第2話
俺の今の現状を話そう。
俺は帝国との戦争で多分死んだ。
最初は死後の世界にでも来たかと思ったが、どうやら俺が死んでから500年ほど経った時代に転生を果たしたらしいのだ。
俺が生まれた家はアスランド王国の貴族——ではなくその従者の家系だった。父は元々ハイド子爵家の小間使いだったらしいが紛争の際武勲を立てたのでそのまま騎士として使えることになったらしい。
比較的なに不自由なく十年間暮らしてきた訳なのだが、一つだけ困った事がある。
「ロイ。何処を見ている。聞いているのか?」
それがこいつ。ハイド子爵家の末弟で、元神童のカイル・アスランド・ハイドだ。
「カイル様聞いてますとも。『守護霊の儀』の話しでしょ?」
俺がそう答えるとカイルは大きくため息をつく。
「その話は終わっている。その後の話だ。全く。俺の従者じゃ無かったら直ぐにでも打首になりそうだな」
そう言ってもう一度わざわざ俺に聞こえるように大きくため息をつき話を続ける。
だからお前は友達が居ねえんだよ。
「今不遜なことを考えただろ」
「めっそうも御座いません」
カイルは俺に訝しげな視線を送るが俺はサッと目を逸らし外の景色を眺める。
今俺たちは10歳になる年に貴族の少年少女がが受ける事を義務付けられている『守護霊の儀』を受けるため、王都へ続く街道を馬車に揺られながら進んでいる。
整備された街道は『守護霊の儀』の為に多くの兵士により見回りが行われているのか先ほどから武装した兵士たちが歩き回っている。
「いいか?ロイ。徹底的に爪を隠せ。間違っても司令官学校に推薦なぞされるんじゃないぞ。5年だ。5年後俺は領地を立て直す。その時必ずお前の力も必要になる」
「俺の力なんて大したもんじゃありませんよ」
俺がとぼけた答えを言うとカイルはフッと笑い俺を見つめ何も言わない。
俺の考えを見透かしたような視線に思わずのけぞる。
前世が百戦錬磨の兵士でも今は10歳の純粋無垢な少年なんだからのけぞっても仕方ないよな。
「また、馬鹿なこと考えてるんだろうがまあいいだろう。言い忘れてたが仲間は見つけろ。俺の役に立つような奴だ。人脈は…お前に任せるのは不安だから辞めておこう」
「今しれっと馬鹿にしましたよね?」
「ロイ。人には適材適所ってものがあるんだよ」
いや、やっぱり馬鹿にしてるじゃねえか。
それにしても仲間を作る?爪を隠しながら?難易度高すぎませんかね?
寄ってくるのなんてたかが知れた奴ばっかりだろうに。
「それでいい。何か一つでも秀でたところがある奴で良いんだ。お前に寄ってくるような馬…力のある奴を使いこなすのは俺の役目だからな」
今絶対俺みたいな奴のこと馬鹿って言おうとしただろ。
それと、心を読むんじゃねえよ。
「お前の表情がわかりやすいだけだ」
「…」
俺がじとっとした目でカイルを見るとまたも目を逸らされた。絶対隠し事してるよね!?
