第9話 後輩Vtuberはギャル吸血鬼

 おどろおどろしいBGMがスピーカーより流れる。後ろに色んな拷問器具が置かれている薄暗い部屋に少女がいた。深紅の釣り目で、金髪のサイドテール、派手な赤いドレスを着ている少女。彼女が、画面に向かって牙を見せて笑いかける。


「ようこそ、我が城に招かれし下等なニンゲン共よ。我の名前はカミーリア・アンデルセン。宵闇よいやみの国の吸血鬼だ」


 カミーリアと名乗った少女が画面に妖艶に微笑みかける。そして、口元を手で覆ったかと思いきや、いきなり満面の笑みを浮かべて手を叩き始めた。そして、南国にいるかのような気分になれる軽快なBGMが流れる。


「なーんちゃって。どう? 雰囲気でてた? あーしの本職はギャル。副業で吸血鬼やってます! あれ? 逆だったかな? まあどっちでもいいや。あ、そうそう。あーしのことは、カミィって気軽に呼んでくれていいっすよ。まあ、どうしても様付けで呼びたい下僕根性があるドMくんはカミーリア様って呼んでいいけどね」


 個人勢Vtuberのカミーリア・アンデルセン。一応、活動開始時期的にはショコラの後輩になる。ショコラ名義のアカウントで俺が交流しているVtuberの1人だ。SNSで交流があるのに自己紹介動画を見ていなかったなと思い出して、今見ているところだ。


「えっとね。自己紹介すんね。みんな。あーしの年齢はいくつに見える? あは。いきなり超難問かな? そうだね。こういうこと訊く女って面倒くさくね? って思うよね? でも、あーしは面倒な分、ちゃんと愛情を持って接してくれる人には尽くすタイプだから。まあ、尽くしすぎて安っぽいとか言われてフラれるんだけどね。あは」


 よくしゃべる女の子だな。ここまで息継ぎ1つしてないぞ。


「吸血鬼だから結構歳言ってるように見える? 400歳とか? それくらいだと思う? 残念。16歳でした。人間で言ったらJKの年頃。犬で言ったらババアの年齢。そんな微妙な年齢の吸血鬼ギャルっすわ。きゃは」


 吸血鬼と言ったら普通、人間の寿命を超えている年齢をイメージするけれど、この子は見た目のまんま16歳なんだ。斬新すぎる。


「身長はナイショ。乙女に聞くようなことじゃないっしょ。あ、でも体重は50kgだから」


 なぜ、身長は隠して体重は公表する。しかもやたら、リアルな体重だな。そこはサバを読んで40kg代にしても良かったのに。


「好きな食べ物は、ニンニク! 趣味は、川で泳ぐこと! 飼っている下僕はオタク君! オタク君は絵が上手いから、あーしのイラストを描いてくれるんだよ。たまにSNSにオタク君が描いた絵をアップするから、そっちも見て」


 吸血鬼と言えば、高貴で厳かで格が高いイメージがあったけれど、カミィはそういうイメージをぶっ壊している。あえて、フィクション世界の吸血鬼の不文律を崩しているスタイルかもしれない。


「あーしは今、眷属を募集してるの。あーしの眷属になれたら楽しいよ。毎晩、あーしの城でパーティするの。ダンパ、タコパ、乱パ。あ、最後はコンプラ的にまずいか。てへ。眷属になりたかったら、あーしのチャンネル登録やSNSのフォローをよろしくね。アカウントは概要欄に貼ってあるから。要チェック!」


 そして、エンディングが流れて動画が終了した。まあ、あれだ。SNSのキャラ通りだったな。


 チャンネル登録者数は804人。SNSのフォロワー数は910人。こうして数字だけ見るとショコラの伸びっぷりが異常だと改めて思う。カミィと始めた時期にそこまで差があるわけでもないのに。


 とは言っても、ショコラが伸びたのも、切り抜き動画がまとめサイトに掲載されたお陰だ。もし、あの切り抜きがなければ、ショコラは埋もれていたかもしれない。そう考えると切り抜いた人に感謝しかない。


 動画を見終わった後、俺はSNSのチェックをした。すると、1件のダイレクトメッセージが届いていた。送信元はカミーリア・アンデルセン。なんともタイムリーなタミングでメッセージをよこしてきたものだ。


