第90話 ダーツ上手い人ってかっこいいよね
今日は学校の宿題もないし、師匠からの課題もない。つまり、自由だ。ゲームでもやろうかと思ったけど、地雷を除去したばかりでまたゲームをするのも飽きてしまう。それに、今度Hiroさんこと勇海さんと一緒にゲームをする約束をしている。だから今はゲームの気分ではない。そう、唐揚げと同じで毎日やっていればゲームも飽きるのだ。中には飽きない猛者もいるかもしれないけど、俺はその領域には到達できない。
ということで、空いた時間に雑談配信することを突発的に決めた。SNSで告知。動画サイトの方にもリマインダーを設定して、雑談の準備をする。話すネタから段取りを決めて配信を開始した。
「みな様おはようございます。バーチャルサキュバスメイドのショコラです。本日は私の配信に遊びにきてくれてありがとうございます」
既に待機していたショコラブのみんなのコメントが一気に流れる。当然のことながら1人1人を目で追うのは不可能なことだ。それだけショコラというキャラが人気な証拠で嬉しい。だが、その反面複雑な想いもあるのだ。ショコラの販売数も人気とは裏腹に頭打ちとなっている。Vtuber活動を始めたての頃は全然販売数が伸びないと思っていたが、アレでも伸びている方だったのだ。稼いだ金額で言えば、ビナーが頂点で次点でセサミ。ショコラは1番思い入れがあるのにも関わらず最下位という結果である。
「私はこの前友達と一緒にダーツをしに行ったんですよ。あ、ちなみに友達は同性です」
ここで三橋と一緒に遊びに行ったエピソードを話す。テスト期間中に遊んでいたとか色々な情報は伏せておく。
「そこでですね。隣でプレイしていた大学生くらいの人だったかな? その人が滅茶苦茶ダーツが上手かったんですよね。投げ方が……こう、スタイリッシュで格好いい感じでしたね」
その人の動きを真似てみる。と言っても所詮、俺は素人なのであの人の動きは再現できなかった。
『ダーツとか陽キャの遊びだろ』
『イケメンにのみ許された競技なんだよなあ』
『今揺れなかった?』
『揺れたな……スカートが』
「私も友達もその人の見様見真似で投げてみたんですけど、中々上手くいかなかったんです」
その後、名前も知らないその人が声をかけてくれて投げ方を教わったけれど……その話は今はする必要はないか。
「やっぱりダーツが上手い人に憧れますね」
『ぼく ダーツ うまい うそじゃない ほんとう』
『ちょっとダーツとボードを買ってくる』
『ダーツやろうぜーおまえ的なー』
「いつかダーツやる動画とか出してみたいですね。バーチャルな世界でも出来るようにならないかな」
兄さんならそういったものを作れるだけの技術はあると思う。今はマネジメント業務をやっているとはいえ、元々はバリバリの3Dプログラマーだった人間だ。その技術はまだ衰えてないと思う。とはいえ、兄さんに手伝わせるのもなんか忍びない。折角、大金を手に入れたんだからこのお金を使って、そういったプログラムを外注するのも有りかもしれない。多分経費で落ちるだろう。
◇
雑談配信でダーツのことを話した翌々日。家で寛いでいると宅配便が届いた。兄さん宛ての荷物のようだ。兄さんが仕事から帰ってきたら渡そう。
数時間後、疲れ切った様子の兄さんが帰宅した。
「ただいま」
「おかえり。兄さん。荷物が届いているよ」
「荷物……? ああ、アレか。ありがとう琥珀。なあ、この箱の中なんだと思う?」
「うーん……洗剤?」
「なんでそうなるんだよ」
「だって、もうすぐ洗剤切れるし」
「確かにそうだけど、通販でわざわざ買わないな。箱の中はこれだよ」
兄さんは箱を開けて、中の物を取り出した。そこにはダーツのセットが入っていた。
「え?」
俺はあまりにもタイムリーなことすぎて驚いた。配信でダーツのことを語ってすぐに兄さんがダーツを購入したのだ。こんな偶然あるのだろうか。
