ……』

『配信はもう終わりですね』

『乗るな! ショコラ! 戻れ!』


「いやいや。みな様、車って言うのは人間よりも頑丈なものなんですよ? そう簡単にやられるわけないじゃないですか。もっと文明の利器を利用すべきなんです」


『あーあ』

『あーあ』

『あーあ』


「なんですかこの怒涛の『あーあ』コメは! 私が車を運転しちゃいけないんですか! こうなったら意地でも運転しますよ」


 運転席に乗り込むショコラ。このまま道なりに真っすぐ進んでいこう。そう。真っすぐに。


 マップを見れば市街地まではこのまままっすぐ行けば辿りつける。複雑な道をしてないのは助かる。


 全速力で車を走らせていると前方に壁が見えた。そろそろカーブしないと危ないな。迂回して進まないと。


「あれ? どうやってカーブするんですか? これ」


『草』

『あーあ』

『あーあ』

『どうして車に乗ったんですか?』


 カーブの仕方が分からなかったので仕方なく壁に思いきり激突した。車が少し損傷したけど、まだ大丈夫。壊れるまでには至ってない。


「とりあえず車は止まりましたね。まあ、結果オーライです」


『ブレーキ(物理)』

『なにを見て結果オーライって言ったんですか!』

『俺、教習所の教官やってるけど、ショコラちゃんにはうちの教習所来て欲しくない』


「まあまあ。落ち着いて下さい。所詮ゲームの車は壊れなければ動くので」


『壊す前提は草』

『初見です。どうしてみんなは焦ってるんですか?』

『古参のショコラブは間違いなくひやひやしている』


「まあ、とりあえず動かしてみます。バックしますね」


 ショコラが車をバックさせたらキル数が1増加して2になった。


『無意識に人轢いてる』

『キル数稼げてえらい(白目)』

『蟻を踏みつぶす感覚で人を轢かないでもらえます?』


「えーとカーブはこれですかね?」


 車が思いきり前進して本日2回目の衝突。


『こわいこわい』

『車から降りてもろて』

『もう歩いた方が早くね?』


「そろそろ本格的にやばいですね。でも大丈夫。今度こそ曲がれます。人……じゃなかった。サキュバスは進歩できる生き物なんです」


『なんでさっきからカーブできないの? 曲がったことが大嫌いなの?』

『ショコラちゃんは真っすぐだなあ』


「ぐおおおお! ぶつかる! ハンドルを右に!」


 ここでショコラが乗っている車が右に曲がることに成功した。


「やった。曲がれました。もうこれ私が優勝で良くないですか?」


 喜んだのも束の間銃声が聞こえてきた。


「え?」


 車が動かなくなってしまった。これは一体どういうことだ?


『あ。もうこの車は終わりですね』

『タイヤパンクした?』


 そして、次の銃声が聞こえたと同時に……ショコラが乗っている車が爆発した。慌てて車から降りるも火だるまになったショコラがその場に倒れて画面が暗転した。


【ショコラは車の炎上に巻き込まれて死んだ。あなたは19人目の死亡者です。残り80人。】


「はい。というわけで、約束通り本日の配信はここまでとなります。中時間お付き合いいただきありがとうございました」


『草』

『あーあ』

『本当に終わってて草』

『だから乗るなって言ったじゃないですかー!』

『2回の衝突がなければ、銃弾1発程度なら耐えてましたね』

『まーたサキュバスメイドが炎上している』

『今日は原点回帰の回ですか?』

『丁度初期の運転回を見てたからタイムリーすぎて笑いが止まらない』


 コメントが流れている中、俺は配信を終了させた。配信終了後もその余韻が残っているのか数十秒間はコメントが勢いそのままで流れ続けていた。

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