『やっほー! ショコラ先輩。お元気ですかー? 先輩凄いっすね。チャンネル登録者数1万人おめでとうございます。本当は、あーしも記念生放送にお邪魔したかったけど、パーティで行けなくてごめんね。記念ファンアートをアップしたから、見てくれると嬉しいな。じゃね』


 ファンアート来た! しかも同業者からのファンアートだ。これは嬉しい。どんなファンアートか早速確認しに行こう。


 俺は、カミィのアカウントを開いた。すると、そこには画像つきの投稿がされていた。


『ショコラ先輩。チャンネル登録者数1万人突破おめでとうございます。オタク君に記念絵を描かせました』


 その文言と共に、美麗なイラストが投稿されていた。ショコラとカミィが指を絡ませている絵だ。指先がフェティシズムを感じられるほどに丁寧に描かれている。ショコラとカミィ共々、煽情的な表情をしている。ショコラは口を閉じているが、カミィは口を開けて牙を見せているのが印象的だ。


 このイラストにコメントが多数寄せられていた。美麗なイラストだけあって、フォロワーからの反応も良好だ。


『ショコカミ尊い』

『カミィちゃんがショコラちゃんを噛もうとしてるの?』

『この後、乱パしたんだよね』

『サキュバスと吸血鬼がいる乱パ会場どこ……?』

『乱パ会場ならショコラちゃんが燃やしてるよ』

『魔族コンビ流行れ』


 こんな素敵なイラストを頂いたのだから、きちんとお礼をしよう。まずはダイレクトメッセージの返信から。


『カミィ様。お祝いありがとうござます。とても素敵なイラストですね。オタク君様にも私が感謝しているとお伝えください』


 そして、このイラストもショコラのアカウントを使って拡散してあげよう。


 そんなこんな色々な作業をしていたら、いつの間にか夕食の時間になっていた。作業の続きは、夕食と風呂の後にしようか。



 夕食と風呂を済ませた俺は、作業を開始しようとする。まずは、恒例の3Dモデルのダウンロード数チェックだ! とは言っても、最近は他の作業が忙しくて、前みたいに毎日チェックはできていない。Vtuberの活動が思ったよりも忙しくて大変だ。


 ダウンロード数:6


 お、おお! チャンネル登録1万超えただけあって、1件増えている。誰かが買ってくれたんだ! ありがてえ! 名前も知らない誰かさん。本当にありがとう!


 でも、チャンネル登録者数1万を超える動画投稿者の拡散力を持ってしても、これだけしか増えないのは厳しいな。100件くらい売れてくれないかな。


 そんな淡い期待を抱きながら、次にSNSを開く。すると、丁度タイムラインに上がってきたカミーリア・アンデルセンの投稿が目に入った。


『カミィのフォロワー数5000人突破しました! うぇーい! これも眷属のみんなのお陰です。ありがとー! 今日は朝までパーティじゃーい!』


 え? ちょっと待って。カミィのフォロワー数って数時間前までは、1000人行ってなかったよね? それがいきなり5000?


 なにが起きたのか理解できなかった俺は、カミィの投稿を遡った。しかし、直前にあるのは、フォロワー数が急増して、あたふたしているカミィのリアクションくらいなものだった。


 もっと遡ってみると、ある投稿が拡散されまくっていた。それは、ショコラのチャンネル登録者数1万人記念イラストだった。この投稿がバズりにバズって、カミーリア・アンデルセンのアカウントのフォロワー数を一気に押し上げたのだった。


「えぇ……」


 カミィのチャンネル登録者数もフォロワー数程ではないが、増えている。今、現在980人で、1000人目前だ。まあ、バズった要因がSNSにあるので、こちらは遅れて伸びていくと思う。


 カミィは頻繁にオタク君が描いたと評して、イラストをSNSに上げていた。そのイラストにコアなファンがいたから、チャンネル登録者数よりフォロワー数の方が多いという事態になっていた。元々、画力が高い絵師を抱えていたから、SNSの方が伸びるのは時間の問題だったと思う。


 けれど、伸びるきっかけがショコラが描かれていたファンアートとは……このショコラと言うキャラ。どこまで伸びていくんだ?

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