ブルームーン⑤
──ルーナエの奴、とんでもないことしやがったな
正にマスカレイドラビリンスはまじないであった。
リュクレーヌがフランを、フランがリュクレーヌを忘れないための。
呆然とするリュクレーヌを眺めながらフランは「そう言えば」と切り出す。
「僕、結局リュクレーヌに約束果たしてもらってないんだよね」
「約束?」
「酷い!忘れたの?全部終わったら旅行に連れて行ってくれるって言ったじゃん!」
「……あぁ!そんな事もあったなぁ!」
船旅の時に確かそんな約束もした。多分。
おぼろげな記憶の中リュクレーヌは何とか思い出す。
本当に覚えているのか怪しいなとフランはリュクレーヌをじとっと見た。
「はぁ……だいたい、ちゃんと仕事している?それに食事だって……部屋の片づけとかも」
つらつらと小言を言われる。リュクレーヌは耳を塞ぎながら背を向けた。
「……こんな小言を言われるなら再会なんて」
「さっき、作者の顔が見てみたいって言ったのは誰?」
フランは聞き逃さなかった。
──あぁ、もう、敵わないな。
そう思いながら、リュクレーヌは再びフランの方を向いた。
「あはは、会えてよかったよ。フラン」
再会を喜ぶとびきりの笑顔を向けて。
フランも嬉しくなりつられて笑う。すると何かを思い出したように両手を叩いた。
「そうだ!僕これからバイトなんだ。洋食屋でね。良かったらリュクレーヌ食べにおいでよ」
どうやら相変わらず料理が好きらしい。久しぶりのフランの料理。
想像しただけでリュクレーヌは腹の虫が鳴きそうだった。
「いいのか?久しぶりだな」
「とびきり美味しい物作ってあげる。あっ、そうだオムライスにしよう!」
「オムライス?なんでまた」
フランの提案に首を傾げる。ふわふわとろとろの黄色い卵がケチャップライスの上に乗ったアレ。
わざわざ献立をチョイスした理由をリュクレーヌは問う。
「だってさ、満月によく似ているでしょ?」
フランは天に輝くブルームーンを指さした。
なるほど、黄色くて丸い。
リュクレーヌを形容するようなモチーフの食べ物でもある。
なんだか、そこまで考えてくれたのが照れくさかったのかリュクレーヌは「そうだな」と笑った。
そうと決まれば二人は洋食屋に向かう。
月明かりに照らされ、この二人の影が伸びるのは約百年ぶり。
そう言えば、ブルームーンを見ると幸せが訪れると言うらしい。縁起物だ。
百年以上の時を経て、二人の魂が再会できたのは、夜空に浮かぶ青い月のおかげかもしれない。
マスカレイド・ラビリンス 宵之祈雨 @Kiu_Yoino
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