お別れなんて許さない
もう、リュクレーヌが救いたかったルーナエはいない。この事実だけが冬の夜の空気のように刺さる。
「大切な誰かを失うのは、辛いものだな。俺は今後永遠にこの苦しみを味わうんだ」
「……不死身、だからね」
リュクレーヌは不死身だ。これからもずっと。今後、たとえ大切な人物がどんなにできてもいずれ死と言う別れが訪れる。
これ以上、大切な誰かをリュクレーヌは死によって失いたくなかった。もう二度とこんな悲しみは味わいたくなかった。
「だから、フラン。今日でお別れだ」
「えっ……」
フランは思わず顔を上げる。表情こそ見えないが、リュクレーヌの声は震えていた。
それでもリュクレーヌは、淡々とこれからの事を話そうとしていた。
「これ以上、お前とは一緒に居られない。お前は明日になったら普通の人間として、生きてい……くっ!?」
突如首元に激痛が襲い、思わず声を裏返す。それもそのはず、フランは背後からリュクレーヌの首をぎりぎりと締めていた。
「……何それ」
フランがいつもよりもワントーン低い声で囁く。
「え?」
「そんなの絶対に許さないよ。リュクレーヌが望んでも、それだけは許さない!」
「いてててっ!やめろ!死ぬっ!死ぬ!」
ギリギリと首に食い込む力が強くなっていき、リュクレーヌは悶えながらフランの腕を叩いた。
「どうせ僕が居なくなったらまたお菓子生活のショートスリーパーするんでしょ?そんなのだったらね、いくら不死身とは言え、生活習慣病で苦しんじゃうよ!」
「分かった!分かったから!!ごめん!ごめんって!」
ようやく分かってもらえたか、とフランは腕を首から放した。
自分がいかに残酷な事を言ってしまったかリュクレーヌは身をもって知ってしまった。
「辛い事言って、ごめんな……」
「……こっちこそ、首絞めてごめん」
ファントムに煽られた時には「別にそういうのじゃない」なんて言ったが、やはりフランにとってリュクレーヌは切っても切れない存在だった。
明日からは赤の他人です、貴方は自分と出会う前の生活をしてください、なんて言われて納得が出来るはずが無かった。
腹を立てていたら、なんだか疲れてきた。そんなフランの様子を察して、リュクレーヌは「もう少し、寝とけ」と促した。
「うん……」
フランは再び瞳を閉じて、眠りに就いた。
「……ありがとう」
フランが眠ったのを確認して、最後に礼だけは言っておかなければとリュクレーヌは小さく囁く。
目が覚めた頃にはきっと自分の事もマスカの事も、この一年間の事全てを忘れて一年前と同じ生活をするんだ。
フランの耳に届いたかどうかは分からないが、礼を言えた。リュクレーヌはそれだけでいいと思えた。
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