020. 往く道

 僕の入院が普通の入院より少し長引いた。

 もともとの怪我の状態が悪かったのもあるけど栄養状態も悪かったから。

 春休みとかである程度は改善されたかもしれないけれどそれ以上の長期間の劣悪な状態が積み重ねられていたんだからしょうがない。

 なるべくしてなったって感じに思う。

 そして案の定、僕の家族だと言っていた人たちは誰も一度として病院に面会には来なかった。……というよりも来ることはできなかったと言った方が正しいのか。

 それに関しては瑠維さんの仕事だったんだけど。

 まあ瑠維さんが厳しく追及したという。


 細かい話はたくさんあるけれど要点をまとめると…。


 まず一番大きな事件は僕の名前が『禿河亜月』だったのだが『瀧野瀬亜月』に変わっていた。

 僕の母さんが死んでしまったけれど父さんとは結婚したけど元の姓が『瀧野瀬』なのだから何かあればその姓になることはあり得る話だ。

 でも今更どうして?と疑問は残るが僕がずっと待ち望んでいたことだ。

 これでもうあの人たちとの縁が切れたと目に見えて判るものだ。

 一番うれしかった瞬間だけど目にしたものが病院のネームプレートとは…ね…。


 それから瑠維さんは春休みの頃から考えていたようで僕を禿河の家からつれだすこと。

 禿河の家そのものはどうやらお祖父様が母さんのために建てた家だから本来は母さんのものらしい。

 けれどこの家のことはお祖父様も瑠維さんも黙っていて何も言わないでいたみたい。

 本来であれば建てた家・土地には税金がかかっているからそれを支払わないではいられないはずなんだけどそのことは瑠維さんがうまいことをやっているんだと思う。


「俺には亜月の親権があるから正当な権利だ」

 僕のことをその言葉で禿河の家に縛り付けていただけだった。

 親権を持った義務は果たされずに僕に必要なものは全て瑠維さんを通してお祖父様が援助してくれていたのだという。

 だから瑠維さんは夏休みまでには禿河からこれまでの育児放棄の記録を提出して話し合いをする予定だったという。

 けれどその予定はなくなり終了したみたいだ。

 その理由に僕が受けたこの暴行事件だった。


 暴行事件の発端は僕と紫凰が清心きよこと麗夏にしていた嫌がらせ何だという。

 嫌がらせとはいっても紫凰が僕を禿河の家に朝早く迎えに来て寝ているのを起こされただけのこと。

 その苛立ちから紫凰と僕に本音を吐いて全く関係ない紫凰に正論を言われたから。

 この時の暴言は紫凰が録音していて瑠維さんに渡されていた。

 そうやって瑠維さんは僕の親権を剥奪する証拠を集めている最中だった。

 その証拠を突き付ける前に清心がやらかした。

 そう、この暴行事件は清心が計画したものだったのだ。

 闇サイトでのメールのやり取りが残っていて全てが発覚したからだ。


 発覚したのは僕が暴行されていたのを紫凰が捕らえたからだ。

 そのは金欲しさに闇サイトに割のいいバイトを探していて清心の依頼を見つけてすぐにメールをしたという。

 何度かメールをやり取りしていた犯人たちは前科があり、それが五年前に起こした強盗傷害事件でこれも清心の依頼によるものだった。

 それでも一度確定してしまった刑事事件の裁判はされないという法律で一事不再理にあたるため犯人たちも正直に証言した。

 その中で僕を襲って殺して欲しいとまで依頼していたという。

 こんなことをしていても自分は捕まらないと何か変な自信を持っていた。

 けれど犯人しか知り得ない話が出てきて清心は捕まったという。


 そしてこの事件のタイミングで瑠維さんが瀧野瀬グループの顧問弁護士として禿河聖夜の横領を告発した。

 それからはバタバタと忙しかったみたいだけれど瑠維さんは手続きをしていたのだという。

 僕は五日の間は目を覚まさずにいたので、僕には事後承諾となった。

 お祖父様会社の方も騒がしくなったり、禿河の家の周りも報道や記者などが押しかけてきていた。

 その渦中に巻き込まれないように瑠維さんは会社から離れて動いたので僕には殆ど影響はなかった。


 他には麗夏のこと。

 聖夜も清心も麗夏も禿河の家で寛いでいるときに警察がやって来た。

 聖夜と清心は警察署に連れて行かれ麗夏は児童相談所に連れて行かれた。

 その間は誰とも話はできなかったみたいだ。

 一度だけ瑠維さんが面会したようだった。

 面会すると瑠維さんは調べてあったことを淡々と伝えた。

 麗夏の親戚となる人たちは皆、付き合いがないから麗夏のことを引き取りたくないと拒否したという。

 見放された麗夏は瑠維さんにまで泣きながら取り縋ったらしい。


「アイツがどこに引き取られたかは知らないけど私だって血の繋がっている姉弟なのだから私も引き取るのが普通でしょ?それなのに何でアイツだけ…。そうじゃなくてもあそこの家はパパのだから麗夏のものになって住めるはずなんじゃないの?ねぇ、どうして?麗夏があの家から追い出されなきゃなんないの?麗夏がかわいそうだと思うならちゃんと私のことも引き取りなさいよ!」

「…亜月のことはアイツ呼び…か。それじゃ現実っていうものを見せてやるか…」

「何ブツブツ言っているの?アイツはアイツなんだからそれでいいでしょ」

 何を言っても自分の理論で話をまとめようとする麗夏に瑠維は容赦しなかった。


「あのねぇ…そもそも禿河の家とあの土地は亜月君の母親である美桜様の父上・瀧野瀬壱星様の土地。美桜様が亡くなってお宅らが勝手に住みついて不法占拠しているの。しかも十五年近くも居座っていられてこっちとしても困っているから」

 冷たい目をして瑠維は睨んだ。


「そんなこと麗夏、知らないっ!でもアイツとは半分血が繋がっているんだから権利だってあるでしょ?」

「ふっ…。そんなもの…貴女方には一切ありません。医学的にも血縁関係にありません。よって貴女を引き取らなければならない理由はないのです。とは言っても私は弁護士ですから貴女が高校卒業するまで面倒を見てくれる養護施設を紹介しますよ?それとも自力で働いて住む所も自分で探しますか?どちらにするかご自分で選んでください。私は貴女の保護者でもないので助言しかできませんが」

 麗夏の頭では理解不能となりそうになっていた。

 最後には瑠維さんから提案された高校卒業までの二年十ヶ月を養護施設で暮らすことに決めた。

 高校卒業で働くか大学か専門学校に行くかは卒業までに考えることになった。どっちにしても養護施設で生活できるのは十八歳までだから。

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