そうこうしているうちに、馬車は滞りなく進み王都へと到着した。
王都の門には長蛇の列ができていたが、そこはお貴族様パワーで中へと入れた。
高貴なお方万歳。
————————
今俺たちはアムスブルク教の大聖堂で最高司祭様のありがたーいご高説を賜っている。
なんでもこの国では『守護霊の儀』を行うのは最高司祭と高等司祭だけと決まってるそうだ。
しかしアムスブルク教なんて聞いた事が無かったけど時代が変われば宗教も変わるなんて神様は一体どこにいるのやら。
そんな不遜な事を考えていたからか説法を聞いていたであろう神官の一人に睨まれてしまった。
「馬鹿。あくびをするな!」
どうやら頭の中を読まれたわけではないらしい。
隣にいたカイルに小突かれてしまった。
周りをよく見れば他にもうつらうつらとした少年少女が見受けられ、俺がだけが睨まれた事に納得のいかない気持ちになった。
「———では諸君。早速『守護霊の儀』に取り掛かろう。前から一人ずつ奥の祭壇へ来なさい」
最高司祭がそう言うと周りに座っていた神官たちが立ち上がり前に座る少年少女を奥へと案内し始めた。
俺たちは後ろの方に座っているのでまだまだ時間がかかりそうだ。
最高司祭が全員分の儀式をやるのかと思ったがそうでは無いらしい。
どうやら列は三つあり、二列は順調に進むのだが一つだけどうにも進みが遅い。
その列に並ばされているのは見るからに身分の高そうな少年少女で、平民と貴族で列を分けているんだろうな。
ここに居るのは何も全員が貴族ってわけじゃない。俺みたいな従者やある程度裕福な平民の子息も集まっているのだ。
なんでも『守護霊の儀』には金がかかるらしく誰彼構わず受けることが出来ないそうだ。
昔なんかはそこら辺の神官がチョチョイっと行っていた筈なんだけどなぁ。
まぁ、高等な守護霊のついた奴はそれだけで脅威になり得るからな。無闇矢鱈に守護霊を付けると反乱が起きた時、農民が簡単に兵隊になっちまうから理にはかなってるか。
「ロイ。守護霊の報告は義務ではないが、隠すと怪しまれるからな。適当な下級精霊だと答えろ」
俺が周りをぼーっと見渡しているとカイルに小声で忠告された。
「カイル様。それだとまるで俺にとんでもない守護霊がつくような言い方ですけど、俺に期待しすぎじゃないですか?」
「ふん。世間では守護霊は本人の才能に左右されると言われている。なら、お前に高等な守護霊がつくのは当然だろう」
お、これはカイルがデレたのか?男のデレなんて普段なら嬉しくないが常に嫌みたらしいカイルがデレるのは貴重なので素直に喜んでおこう。
「おい。なんだその生暖かい目は。その目をやめろ」
俺たちが戯れていると先に俺の順番がやってきた。
平民用の列は本当に進むのが早いな。いや、貴族側の列が遅すぎるのか。
「カイル様お先に行かせていただきますね」
「くれぐれも分かってるだろうな。さっき言ったことを必ず守れよ」
カイルに心配されながら俺は立ち上がり待機の列に並ぶ。俺の前にはまだ四、五人いるのでもう少し時間がありそうだ。
5分ほどおとなしく待っているとついに俺の順番が来た。部屋の中へと案内されるとそこには俺のことを睨んでいた神官が机の前に座っており、対面に座るように案内される。
既にかなりの人数に『守護霊の儀』を行っているからか中年神官の表情はくたびれてしまっている。
「座りなさい。ああ。君は先ほど大きな欠伸をしていた少年か」
どうも第一印象は悪いらしい。間違いなく俺が悪いから仕方ないけれど。
「普段ならお説教の一つでも言うところだが今日は後ろがつっかえているからね。今後は慎みなさい」
「はい。ごめんなさい」
「ふむ。謝れるのは良いことだ。自分の過ちを素直に認められる君には良い守護霊がつくだろう」
そう言うとやつれた神官は優しく微笑んだ。
慈愛に満ちた表情はやつれていなければさぞ絵になっただろうに。
「さて、早速だが始めようか。こちらに名前を書いてもらおうか。君は字をかけるかい?」
「はい」
「それは良い。よく学んでいる証拠だ」
この人褒め上手だな。嬉しいけどどうにもむず痒くなってしまう。
