第88話 地雷除去

「みな様おはようございます。バーチャルサキュバスメイドのショコラです」


 最早、何回やったかすら覚えていない挨拶をする。今日は、配信ではなく動画の収録だ。配信はリアルタイムでみんなの反応が見れる反面、ストーリーや解法のネタバレが目に入ってしまう可能性がある。今回はそれを避けたいがために、動画で収録という形を取っているのだ。


「本日はとっても面白いゲームをプレイしたいと思います。その名も地雷除去。マス目をクリックして地雷を除去していくゲームです。それでは実際にやりながら説明していきましょう」


 このゲームは小学生の頃やっていた記憶がある。解き方も覚えているので、いつものような爆発オチには絶対にならない自信がある。俺の神的なスーパープレイを見せつけるためにも、ここは解法をネタバレされる心配のない収録でやっているわけだ。


「それでは、まずは初級から始めます」


 ゲーム画面にマス目が表示される。俺は、その中で適当なマスをクリックする。すると、その周囲のマスが一斉にオープンされる。この最初の一気にマスが解放される瞬間がなんとも気持ちがいい。


「はい。これでゲームスタートですね。空いたマスには何も書かれていないマスと、数字が書かれているマスがあります。この数字の意味は、このマスの周囲に埋まっている地雷の数を現しているんです。例えば、1と書かれていれば上下左右斜めのどこかに地雷が1個埋まっています。2と書かれていれば周囲の2マスのどれかが地雷ということです」


 基本的なゲームのルールを説明する。要は周囲の数字のマスをヒントに、地雷を探し当てるゲームなのだ。


「このゲームは地雷を押したらその時点でゲームオーバーです。クリア条件は地雷があるマス以外の全てのマスをクリックしてオープンできたらクリアです。要は地雷を押さないようにマスをクリックして開けていくゲームですね」


 俺はマウスカーソルを1と書かれている周辺のマスに持っていった。


「はい。ここの1と書かれているマス。この周辺にある空いてないマスは1個しかありません。つまりこの右下にあるこれは完全に地雷です。間違ってもクリックしないようにしましょう」


 俺は地雷があるマスにマウスカーソルを持っていった。そして、右クリックを押した。


「地雷があると思う場所を右クリックすると目印の旗を置くことができます。この目印は視覚的に地雷の位置をわかりやすくするだけでなく、クリックしても爆発しないようになります。要は『地雷確認ヨシ!』というやつですね。安全のために必ず置きましょう。ガチ勢ともなると旗禁止の状態でクリアする猛者もいるとかいないとか。私はそこまで、このゲームをやりこんでないし、やりこむつもりはないので素直に旗を使って甘えます」


 基本的なルールと操作説明が終わった。ここからが本当のゲーム開始だ。


「続きをやっていきましょう。この1の下にまた1がありますね。この周囲には空いてないマスが3つあります。そして、この1の右にはさっき特定した地雷が埋まっています。つまり、この左下と右下にある空いてないマスはセーフということです」


 俺は躊躇ためらうことなく、マスをクリックした。当然、爆発するはずがなくマスが開いていく。順調な滑り出しだ。


「この調子で次々と開けていきましょう」


 俺は逐一解説をしながら地雷を除去していく。本来なら、さっさと開けてしまいたいところだけど、これは実況プレイ動画だ。無言でプレイしていては撮れ高がない。この部分の話はつまらないなとか冗長だと感じたら、倍速かけたりカットすればいいだけの話だ。とにかく、沢山話して損することはない。


「これが最後の1個ですね。えい!」


 俺は掛け声と共に最後の1マスを開けた。当然それが爆発するはずもなく、演出と共にクリア画面に移行する。


「はい。というわけで無事に初級編をクリアしました。まあ、当然ですよ。私はメイドですから。地雷でもなんでもお掃除はお手の物です。いつまでも爆発炎上キャラをやっているわけにはいきません」


 ここ最近……最近なのか? ほぼ最初からだったか。ずっと爆発や炎上を起こすとコメント欄が沸き上がってしまう。みんなが盛り上がってくれるのはいいんだけど、あんまり変なイメージがついてしまうのも好ましくない。盛り上がるならもっとプラスの方面で盛り上がって欲しい。


「では、恐らく中級も簡単なので上級編に行ってみましょうか。さあ、地雷さんたちは私の頭脳を上回ってくれるんでしょうか。えいっ!」


 クリックすると開きますがパァっと広がる。初級に比べてマスの数も爆弾の数も格段に多くなった上級編。より複雑で高度な思考を求められることだろう。


「それでは先程と同じようにマスをどんどん開けていきますね」


 地雷を除去する時の基本は、まずは分かりやすいところから確定させていくことである。1つ確定すると、もう1つ別の何かが確定する。その積み重ねが重要なのだ。


 だが、そうやって攻めていても最終的にクリアできるどうかは運次第ということもある。どんなに論理的な思考を用いても地雷の位置が確定できないということがあるのだ。


 近年ではそういう運ゲーパターンを排除するように作られている地雷除去ゲームもある。だが、俺が現在プレイしているゲームはそんな親切設計はついていない。運次第では最後に2択を迫られることがあるのだ。


「まあ、順調ですよ。慎重にやればこんなもの間違えようがありません」


 俺は調子に乗ってどんどん地雷を除去していった。しかし、物事の終わりというものはやってくる。映画のクライマックスで、爆弾魔が仕掛けた爆弾を解除するシーンもやってくる。そう、なぜか決まって赤い線と青い線をどっちを切ればいいのかわからない。そういう展開になるお約束があるのだ。


2□3

2□□

13□

 1□


「ええ……」


 そう。運ばかりは論理的思考ではどうにでもならないのだ。特に角。角には魔物が潜んでいる。マインスイーパーに慣れている人ならこの盤面を見ただけで絶望感を共有してくれることだろう。右下の角とその上。どっちかに地雷が仕込まれているのに特定することができないのだ。


「ちょっと待ってくださいよ。私が今日の収録のためにどれだけ練習したと思ってるんですか。練習の時に1回も引かなかった運ゲーパターンをどうして本番で引くんですか」


 ここまで来ると最早意味が分からない。だが、この2択を制してこそ、真のメイドと言うものだ。爆弾を掃除する。それこそがメイドの務め。それを果たしてみせる。


「多分、右……ですかね。うん。上ですね。間違いない。こういうのは上を選んでおけばいいんですよ。上昇志向が大事ですから」


 俺は少し悩んだ結果、直感的に上を選んだ。その結果はコメントを見れば察してもらえるはずだ。


『知ってた』

『このパターン引くまで撮り直したんですか?』

『概要欄に一発撮りって書いてあるからガチだぞ』

『また景気よく爆発しましたね』

『上級の最後でこれは心が折れる』

『解説聞いてもわからん』

『なんでわざわざこのゲーム選んだんですか? フラグ回収するためですか?』

『またお屋敷ないなった』

『初級編に爆発させなかった方は偽者なんですか?』

『ショコラのそっくりさんだから。爆発させない期間が長くなると映す価値なしになる』


 うん。まあ、その撮り直すこともできた。けど、一発撮りを謳っている以上は、そんな不誠実めんどうなことはできないのだ。結果不名誉な動画が残ったとしてもだ。


 というわけで、本日の動画もまた地雷を踏み抜いて終わってしまったのだった。

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