第10話 初めてのゲーム実況

 俺がVtuberショコラを立ち上げてから、約1ヶ月程が経過した。今日は月初。先月分の収益額が確定する日である。ドキドキした気持ちを抑えながら、俺は収益額を計算した。


投げ銭:\43,500

広告収入:\2,108

3Dモデル売上:\60,000


合計:\105,608


 1ヶ月で10万!? 高校生にしては稼げているな。ハッハッハ。見たか、月5万程度の収入しかない高校生バイト勢め。これが個人事業主の実力だ! 確か個人事業主が親族の扶養に入るのには、年間所得が48万円以下でないといけない。俺はもう今年だけで22万ほど稼いでいる。この分だと、俺は高校生の分際で扶養から外れるな。まだ10代半ばなのに、この国を構成する歯車の1つになるのか。


 それにしても、3Dモデルの売上がVtuberでの収益をギリギリ超えていて良かった。2件売れてなかったら、本業Vtuberになってしまうところだった。俺の本業はあくまでもCGデザイナーだ。そこら辺は逆転しないようにしたい。


 しかし、ショコラの動画もまだ4本しかない。自己紹介動画と炎上動画が2本と1万人記念生放送のアーカイブ。それらの再生数も一時期は伸びていたけど、日に日に目減りしている。やはり、継続は力なり。新しい動画を次々、上げて行かないとこのVtuber戦国時代を生き残れないのだ。


 と言うわけで、俺はブレーンである師匠に相談することにした。


Amber:師匠。お手軽に再生数が稼げるいい動画ありませんかね?


Rize:なぜ私を頼る


Amber:Vtuberになれって言ったの師匠じゃないですか。責任もって下さいよ


Rize:ショコラのモデルをアピールしたいならダンス動画はどうだ?


Amber:モーションキャプチャーを買うお金がないんですよね。ウェブカメラだと、ダンスみたいな複雑な動きは再現できないんです


 月初に確定した収益額が入ってくるのは月末になる。つまり、先月稼いだお金が今月末に振り込まれるので、実質稼いだ瞬間より1ヶ月後に手元に入ってくることになる。つまり、今の俺は素寒貧だ。


Rize:モデルをあまり動かさない動画か。それならゲーム実況はどうだ?


Amber:ゲーム実況ですか? 俺、ゲームにあんまり詳しくないんですよね


Rize:わかった。ちょっと待っててくれ


 数分後、師匠からテキストファイルが送られてきた。そこにはゲームのタイトルらしきものがズラーっと書かれていた。中にはタイトルの冒頭に☆が付いているものがある。これは一体……?


Rize:動画配信および収益化が許可されているゲームタイトル100選だ。上から恒常的な人気順に並べてある。冒頭に☆マークがついているのは、現在のトレンドだ。今、配信すれば爆発的な人気は取れるけど、旬を逃したらどうなるかわからない。私が信頼している人物が分析した結果だ。この並びは信じていいぞ


Amber:凄い。よくこんなデータを持ってましたね


Rize:身内に第一線で活躍しているゲーム実況者がいるからな。そいつに送ってもらった


Amber:流石師匠です。ありがとうございます。活用させて頂きます


Rize:この情報は他に流すなよ。私が身内に殺されてしまう


Amber:了解


 さて、このリストを見てやるゲームを決めるか。とはいえ、俺も全てのゲームをプレイできるわけではない。俺は、最新のゲーム機を持っていない。ゲーム機を買うお金もない。つまり、俺はこのモンスタースペックのパソコン1つでゲーム配信をしないといけないことになる。


 ソフトの購入代もできるだけ抑えたいな。無料ゲームがないかなと探してみた。その結果、あるにはあったけれど、課金前提の基本無料なゲームが上位に位置している。ガチャ動画を上げる財力なんてないのだ。解せぬ。


 そんな中、俺は人気順下位の方で☆が付いているタイトルが目に入った。これは、個人制作のフリーゲームか? 人気順下位だけどトレンド? つまり、人気に火が付き始めているゲームなのか。


「よし、これに決めた!」


 というわけで、俺はこの「女子更衣室脱出ゲーム」というゲームをやることにした。


 早速、制作者のホームページに行き、ゲームをダウンロードした。そして、動画キャプチャを起動し、ウェブカメラとマイクもオンにする。さあ、実況の始まりだ。



「ショコラブのみな様。おはようございます。バーチャルサキュバスメイドのショコラです。本日はこちらのゲームを実況していきたいと思います。女子更衣室脱出ゲーム。脱出ゲームですね」


 タイトル画面は体操服姿の女子が映っている。茶髪のポニーテールの少女はこちらに尻を向けたポーズをしている。絵はそこそこ上手い。可愛いか可愛くないかで言えば、可愛い部類の絵だ。しかし、塗りに陰影がついていないので、立体感がない。如何にも素人が描きましたという感じの絵だ。


