第7話 炎上系Vtuber
最近はSNSを使って、積極的に他のVtuberと交流をしている。一時期はニャー子さんしか相互がいなかったけれど、今では10人のVtuberと交流を深めている。その中には俺よりも遅く始めた所謂後輩のVtuberもいる。俺も新人Vtuberかと思っていたけれど、いつの間にか後輩ができていたんだな。
最近ではファンや彼らとの交流も楽しみにしている。さて、今日はどんな反応が返ってきているかな。楽しみにしながらパソコンの電源をつける。そして、まずSNSを開く。そこで俺は驚愕の数字を目にすることになった。
フォロワー数:6743人
「え……」
な、なんだこの数字の伸びは。動画投稿直後には話題になって、数字が急激に伸びることはあったけれど、それでも数百単位だ。けれど、この伸び率はいくらなんでも異常だ。俺がこつこつと稼いできた2000人強のフォロワーが1日目を離した隙に3倍ほどに伸びているのだ。
「な、なにが起きたんだ?」
俺は全く理解できなかった。そうだ。SNSでこれだけ伸びているってことは、肝心の動画投稿サイトのチャンネル登録者数はどうなっているんだ? 俺は、呼吸を整えて心を落ち着かせて、数字を確認した。しかし、数秒後俺の心臓は口から飛び出そうになるくらいに跳ね上がる。
チャンネル登録者数:8800人
いや、だからなにが起きたんだよ! え? もうすぐ1万人が見えてるんですけど……チャンネル登録者数だけじゃない。動画の再生数もコメント数もうなぎ登りだ。一体なにが起きてるんだ。
俺はこの異常な伸びの正体を探るべく、コメント欄を開くことにした。結構な数のコメントがついていたけれど、その中にこんなに伸びた原因となりそうなものを発見した。
『Vtuber炎上まとめサイトから来ました』
『ここ、切り抜きで見たシーンだ』
Vtuber炎上まとめwiki? Vtuberの中には過激な発言をする者や、同業者に対して失礼な対応をする者もいる。そう言った人物は往々にして炎上してしまう。それをまとめているwikiがあるのか? え? 俺、なにか炎上するような発言したか? 全く記憶にない。
俺は同業者やファンには基本的に敬語で話して失礼のないようにしている。これはメイドというキャラの設定上やっていることだ。それに不用意な発言にも気を付けている。Vtuberを始めるにあたって、日常的に使ってしまいがちな差別的な意味を含む言葉について調べたし、そういう発言も控えていたつもりだ。
わからない。なんで俺は炎上したんだ……
真相を探るべく、俺はVtuber炎上まとめサイトに飛んだ。そこには、Vtuberの不祥事をまとめていて、同業者故に目を覆いたくなる光景だ。こんな小さな失敗で炎上するのかということですら炎上している。
とにかく、炎上した時の対処法は初期対応を間違えないことだ。公式が更に煽って余計に炎上するなんて事例は星の数ほどある。対応を間違いないためにも出火原因を確認するのは大切だ。
「あった……」
『ショコラとか言う炎上系Vtuberwwww』
なんだこのタイトル。たまたま炎上しただけで、炎上系なんて称号を与えられるのか? そういうのはわざと炎上するやつに与えられるべきだろう。
そのタイトルをクリックすると、ある動画がはめ込まれていた。これは切り抜き動画だ。一言で言えば、Vtuberの動画の珍行動や可愛いところ格好いいところなどの見所をカット編集してまとめたもの。大抵は推しのVtuberを世間に広めたい有志のファンが行うことだが、企業勢では切り抜きを外部に委託するケースもある。そして、プラスの側面だけじゃなくて、Vtuberの不祥事がまとめられるケースもある。炎上という単語が出たのなら、恐らく後者だろう。
俺は意を決して、動画を再生した。俺の動画になにかまずいシーンがあったのなら、適切な対応をしなければならない。削除したり、問題の箇所を編集して上げ直したり……
動画の再生ボタンを押す。すると、
「え。ちょ、ちょっと待って? なんでブレーキ踏んでるのに止まらないの? え? なんで? なんでなんで? あ、これアクセルだった。えへ」
バァンという大破した音と共に、車が爆発して火がボォーと燃える。そのシーンを見て、俺は全てを理解した。
「炎上って物理的な方かい!」
そして、次はシーンが切り替わり、ショコラが料理をしているシーンが移される。わかってる。自分が作った動画だから、この後の展開はわかってる。ショコラが油を手にした瞬間、油がペットボトルロケットのように噴出する。はいはい炎上炎上。
このまとめサイトの記事には、当然ショコラを批判するコメントは少なく、好意的なコメントが多数寄せられていた。
『炎上ってそっちかい』
『久々に腹抱えて笑った』
『この後、折檻されたんだよね』
『推しがなにかやらかしたと思ったけど、いつものショコラちゃんで安心した』
ふう……安心した。これが不祥事をやらかした炎上だったら、どうしようかと思った。Vtuberとして終わるだけじゃなくて、ショコラというキャラそのものが悪いイメージがついてしまう。そしたら、間違いなく素材は売れなくなるだろう。
あ、そうだ。すっかり忘れていたけれど、素材のダウンロード数はどうなっているんだろう。
チャンネル登録者数、フォロワー数が共に数倍に伸びているから、ダウンロード数もそれに比例して伸びているかも。どうしよう。2桁になっていたら。
俺は期待を込めて素材サイトを開いた。
ダウンロード数:5
ああ、うん。実はそんな予感がしていた。ショコラの炎上目的でチャンネル登録した人たちは、自己紹介動画見てないかもしれないし。事実、炎上した2本の動画の再生数は伸びているけれど、自己紹介動画はそこまで伸びていない。ということは、ただ単にショコラの3Dモデルが金を払えば手に入ることを知らない人たちがいっぱいいるってことだな。よし、次の動画ではその辺もアピールしておこう。
さて、ブラウザを閉じて、本日の作業に移るかな。次の動画のネタを考えつつ、新作のCGも作りたい。俺は将来3Dデザイナーになるんだから、企業向けに提出できるポートフォリオは少しでも多い方がいい。
ブラウザを閉じる前にふと、チャンネル登録者数を見た。
チャンネル登録者数:9130人
「へあ!?」
思わず変な声が出てしまった。さっきまで、8000人台だったチャンネル登録者数がちょっと目を離した隙に9000を越していた。これ、このペースのままだと今日中に1万人行くんじゃないのか?
俺の予感は当たっていた。俺が裏作業をしている間に、チャンネル登録者数が1万人を越していた。それでも勢いは衰えることはなかった。フォロワー数も明日には1万人を越しそうな勢いだ。
「凄い……ここまで伸びるなんて」
そこで俺はあることに気づいてしまった。一定以上のチャンネル登録者数、総再生時間。それらをクリアしたことで、ついに俺は収益化ができるようになったのだ。
18歳未満は収益化できないとか、収益化したかったら保護者のアカウントと連携しろとか、そういうのがあったような気がした。けれど、そんなものは大人の都合で消えた。この世界にはそういった縛りは存在しないのだ。いい時代になったものだ。
収益化かー。ついにそこまで人気が出たんだな。やっぱりショコラを作って良かった。クリエイターとしてここまで人気が出てくれるのは嬉しい。後は、本命の3Dモデルが売れるようにがんばるだけ。
収益化と言っても大した額じゃないだろうし、ダウンロード販売数を伸ばすことが利益に繋がるはずだ。まさか、Vtuberでの収入が素材の売り上げを上回るなんてことないだろうしな。
一応、SNSで報告しておくか。応援してくれたファンの人にもショコラの懐事情が少しは温かくなることを教えてあげないと。
ショコラ『みな様にお知らせがあります。みな様のご支援のお陰で、ついに収益化しました。本当にありがとうございます。これからもショコラをよろしくお願いしますね』
『ショコラちゃんおめでとー!』
『動画3本で収益化はすごいね』
『チャンネル登録1万人も達成しているね。おめでとう』
『ショコラちゃんなら10万人突破できそう』
チャンネル登録者数10万人か……流石にそこまで行く頃には、俺もCGで稼げるようになっているだろう。10万人行く前には無事に引退できると思う。多分。動画投稿も結構時間かかるし、本命のCG制作の時間が奪われたら意味ないからな。
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