028. 禿河麗夏、事件後からの変化

 私、禿河とくがわ麗夏れいかはそれまでは普通の女子高校生だった…はず。

 自分の考えに少し自信がなくなった。

 だって今まで麗夏の考えをパパもママも否定なんてしなかったから。


 麗夏のパパとママは最初からずっと一緒に暮らしていたわけじゃない。

 私が三歳の時にママに連れられてきたのがパパの家だった。

 その家には別の女の人とその子どもがいたけれど、女の人が死んじゃって子どもは病院にいるからって言ってパパの家にママと麗夏は一緒にいれるようになったの。

 病院にいた子どもは『亜月』という名前で麗夏のママと違うママの子どもだけれどパパの子どもだからこの家に居るんだとか。

 パパからは誕生日が麗夏の方が先だから“義姉”になるって言われた。


 小学生の後半にもなるとグズでノロマなアイツが見えるだけですごくイラついた。ママもそんなアイツに文句を言っていた。

 中学生の頃にはアイツの死んだ母親の父親がいる何故引き取らせないのかとママがパパに言ってた。

 その答えは「利用価値がある間は手放さない。それが俺たちの権利」だった。

“利用価値”ってなんだろ?って思ったけれど、パパにもママにも聞けない。

 中学三年生の高校進学の話になった時。

 麗夏の面談にママと行った。

 担任の先生からは家から離れた高校しか行けないと言われた。

 でも麗夏は家のすぐ近くにある学校が制服の可愛いのだかったからその高校に行きたかった。だけどその高校には成績が足りないから無理だと担任に言われちゃった。

 私がそう言われたのにアイツはどこの高校にも問題なく行けるって言われていたみたい。

 だからアイツは勝手に隣の県にある公立高校を志望していた。

 許さない。アイツだけ自分の行きたい高校に行くなんて。

 ママにアイツの志望校を伝えたら怒って学校に志望校を変更に行った。

 やった、ザマァみろ。ウフフ、これでアイツはこの家から出ていけない。


 なんとか制服の可愛い桜翔おうしょう学園高等部に合格できた。

 アイツも同じ学校に合格してた。

 なんでアイツばっかりがいい思いしてるの?

 悔しい。

 どうやったらアイツが困るだろう…。

 そう思っていたらママがいきなりアイツと話してた。


「なんであんたの分まで私たちが払ってやらなきゃならないのよ。麗夏の分だけで大変なのに…。高校のことはあんた自分で何とかしなさいよ」

 私には何のことかわからなかったけど後から知った。

 高校に行くには小学校・中学校と違って義務教育じゃないから入学するのにお金がかかるってこと。

 春休みになってママが麗夏を連れて制服のサイズ測ったり、教科書買ったり学用品を買ったり忙しかった。

 でもママはアイツのものは何も買わなかった。

 少し前までアイツは青くなったりしていた。


 中学校卒業式の日にアイツは背の高いカッコいい男の人と一緒にいた。アイツがパパとママに近づいてきたときにアイツが入ってこないようにパパとママの腕に飛びついた。これでアイツは私たちの間に入ってくるなんてしないでしょ。


 ……なんて思っていたのにアイツはあのカッコいい男の人と一緒に行ってしまった。

 何故かパパとママはあの男の人のこと知っているみたい。

 パパにその人は誰なのか聞いたけど教えてくれなかった。

 逆にあの男の人に近づくなと言われちゃった。

 その時のパパの顔は少し恐かった。

 だからパパにはあの人のことは聞くのをやめた。


 春休みの間はつまらなかった。アイツはいないし、舞しか近くにいない。

 他の友だちは皆別々の高校だから遊べなくなっちゃった。

 そんな休みを過ごしてやっと高校の入学式の日を迎えた。

 クラスはアイツとも別だし舞も別だった。

 クラスが違うとなかなかアイツと顔を会わせないから文句言えない。

 この頃は朝も早く家の玄関でチャイムがうるさい。

 学校に行くのにギリギリに起きて間に合うようにしたいのに、アイツの迎えだからと言って小田切紫凰という男子が来る。

 もうママもイライラして限界みたい。


 いつもと変わらず朝は学校に行ったけどその夕方はアイツは家に帰ってこなかった。

 帰ってこなかったけど別に麗夏が気にすることじゃないけどその次の日の夜に警察官だという人が家にやって来た。

 家の中に入って来た警察官だという人が“逮捕状”というものを読み上げてパパとママが連れて行かれた。

 その後のことは知らない。

 麗夏は警察官じゃないスーツを着た女の人に児童相談所という場所に連れてこられた。

 次の日には弁護士だという人がやって来た。

 卒業式の日にパパと言い合っていたあの男の人だ。

 その人からはこれからはパパとママに会うことはできないと言われた。

 私は何も言えずに黙ったまま下を向いた。

 もう何がなんだかわからなかった。

 弁護士のあの人は冷たい視線で麗夏を見る。


 麗夏の親戚となる人を探した。

 弁護士からパパの叔父とママのおじいちゃん、おばあちゃんに連絡して麗夏のことを引き取ってとお願いしたけれどどちらの親戚からも断ってきたという。

 他にも親せきを探したけれどいなかったみたい。

 そんなことで結局他に麗夏を育ててくれる人は見つからなかった。

 弁護士からは他の方法は養護施設に行って十八歳までというか高校卒業までそこで過ごすか、自分で済む場所を探して一人で生きていくかどちらかと言われた。

 でも麗夏は一人で生活なんかできないし、パパもママもいるのに養護施設になんて行きたくない。

 だからアイツと一緒の場所で麗夏も生活させてもらおうと思った。


「アイツが何処に引き取られたかは知らないけど私だって血が繋がっている姉弟なのだから麗夏も引き取るのが普通でしょ?それなのに何でアイツだけ…。そうじゃなくてもあそこの家はパパのだから麗夏の物になって住めるはずじゃないの?ねぇ、どうして?麗夏があの家から追い出されなきゃなんないの?麗夏が可哀想だと思うならちゃんと私のことも引き取りなさいよ!」