「それでは、早速始めますね。ゲームスタート」


 ゲーム画面に『あなたの名前を入力してください』と出た。そして、名前入力画面に切り替わる。


「私の名前はショコラですから、そのまま入力しますね」


 実況者によっては、ここはふざけた名前にする人もいる。だけど、俺にはそんなギャグセンスはないので素直にショコラの名前を付けた。


 名前入力し終わった後、画面が暗転した。そして、ゲーム画面に映る。


 2Dの見下ろし型で更衣室らしきものが描かれている。そこに学ランを着た少年がいた。少年の目の前には水色の縞パンが置かれていた。


「ええ……なんですかこれ。なんで女子更衣室に男子が入ってるんですか」


『俺の名前はショコラ――

 趣味は女子更衣室に入ってパンツを盗むことだ』


「ちょっと待って。私、この変態なんですか! 嫌ですよ。こんな変態が私の分身だなんて」


『世間では、俺を下着ドロボーだと非難する者もいるだろう

 しかし、俺は現代に颯爽と現れた義賊だ

 パンツは確かに盗む。だが、盗んだパンツと同じ種類の新品のパンツとすり替える』


「なに言ってんですか。この人」


『俺は女子の使用済みパンツが手に入って嬉しい

 女子はパンツが新品になって嬉しい

 みんなが幸せになるウィンウィンの関係だ。俺にパンツを盗まれた方が幸せになれる』


「なんなんですかこのとんでもない理論は。こんなやつすぐに警察に突き出しましょうよ」


 コツコツという足音と女子のガヤのSEが鳴り響く。


『まずい。女子がやってきた。予想外に早かったな

 どこかに隠れないと』


 そう言うと主人公はロッカーの中に隠れるのだった。


 ここで画面が暗闇に変わる。ロッカーの中にいることを表現しているのだろうか。


 女子のガヤガヤとした話し声が聞こえる。


「え? これ、どうすればいいんですか?」


 俺は、そのまま決定ボタンを押した。するとバァっと画面が明るくなり、女子更衣室が表示された。そこには着替え途中の女子の一枚絵スチルが表示された。差分で女子たちがこちらに視線を向ける。


『イヤアアァァアア! 変態!』


「え? み、見つかったんですけど。どうすればいいんですか? これ」


 俺は半笑いになりながらも実況を続ける。なんだ、このゲームは。とにかく、メッセージを送ろう。


『こうして、俺は通報されて逮捕されてしまった

 BAD END』


「終わった。な、なんですか。このゲームは! 変態が捕まったんだからそこはハッピーエンドでしょうが」


 そして、タイトル画面に戻される。そして、そこにはそこにはスタートボタンしかない。


「え? これ、セーブとかないんですか?」


 俺は嫌な予感がしながら、スタートボタンを押した。


『あなたの名前を入力してください』


「また最初からなんですか! もういい。こんなやつの名前、へんたいでいいです」


 俺は主人公の名前を『へんたい』にして遊ぶことにした。


『俺の名前はへんたい――

 趣味は女子更衣室に入ってパンツを盗むことだ』


「私が親から変態って名付けられたら自殺を考えますね」


 ここでカット編集を入れる。主人公(へんたい)が女子更衣室の中に入ったところから再開する。


 女子の話し声が聞こえるけれど、それだけだ。ここから一体どうすればいいのか、さっぱりわからない。


「これなにをするのが正解なんですかねえ。このまま待ってみますか?」


 しばらく、待っているとガチャっという音と共に、更衣室の扉を開けた女子の姿映し出された。キョトンとした表情の女子が、驚いて叫び声をあげている表情に変わる。


『イヤアアァァアア! 変態!』


「待ってても見つかるんかい! そりゃそうだ! ロッカーには使用者がいるんですからね」


『こうして、俺は通報されて逮捕されてしまった

 BAD END』


「ええ……」


 俺はもうこれ以上このゲームを続けていく気力をなくした。こんなゲームがトレンドに入る今の世の中を憂いながら、俺はゲームを終了した。それじゃあ締めの挨拶でも撮るか。


「はい。女子更衣室脱出ゲームというゲームをやってみたのですが、いかがだったでしょうか? 続きを見たいという方は高評価を押してくださいね。チャンネル登録とSNSのフォローもよろしくお願いします。ショコラの3Dモデルも是非お買い求めくださいね。それでは、さよなら、さよなら」


 まあ、多分続きを見たいと思う人はいないので高評価はつかないだろう。俺が視聴者ならこの動画に高評価はつけないぞ。


 後はサムネをどうするかだな……更衣室が題材だから、ショコラがメイド服を半分脱いでいる様子でいいか。前を見せるのは流石にまずいから、背中を見せる感じで作ろう。

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