2-2 たった一つの願い事
三日前の夕方頃。桜は廃工場通りの道路の真ん中で、
突然の謝罪に困惑する桜に対し
「本当にすまない……! 俺がお前に関わらなければ、巻き込まれることはなかったのに……。あまつさえ俺は、神の命令でお前を助けなかった……ッ!」
感情を爆発させて謝罪する
一般的に言えば、
翼のことを知れ、尚且つ力も手にすることができた現状に、なんの不満もなかった。しかし、そんな桜の思考とは裏腹に、
「俺は自分の意思でお前に忠告しに行ったのに、最後まで意志を貫かずに見殺しにした。それが神の
「えーっと、大丈夫だよ? 私元気だし。君のおかげで、なんだかんだ上手くいったしね」
ケロリとした様子で、桜は
「だから! どうしてそんなに馬鹿なんだッ! もっと自分の身に起きたことの異常性を自覚してくれ!」
「ばっ……!? しっ、失礼なぁ! きちんと理解してるよ! してるけど気にしてないって言ってるの! そっちこそいい加減理解してよ! このおたんこなすーっ!」
「なぁっ!? こっちは心配して……ッ! あぁ、もういい! 言うだけ無駄なのはわかった」
傍から見れば、まるで小学生同士の喧嘩だ。
「はぁ……、もういい。なら俺は、俺の納得出来る要求を提示する。迷惑かけたお詫びに、お前の願いをできるかぎりなんでも一つ叶えてやる。それでチャラってことでどうだ?」
「あーうん。いいよ! あっ。でも、翼関係とかの願いだと、君困るよね?」
できるかぎりなんでも、と
「あぁ。すまないがそういうことだ。他になにかないか? 出来ることと出来ない事はあるが、ある程度融通をきかすつもりだ」
「うーむ……。だよねぇ。あっ! じゃあ君について教えてよ!」
満面の笑みで桜がそう言うと、使徒は暫く硬直した。あまりにも予想外の願いで、戸惑ってしまったのだ。
「あのな? 俺はこう見えて、結構強いぞ? それに、神とまではいかないまでも、それなりに色々できる。この意味がわかるか?」
桜が
「ほうほう、成程。それで? 他には?」
────しかし、桜はその言葉の真意を理解しなかった。桜は、
「あぁぁぁぁぁッ! もういいッ! いいか、よく聞けッ! 俺の名は『ゼロ』。だが出来れば
そこに居たのは、兎のように真っ白な白髪が特徴的な少年だった。白髪は、夕日に照らされ輝いており、とても美しい。そして顔の作りからして、桜の予想通り、雪月は中・高生くらいの見た目の少年だった。
雪月は、そんな可愛らしい顔を不満げに歪ませ、桜を睨んでいた。桜はその剣幕に若干気圧されつつも、マジマジと雪月の顔を見る。
「かっ、可愛い……!」
そして、つい我慢が出来ずに口から本音が出てしまった。桜の言葉に雪月は、全身を怒りで震わせ、涙目で桜をきつく睨みつけた。流石の桜も、あ、地雷踏んじゃったかも。と気づき、内心冷や汗をかく。
雪月は深く深呼吸をし、息を整えてから、半狂乱になりながら叫び声を上げるように言葉を放った。
「いいか? 俺は今日から、お前のことを監視しなきゃいけない。だから俺のことを知りたきゃ答えられる範囲なら、当然教えてやる。そんなのを願いにはできない! 時間をやるから考えろ。いいなッ!?」
叫ぶなら、息を整えた意味とは……? と、桜は内心雪月に突っ込んだ。しかしこれ以上余計なことを言うと、彼が可哀想なので、コクコクと無言で頷くだけに留めた。それを雪月は満足そうに見つめ、くるりと踵を返す。
「さぁ、もういい加減遅い。帰るぞ」
そう一方的に告げ、雪月は歩き出す。
そんな雪月の言葉に桜は、一体どこへ帰るのだろう……。と、思いながらも、これ以上雪月を刺激したくなかったので、黙って彼の後ろをついていくことにした。
しばらく会話もないまま二人は歩き続けたが、ふと桜は、見慣れた道を通っていることに気づく。そこで、もしや私の家を知っているのでは? と、ようやく桜は思い至る。そして桜の予想通り、雪月は桜の家の前で歩みを止め、くるりと桜の方を振り返った。
「着いたぞ」
雪月はそう短く言葉を放ち、水晶の様に透き通った灰色の瞳で、桜を見つめる。
その様は夕日に照らされ、桜にはより一層輝いて見えた。
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