兄さんがダーツをやっているなんて話は聞いたことがない。兄さんの職場でダーツが流行っているのだろうか。それとも……やっぱり女の影響か? そうなのか? 兄さん。
「琥珀はダーツやったことないだろ? 後でやってみるか?」
「え? ああ、うん。気が向いたらね」
なぜか俺はダーツを未経験なことで通した。そりゃあ、テスト勉強サボってダーツやったことが万一にもバレたら色々と問題だからな。間違いなく母さんに怒られる。俺はあの日は友達の家で勉強してたことになってるんだ。
「ふー」
バスタオルを首にかけたお風呂上りの真珠がリビングにやってきた。
「あ、なにそれ! もしかしてダーツ?」
真珠がダーツに食いついた。流石、賀藤家の中でも活発なスポーツ少女。この手のものには食いつきが良い。
「ああ、そうだ。ちょっとやってみたくなって買ったんだ」
「へー。大亜兄がダーツを……ねえ、大亜兄ぃお願いあるんだけどぉ」
急に猫なで声を出す真珠。どこでそんな声の出し方を覚えてきたんだ? やっぱり彼氏持ちはそういう声を出せるようになるのだろうか?
「ん? 真珠もやりたいのか? いいぞ」
まだお願いの内容も言ってないのに察する兄さん。まあ、このタイミングでお願いと言ったらそれくらいしかないだろう。察しの悪いやつでもわかることだ。
「わーい。ありがとう大亜兄」
「琥珀も一緒にやるか?」
「んー。俺は忙しいからパス」
「そうか。残念だな」
この後、師匠とメッセージのやり取りをする約束があるのだ。最近の師匠は様子がおかしいし、放置すると面倒なことになりそう。
はしゃいでいる真珠を尻目に見て、俺は自室へ向かった。
パソコンの電源を入れると既に師匠からメッセージが来ていた。まだ約束の時間10分前だと言うのに随分と早いことだ。
Rize:Amber君。この前のオフ会は楽しかったな
Amber:ええ。そうですね。また師匠に会いたいです
Rize:そうか。ならば、また私の家に来るか?
Amber:そんなに何度もお邪魔したら迷惑じゃないですか?
前回は料理を振舞われる都合上、師匠の家に行く必要があった。けれど、そういった動機がない以上は気が引けてしまう。
Rize:迷惑だなんてそんなことはないぞ
Amber:一人暮らしの女性の家は緊張してしまうんですよね
Rize:それはつまり私を女として意識しているってことか?
Amber:ん? 師匠は女性ですよね?
Rize:そうじゃない……そうじゃないんだよAmber君……
なんか師匠との間に微妙なすれ違いを感じてしまう。師匠は俺に何を伝えたいんだろう。
Rize:そうだ。Amber君。今度の日曜日に一緒にダーツをしに行かないか?
Amber:あ、すみません。その日は友達と約束があるんで無理です
Rize:そうか。私も直近では他に空いてる日がないな……残念だ
Amber:すみません。折角誘ってくれたのに
Rize:気にしないでくれ。先約があるなら仕方のないことだ
しばらくは師匠に会えそうもないのか。まあ、こうしてネット上でやりとりできるからいいか。
◇
「もしもし。リゼ? どうしたの? こんな時間に」
「ああ。真鈴か? すまないな夜遅くに……日曜日暇か?」
「え? やだよ」
「まだ何も言ってない」
「どうせ1日かけて私に説教するつもりでしょ! その手には乗らんぞ!」
「今回はそんなことしない」
「じゃあ別の日に説教するつもりだー。鬼! 悪魔!」
「とりあえず落ち着け。ただ、ちょっとな……その、ダーツの練習したくてな。一緒にやりにいかないか? ちなみに他のメンバーも誘う予定だ」
「んー。夕方までならいいよ。夕方から仕事あるし」
「そうか。仕事前に付き合わせてすまないな」
「うん。そうだね」
「そこは否定するところだぞ」
「そうなの?」
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