 弁護士に泣き落としでもすれば落ちて麗夏のことも優しくしてもらえると思っていた。

 そんな麗夏を見ても弁護士は眉ひとつ動かさなかった。

 何か小さな声でブツブツと呟いて何を言ってるかわからなかった。


「あのねぇ…そもそも禿河の家とあの土地は亜月君の母親である美桜様の父上・瀧野瀬壱星様の土地。美桜様が亡くなってお宅らが勝手に住みついて不法占拠しているの。しかも十五年近くも居すわっていられてこっちとしても困っているから」

 溜息をいていた。


「そんなこと麗夏、知らないっ!でもアイツとは半分は血が繋がっているんだから権利だってあるでしょ?」

「ふっ…。そんなもの…あなた方には一切ありません。医学的にも血縁関係にありません。よって貴女を引き取らなければならない理由はないのです。とは言っても私は弁護士ですから貴女が高校卒業まで面倒見てくれる養護施設を紹介しますよ?それとも自力で働いて住む所も自分で探しますか?二者択一です。どちらにするかご自分で選んでください。私は貴女の保護者でもないのでしかできませんが」

“血縁関係がない”と言われ何がなんだがわからなくなった。

 弁護士がさっきよりも冷たい目で麗夏のことを睨んでくる。

 もう何も答えられずにいると何か言ってたのでそれに頷いた。




 ―養護施設   光子ども園ー


 その建物の入り口にはそう書かれていた。

 あの弁護に言われるままに児童相談所の人に連れられ児童保護施設に着いた。

 今まで住んでいた家にあったパパとママに買ってもらった物は麗夏の物なのに学校で使う教科書やノート、学校について制服や体操服にわずかな着替えと今まで使っていた携帯電話のみ。

 携帯電話も機種健康もバイト代で買うしかないらしい。

 ゲームやおしゃれに関する物は没収となった。

 施設に持っていく荷物を家から持ち出すときも施設の職員とあの弁護士が立ち会っていて厳しく見張られていた。

 まるでどこかのおとぎ話のようだった。

 結局、一週間学校を休んで施設へ引っ越した。

 これからの生活は誰も知らない誰にも頼れないとわかった。




 施設での生活は今までと違っていた。

 朝は六時三十分に起床、学校の準備等をして食堂に集まる。

 施設職員で調理師の人たちが用意してくれた食事を施設で暮らす子どもたちで配膳する。ゆっくり食べている時間はない。

 食べ終えたら自分の食器を片付けて洗う。それが終わるとそれぞれの学校に向かう。小学校・中学校は同じ学校なんだけど高校は校区が広いので皆違う高校だった。高校生は麗夏以外に三人いた。

 皆公立の高校でアルバイトして昼食代や学校の授業料の支払いをしていた。放課後はアルバイトをしていたので皆帰る時間が遅いので夕方は私が施設の子どもたちの中で最年長だった。


 朝学校に着くと今までと変わらず授業を受ける。

 変わらないのは授業だけ。麗夏の周りにいたはずの友だちは誰もいなくなった。それでも学校へ行かなければならない。

 学校の中さえ麗夏の居場所がなくなってしまった気がした。


 午後の授業が終わると部活動もアルバイトも何もしていないからすぐに施設に戻らないとならない。

 施設に戻ったら小学生以下の小さい子たちの面倒を見る。ボランティアの人たちも数人ずつ来てくれるけど男の子と女の子が同じ人数で施設に暮らしているわけじゃないから毎日ハプニングが起こる。

 それらの対応で職員は手いっぱい。なので同じ遊びをしている子や勉強をしている子たちはそれぞれのグループに別れて行動しているからそのグループ毎に面倒を見る人が付かなければならい。そうすると麗夏も手伝うことになる。夕食の時間までそうやって過ごし順番にお風呂に入ってやっと就寝時間までの自由時間になる。

 今までだったら友だちと電話で話したり、メールしたりゲームしたりだったけど話せる友だちはもういない。携帯電話代にお金をかけられないから大人しく学校の課題をやるしかない。


 施設で暮らす高校生たちはニュースで知ったのか学校で噂になっているのを聞いたのか麗夏が“犯罪者の子ども”と知ったのだと思う。皆話しかけてくることはない。

 彼らとは学校が違うけどどこまで麗夏のこと知っているのか全くわからなかった。

 こんなところで暮らさなきゃならないなんて考えられなかった。

 でも一人でなんて生活できない。

 なんでこんなことになっちゃったんだろ。

 もう何もわからない…。

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