2-3 何気ない通学路

 そしてその後。雪月はまるで自分の家の様に西連寺家へ入り込む。しかし、普通は不審がるであろう雪月の行動を、桜の兄優人は、まるで気にすることなく家に招き入れたのだ。

 そのことに桜は驚愕するが、雪月はなんてことのないように、桜の疑問に答えてくれた。なんでも、記憶が書き変わっているのだと言う。

 雪月の両親と桜の両親は赴任先の外国で知り合い、仲良くなったという。そしてつい先日、不慮の事故で雪月の両親が亡くなった。そして引き取り手がいなかった雪月を哀れに思い、桜の両親が引き取った。という筋書きになっているようだ。桜の両親はお人好しの為、兄の優人は、疑うことなく雪月を受け入れていた。


 そんなこんなで三日が過ぎ、六月の初めとなった。そして現在、二人は初めて一緒に学校へ登校している。

 なんだかんだ相性がいいのか、雪月と桜はかなり打ち解け、軽口を言い合うような仲になっていた。


「ねぇ、そういえば雪月君って同い年だったの?」

「うーん、どうだろうな。お前と同じ学年の方が都合いいと思って高二にしたが、実際は数えたことがないからわかんないな」


 桜はその言葉を聞き、やっぱり神の使いって色々人と違うんだなぁ。と一人納得していた。どこからどう見ても人に見えるのに、どこか人とは違う存在。正直、桜には使徒ヴォイドと人の違いがいまいちよく分かっていなかった。異能の力も、使徒ヴォイドだけでなく、人も使うことが出来る。じゃあ神に従っているかどうかが違いかな? とも思った。しかし、参加者ピューパも、神に従っているようなものだと思い至り、結局違いが見つけられなかったのだ。

 正直、普通に力を与える側と、与えられる側とか、色々違いはあるのだが、おつむの足りない桜には、考えつかなかった。

 そんな難しいことを考えている桜だったが、ふと、あることを思い出し、声を上げる。


「あっ! そういえば今日ってもう一人転入生が来るんだよ! 楽しみだなぁ」


 そう。実は雪月の他に、もう一人、転入生が来るのだ。本当はもう少し早く来る予定だったが、何故か先延ばしにされ、今日になったという。もう一人の転入生のことを思い出し、桜の中から難しい考えなど吹き飛んでいた。

 今桜の頭には、転入生とどうやって仲良くなるか、という考えしかない。しかし、一つだけ違和感をあげるとするならば、だろうか? けれど、クラスメイト全員、そのことに違和感を覚えていないようだった。なら、自分の気の所為だろうか? と、桜の思考が別世界へ飛ぼうとしていると、雪月が声を掛けてきた。


「まぁ、合わせたからな。ちょうど転入する奴がいるなら、合わせた方がいいだろ?」


 その言葉聞き、もしや雪月君が仕向けたことか? という考えに、桜は至る。異能の力が加わっているなら、何の違和感もないな、と軽く考え、桜は難しく考えることをやめた。


「ほへー! そうなんだ! あ、もしかして、だからうちのクラスに二人も転入生が入るの? なんで別々のクラスにしないんだろーって思ったけど、誰も何も言わないし、そういうものだと思ってた! でも、どうせまた雪月君が細工したんでしょー?」


 妙に勘が鋭い桜に、雪月は若干戸惑いつつ、曖昧に濁すよう笑う。

 元々転入生は一人であり、桜たちのクラスに入ることが決まっていた。雪月も出来れば桜と同じクラスが良かったため、その子を他のクラスにしようかと考えはした。だが、別にわざわざ余計な力を使ってまで、その子を他のクラスにしなくても、自分が桜と同じクラスなら別にいいか。と考え、今に至った。

 一応、他の人間が違和感を抱かないよう軽く細工はしたが、まさか桜に気づかれるなんて……。記憶操作を桜が受けないことは知っていたが、この程度、桜の脳味噌なら違和感を抱かないだろう。と、雪月は高を括っていた。少し、桜についての認識を改めなければな。と、彼が考えていると、桜が間の抜けた声を上げてきた。


「まぁ、何はともあれほんと楽しみぃー! どんな子だろ? 仲良くなれるかなぁー!」


 雪月の考えなど露知らず、桜は顔を綻ばせてはにかむ。もはや自分が疑問に思っていたことなど些事なのか、答えを求めてくることはなかった。そんな桜の様子に、雪月も自然と口元が緩む。

 こうして見ると、ただの高校生なのに、どうして茨の道を進もうとするのか……。彼女は、かなり人受けのいい性格をしている。別に翼に拘らなくとも、たくさん友人がいるだろうに。お人好し過ぎるのも考えものだなぁ。と、雪月がそんなことを考えていると、いつの間にか、二人は校門近くまで歩いてきていた。


「よーし! じゃあ私先に教室行くね! 雪月君、職員室の場所は知ってる?」


 桜の一声で、雪月は我に返る。そして、自分が学校の校門近くまで来ていることに気づいた。余計なことを考えてしまったな。と、内心反省しながら桜に返事を返す。


「あぁ、大丈夫だ。先に教室で待っててくれ」


 その返事を聞き、桜は満足そうに笑う。そして大きく手を振って、駆け足で教室へ向かっていった。その姿を見送った後、雪月は少しだけ暗い表情になり、俯く。


 ────そう、余計な事、なんだ。彼女にはこのゲームを盛り上げてもらわなければいけないのだ。それが、なのだから。


 そう考え、雪月は桜とは逆方向、職員玄関の方へと向かった。

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