007. ある事件のその後…


 あの事件後…。


 亜月は三ヶ月近くを祖父・瀧野瀬壱星の家で過ごした。

 最初は部屋の灯りを消して寝ることやひとりでは部屋に居ることさえも怯えてできなかった。

 暫くの間、紫凰と一緒に居ることで少しずつ慣れていった。

 慣れすぎてしまって紫凰と離れられなくなり、三ヶ月近くもかかってしまった。


 それでも亜月は明るさも取り戻して事件前と同じようにとはいかなかったが変わらない程度までにはなった。 

 けれど体調が良くなればなる程、壱星や紫凰たちと離れたくない気持ちが強くなり亜月は沈んでいった。


 あの家に戻らなければならないのか…。

 そう考えただけで苦しい。僕はあんな家に戻りたくないと思っていた。

 だけどそれは口にしてならないことだと思った。

 母さんがいなくなった後の僕みたいに紫凰もお祖父様も皆、父さんとあの人たちに虐められるかもしれないと思ったらそんなことは言えなかった。




 事件後一週間は全く気持ちが落ち着かず、一人になったり暗い部屋に居るだけで怯えてしまうくらいに何もできなかった。お祖父様じいもそんな僕を心配そうに見つめ「無理はするな」と頭を撫でた。

 やっとのことでお祖父じい様の家でも安心して過ごせる場所は僕は認識できた。

 この頃になると何度か警察署に行き、事件の話を聞かれた。

 毎回お祖父様が僕について警察署に行くと小田切さんに駄々を捏ねていた。

 紫凰しおうのおじいちゃんの颯斗はやとさんが宥め、弁護士の佐伯さえき瑠維るいさんと颯斗はやとさんの二人が付き添ってくれることで何とか収まった。

 颯斗はやとさんと瑠維るいさんは一番信頼できる人物だとお祖父じい様は言っていたから。


 お祖父様だって仕事があるのに最近ずっと僕のことばかり心配するのでお祖父様野仕事があまり進んでいないらしい。それらも含めて小田切さんに窘められていた。

 こんな何気ない風景があの家に戻ると僕には手に入れられないものになってしまうのかと思い、不安になってしまった。

 誰にも言えず僕の中でグルグル考えてしまった。マイナスな考えがさらにマイナス思考を呼び深い闇の中へと嵌まっていくような気がした。

 けれど、今まで楽しいことがあったのはたぶん母さんが生きていた頃までだったと思う。もう楽しいと思う気持ちは僕にはわからない。

 僕のマイナスな感情だけが燻っていた。


 紫凰には少しずつ戻ったはずの笑顔の中にどこか寂しさを感じる亜月の表情が気になった。

 亜月は事件の後、瀧野瀬の家に居るが医師の診断で一ヶ月は様子を見てからでないと学校に行かせる許可ができないと言われたため通っていた学校には事情を話し休学している。

 紫凰しおうは普通に生活しているので平日は学校が終わってから亜月の元へ行く。週末になると朝から一緒に過ごす時間が増えたことで判ったことだった。

 紫凰はふさぎ込む亜月が心配になり紫凰の父親・あきらに相談した。


「父さん…、少し話してもいいかな?…亜月のこと…」

「…うん、どうした?」

「亜月の様子が少しおかしいんだ。…一緒に遊んでいても時間が経つと溜息吐いたり、泣きそうな顔してたり…」

「…そうか…」

「ねぇ、父さん…。俺、亜月ともっと一緒にいたいよ…」

「…そうだな…」

「……」


 紫凰しおうは俯いて父・あきらに背を向けて歩き出した。

 紫凰にとっても大事な親友で幼馴染みを失いたくないが、これ以上子供の時分には何もできない悔しさで一言も言うことができなかった。






 三日間、家を留守にした亜月の父親・禿河とくがわ聖夜せいや清心きよこ麗夏れいかが帰ってくると…。


 家の前に乗用車が一台と待っていたが聖夜は気にせず玄関の鍵を差し込んだ。

 鍵を回すが手応えはなかった。


「うん?清心…出かける時玄関の鍵、閉めたよな?」

「え?!どうしたの?」

「鍵が…開いている」

「は?」

 慌てて聖夜と清心は扉を開けて中に入ろうとしていた。


 家の前に止められた乗用車から三人の男と一人の女性が降りて聖夜たちに近づいた。

 一人の男性が歩きながらスーツの内ポケットに手を入れて中から黒い手帳のような物を出してきた。その手帳を広げると男性は聖夜と清心に広げた部分を見せた。


「警察です。少しお話を聞きたいのでご同行願います」

 聖夜と清心は男性が何を言っているのか理解ができなかった。


「な、何よ、あなたたち。誰なのよ」

「警察です。お話をお聞きしたいので一緒に来てください」

 警察官の男性は話の通じない聖夜と清心にイラッとしたが、顔には出さずに繰り返した。


「今家に帰ってきたばっかりで疲れているんですけど?!」

 不機嫌な顔をして聖夜は答えた。

























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