俺は差し出された台帳に名前を書き込み神官に返す。
「ロイ君だね。では、『神よ。汝ロイに祝福を。彼の者に相応しき守護霊を遣わせ給え。』」
神官が俺の方へ手を突き出し祝福の言葉を告げると手が淡く光出し、その光が俺の方へと流れ込んでくる。
流れ込んできた光は俺の周りを覆い、ゆっくりと形を成していく。
『『よろしくー』』
俺に宿ったのはどうやら火と闇の下級精霊のようだ。
また、アイツらが来てくれるかと少し期待していたがそんな奇跡は流石に起こらねえか。
「無事君にも守護霊が宿ったようだね。初めての感覚だろうが次第に慣れるだろう。二人も守護霊が付くのは中々に珍しいのだよ。君についた守護霊について教えてくれるかい?義務では無いが報告してくれると此方としても助かるのだが」
「火と闇の下級精霊みたいです」
俺が答えると神官は台帳の俺の名前の横に何やら書き記した。
「では、お疲れ様。力を手に入れて舞い上がってしまわない様に。君にはその心配はなさそうだけどね」
「ありがとうございました」
俺は礼を言って立ち上がろうとする。
その時だった。
『おいおい。お前らにこいつの守護霊は務まらねえよ』
『お主らでは無理だ。格が足りんわ』
俺の頭に聞き覚えのある声が響き渡り、祝福の光がまたしても俺を包む。
その光景に一息ついていた神官が立ち上がり目を丸くして固まってしまっていた。
『嘘ー。ぼくたちが付くように言われてるのに』
『そうそう。理に反してるよー』
無理矢理に俺から引き剥がされようとしている二人の精霊が俺にしがみつき離れないように抵抗していた。
しかしそれもコイツらの前では無駄だろうな。それこそ格が違うのだ。
俺を包んでいた光は先ほどとは比べ用も無いほどに強く光り、巨大な存在感を放つ二人の形を形成していく。
『叱られちゃうよー』
『そうだよー。それに君たちも怒られちゃうよー?』
『我らが怒られるだと?来るなら来れば良いわ!』
『久しぶりに血がたぎるってもんだぜ!』
元々俺についていた守護霊は淡い光となり散り散りに空中に飲まれていった。
残された二人の守護霊は大笑いしながら俺の後ろにくっついている。
そして俺はこの状況をしっかりと目撃した神官と目が合い思わず苦笑いを浮かべてしまう。向こうも同じように苦笑いを浮かべなんとも言えない空気が漂う。
どう説明したものかと考えていると先に神官が口を開いた。
「えー。今君に着いている守護霊は明らかに下級精霊では無いのだけれど…」
「いえ、下級精霊ですよ」
『おい!我らを奴らと同等だと?馬鹿にするで無い!』
『そうだぜ!コイツの方が見る目あるじゃねえかよ!』
うるせえ。ちょっと黙ってろ。こっちにも事情ってもんがあんだよ!
神官は額に手を置き大きなため息を吐き、諦めたように言う。
「人には皆それぞれ抱えているものがあるでしょう。しかしそれは隠しきれるものと隠しきれないものがあります。君のモノは明らかに後者でしょう。いずれ明かさねばならない時、頼るものが居なくては困るはずです。私はアラン・クラウスと言います。町外れの教会で普段は司祭をしています。何かあれば私を頼りなさい。私にできるのはそれくらいでしょう」
俺は神官の言葉に思わず目を丸くする。本当に良い人すぎませんかこの人。
「ありがとうございます。その時が来たら頼らせてもらいますね」
「是非ともそうして下さい。台帳にはこのまま下級精霊と記しておきます。一度記入してしまっているので今更書き換えることはそもそも出来ないんですけどね」
俺がペコリと頭を下げ退室する寸前に、「ではまた」と言われ俺は部屋を出た。
とりあえずなんとか乗り切ったな。アランさんだな。出向くときは菓子折りでも持っていくか。
そして俺は教会を出てカイルを待つ。
次はカイルになんて説明するかだなあ。鋭いアイツのことだ下手に隠すこともできないだろうしどうするか。
俺は嬉しくも悩ましい再会に一人大きくため息を吐くのだった。
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