エピローグ
ブルームーン①
それから百年以上が経った。
リュクレーヌは各国をぐるぐると回りながら、人間に紛れ生活していた。
ある冬の日、ニューヨークにて宿に泊まろうとした。
コートに付いた雪を払いながら、チェックインをしようとフロントへと向かう。
フロントで名前を書いていると、ホテルマンが、「おや?」と声をかける。
「お客さんの名前……」
「あぁ、珍しい名前でしょ」
リュクレーヌは笑って見せる。
自分の付けたリュクレーヌという偽名だ。
そういるものではない。
すると、ホテルマンは首を横に振り、一冊の本を取り出した。
「そうじゃなくて、この本の主人公と同じだなぁと思ったんだ」
「本?」
リュクレーヌは差し出された本を受け取り表紙に書かれた題名を眺める。
「マスカレイドラビリンス……」
それどころでは無い。
作者がフラン・コンセルタなのである。これは偶然か?
リュクレーヌは本をまじまじと眺める。
「いやぁ、すごい偶然だねぇ。この本の主人公もリュクレーヌって言うんですよ」
「すいません!この本ってどこで?」
「あぁ、元はイギリスで発行されたみたいでね、親戚に買ってもらったんだよ。この辺りでは売ってないもんでね」
できるならこの本を読みたかった。
だが、売っていないのならばどうしようもない。
「そう……ですか」
リュクレーヌはがっくりと肩を落とす。
「何だい、読みたいのかい?いいよ。一晩だけ貸そう」
その様子を見たホテルマンは、同情したのか、本を貸すという。
こんなチャンスはもう無いだろう。
「ありがとうございます!」
リュクレーヌは本を抱きかかえ、部屋へと急いだ。
その夜は、ひたすら『マスカレイド・ラビリンス』を読んだ。一晩で何とか読み切った。
やはり、この本はフランによって書かれたものだ。だが、自分やマスカの記憶を消したはずなのに何故?
リュクレーヌにはそれだけが謎だった。
こうしてはいられない。
確かめなければならない。
翌朝、リュクレーヌは朝一番でフロントへと向かった。
「チェックアウトで」
「おや、昨日の」
フロントに居たホテルマンは昨日本を貸してくれた彼であった。
丁度いい、とリュクレーヌは本を手渡し、礼を言う。
「これ、ありがとうございました。とっても面白かったです」
「あぁ、それは良かった。そうだ、本日はどちらへ?」
チェックアウト時の世間話。
行先を訊かれる。
決まっていた。
今日は──
「ちょっと、ロンドンまで行く用事が出来てしまいました」
そう言ってリュクレーヌは笑って見せた。
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