ブルームーン③


 



 

2020年10月31日


東京 渋谷


ブルームーンとは一月に二度満月が起こる事を言う。

日本でハロウィンに満月となるのは実に46年ぶりだと言う。


「約束通りに来てみたは良いけど、今年は浮くな……」


2020年のハロウィンの渋谷は例年よりも人手が少ない。

こればかりは仕方のない事だった。

とぼとぼと渋谷の街を歩く。


フランは本当にいるのだろうか?


その時だった。


「あっ」


一人の少年がぶつかる。

咄嗟にリュクレーヌは少年に謝った。


年齢は高校生だろうか。

シンプルなチェックのスラックスに、ベストとブレザーの制服を着ている。


「あぁ、すいません……!?」


マスクをつけていたが、それでも分かる。


──フラン!?


なんと、少年はフランにそっくりであった。

髪色こそは違うが、正に自分の知っているフランだ。


こんな偶然があってもいいのか?リュクレーヌが暫く硬直していると、少年はきょとんと見つめる。


「……え?どうしましたか?」


「あっ……いや、なんでもない」


はっとして取り繕う。


そうだ、フランは死んだのだ。


いるはずがない。


今目の前に居るのはフランによく似た日本の高校生だ。

すると、少年はにこりと笑顔を見せた。


笑った顔もフランによく似ている。


「お兄さん、それ、コスプレですか?とっても似合っていますね!」


「あぁ、どうも」


そう言えば、今夜はハロウィンだ。

少年に自分の青いインバネスコートを指摘されて改めて思い出す。


もし、フランがどこかに居るのであれば、ハロウィンをわざわざ選んだのは彼なりの気遣いなのかもしれない。

リュクレーヌが、探偵リュクレーヌの恰好をして現れやすいようにと。

少年はリュクレーヌの服装を褒めると鞄から本らしきものを取り出した。


あの本だ。

フランが執筆した『マスカレイド・ラビリンス』


「この本の、探偵ですよね!僕、大好きなんですよー!」


「随分と古い本を知っているんだな」


『マスカレイドラビリンス』はフランの生前に執筆されたもの。もう、50年くらい前の本である。

少年の年齢から珍しいものだとリュクレーヌは感心した。

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