マスカレイド・ラビリンス

どういう事だ、ブラーチからリュクレーヌの事がマスカの記憶ごと綺麗に消えている。


「どうしたの?」


隣の部屋からクレアが出てきた。そうだ、彼女に訊こう。とフランはクレアの名前を呼ぶ。


「クレア、リュクレーヌを知らないかい?」


「え?だあれそれ?」


クレアも全く同じ反応だった。


「そんな……」


よろよろとした足取りでフランは病院を後にする。二人は怪訝な表情でフランを見た。

 


その後手あたり次第、知り合いにリュクレーヌの事を聞いてみた。


しかし、ラルファもアドミラも皆、マスカの記憶が無かった。勿論、リュクレーヌの事も。


「皆、リュクレーヌを忘れている?どうして、どうして……」


どうして自分だけが覚えているのか、謎であった。


「リュクレーヌ……」


そして、リュクレーヌの行方など見当もつかなかった。


 

それから、街は──いや、世界は平穏を取り戻した。

マスカと言う存在がなかったも同然の世界へと戻ったのだ。


その後皆がどうなったか?


ブラーチはクレアと共に病院を経営していた。

形は違っても街の人の命を守る存在となっていた。二人共幸せそうだ。


アドミラは警察に就職したらしい。なんと刑事になって、ラルファといいコンビだと言う。これは意外な展開だ。


そして、フラン──いや、僕はね、リュクレーヌ。

君が住んでいたあの事務所でレストランを開いたんだ。


結構繁盛したんだよ?

僕はもうキッチンに立っていないけど、今もまだ店はある。


僕の人生ももうすぐ終わる。

けど、やり残したことと言えば、やっぱり君の事になるんだ。


君にもう一度会いたかった。


君が居た事を証明したかった。


だから、こうして僕は君と過ごした、たった一年だけどかけがえのない一年をこうして本にすることにしたよ。


君は不死身だ。

それならいつか、そう遠くない未来にこの本を手に取ってくれているかもしれない。


君の永い人生の中で僕が居たという事を思い出してくれれば、幸いだな。

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