1-7 理解不能な死
「ぐぅ……ッ! ぐぁ……ッ。い、いつの間に……ッ!」
鋭い痛みに、桜は思わず呻いた。じわじわと左腕に広がる痛みに、桜は軽く涙目になる。そんな桜を見て、毒嶋は満足そうに下品な笑みを浮かべ、笑い声を上げた。
「アッヒャッヒャッヒャッ! そうそう、その顔ォ! いいねェ! そそるぜェ」
そう言い、毒嶋は再び上着の中に手を入れる。
桜が上着の中をよく見ると、モノが掛けられそうなホルダーが複数あることに気付く。ホルダーにはナイフもかけておけそうだが、桜の目には何も掛かっているようには見えなかった。まぁ普通にナイフなんかを掛かっていたら、誰か気づいて警察に通報しているだろう。
何も無いはずなのに、毒嶋は再びナイフを握る容量で空気を掴み、桜めがけて振りかぶった。先程のことあり、桜は、咄嗟に地面を転がるようにして右へ避ける。
「へェ、流石に二度目は簡単にはいかねェってか? おもしれェ!」
毒嶋は、攻撃を避けられたことを心底愉快そうに語る。毒嶋の表情に、このままこのキチガイと話していても殺されるだけだと悟った桜は、その場から離れるため全速力で駆けた。
「鬼ごっこかァ? いいぜェ! 地獄の果まで追いかけてやるよォッ!」
遠くで毒嶋が何かを叫んでいるのが聞こえたが、桜はお構い無しに駆ける。足を狙われなかったのが、不幸中の幸いと言えるだろう。いつもよりも早く走る事ができ、毒嶋の声も全く聞こえなくなった。このままのペースでいけば、確実に毒嶋を撒いて警察へ駆け込める。
────そう桜が希望を持った、次の瞬間。
「え……っ?」
ドサリ、と、桜はなんの前触れもなく、その場に倒れ込んだ。先程のような外傷はなく、ただ足に──いや、全身に力が入らなくなったのだ。
「はッ……はッ……! お……ぇ……ッ」
桜は息が上手く出来なくなり、段々と視界も霞んで来た頃。
ジャリ、と、誰かの足音が聞こえ、桜は無意識に虚ろな視線をそちらへ向けた。
「なんだァ? こんな所でおねんねして……。ククッ。いい眺めだなァ!」
グシャリッ、と乱暴に踏みつけられ、声にならない声で桜は呻いた。頭がガンガンして吐き気が止まらない。呼吸困難にも陥っており、桜は無意識に胸を抑えた。
「なに……した……のッ!」
桜は絞り出すような声で訴え、毒嶋を睨みつけた。その姿が余計に毒嶋を喜ばせたのか、口元を下品に歪め、桜から足をどける。そして毒嶋は、桜の前髪を右手で乱暴に掴み、自身の顔の辺りまで持ち上げた。
「あァ、いい眺めだなァ! こういう強気な女が泣きじゃくって命乞いする姿がたまんねェンだよなァッ!」
その言葉の直後、今度は空いた左手で左足を思い切り刺された。桜は痛みに顔を歪め、自然と涙が出る。けれどもそれで桜が命乞いすることはなく、涙目のまま鋭く毒嶋を睨みつけた。
「ククッ。教えてやるよォ。さっきの
毒嶋は、機嫌よく自身の能力について、桜に語る。だがその説明も、未だに毒嶋の言う常識がよく分からない桜にとっては、大半は理解できない説明だった。
しかし、何故突然倒れたか、これで理解できた。毒嶋は病原菌を操り、自分を動けないようにしたのだと。頭の悪い桜でも十分に理解が出来たのだ。
しかし、桜がそんなことを考えている間にも、毒嶋は握っていた空気中の
「精々いい声で鳴いてくれよォ? そんで無様に命乞いして見せろォッ! そしたら助けてやるかもしれねェぜェ! ギャハハハッ!」
そう言って毒嶋は、桜の心が折れるまで何度も、何度も何度も何度も身体中を刺した。
右腕も、右足も腹も刺された。その度に桜は呻き、毒嶋を睨んだ。
刺し箇所が二桁を超えた頃。流石の毒嶋も下品に歪めた口元を不快そうに歪め、桜を睨みつけた。
「てめェいつまで強がってんだよォ! あーあ。まじで頑固な女だなァ! このままじゃつまんねェまま死ぬぜェ?」
全身を刺され、いよいよ出血多量で死ぬのだろう。と、桜が覚悟した頃。毒嶋が吐き捨てるようにそう言い捨てたのだ。いつまで経っても命乞いをしない桜に嫌気がさしたのか、毒嶋は掴んでいた桜の前髪を、突然放す。ようやく解放された。と、桜が安堵したのも束の間。毒嶋は乱暴に桜のお腹を蹴りあげ、壁に叩きつけたのだ。
「けっほ……ッ!」
「気の強すぎる馬鹿女だぜェ。元々助けるつもりなんてなかったけどよォ。……もういいやァ、死んでいいぜ、お前」
もう桜に興味はない。と、毒嶋は暗に語り、そう吐き捨てた。しかし、既に桜の視界と聴覚は正常に機能しておらず、毒嶋の表情も、声色も読み取ることは出来ない。それでも桜は、野生の直感から、毒嶋が次の一撃で確実に自分を殺すのだろう。と、悟った。
毒嶋の手から解放された桜は、悲鳴を上げている身体を無理やり起こし、逃げようとする。
────しかし、それより早く、毒嶋は手にしていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます