ブルームーン②
リュクレーヌはロンドンへと飛んだ。
幸い、飛行機に乗るくらいの金は持っていた。
石畳の道路に、背の高い建物。
百年と言う時間を経て、文明が進んでいても街並みは変わらない。
ロンドンの街はあの時のままリュクレーヌを迎えてくれているようだ。
「ここか……」
ルーナ探偵事務所のあった場所に到着した。
フランが言う通り、レストランになっていた。ここがフランの開いたレストランである事は明白だった。
ルーナ料理店なんて、店の名前だったから。
「お客さんかい?」
一人の婦人がドアからひょっこりと顔を出した。
ちょうどいい、フランの事を聞いてみようとリュクレーヌは尋ねる。
「あの、ここのお店を開いたフランさんって」
「あぁ!知っていますよ!彼は本当にすごい料理人だった」
「あの、今は……」
「とっくの昔に亡くなっていますよ?」
そうだ。あれからもう百年以上経っている。
フランが生きているはずなど無かった。
分かってはいた。
それでも突き付けられた現実にリュクレーヌはショックを隠せない。
「あ……そ、そうですよね」
「コンセルタさんの知り合いですか?あっ!もしかして……」
婦人は店の中に入る。
何かをごそごそと探し、急ぎ足でリュクレーヌの元へ駆け寄る。
手には、手紙のようなものが握られていた。
「彼の親戚から手紙があってね。日本からのエアメールなんですけど。なんか、よくはねた紺色の髪の毛に黄色い瞳の胡散臭い25歳くらいの紳士に会ったら渡してくださいって書いてあるんですよ」
「えっ」
特徴はリュクレーヌそのもののものだった。
──フランに親戚が?
家族を全員殺されて親戚など居るはずが無いが、自分と離れた後に家族が出来た可能性はある。
日本からであるのがとても不思議ではあるが、リュクレーヌは手紙を受け取った。
その日、宿にて、早速もらった手紙を読むことにした。
一体何が書かれているのだろうか。リュクレーヌは手紙を開くと宛先が自分である事にまず驚いた。
親愛なるリュクレーヌへ
ここに来たって事はあの本を読んでくれたんだね。
ありがとう。
僕はもうこの世にはいないけど、どうしても伝えたいことがあるんだ。
ハロウィンのブルームーンの夜に、渋谷に来て。
P.S.ちゃんとご飯食べている?またクッキーばかり食べていたらだめだよ!
優秀な助手フランより
手紙はフラン本人からだった。
リュクレーヌは目から何かが伝うのを感じ、顔を覆う。
「フラン……」
──やっぱり、一緒に居なくてよかった。
彼の死に目を看取っていたならどれほどに悲しかっただろう。
だが、本当に悲しいのはフランだ。
記憶があるまま、突然リュクレーヌが消えたのだ。
だからせめて、心の中のリュクレーヌを小説の中で生かそうと思ったのだ。
リュクレーヌという探偵の心を、永遠に存在させるために。
フランの事を思うとどれほど自分が不義理な事をしてしまったのだろうとリュクレーヌは深く、深く悲しんだ。
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