背中の温もり
静寂に機械の音がする。発信装置だ。遠隔で通話ができるための。
リュクレーヌは、顔を上げ、応答する。
「……お?なんだ、ブラーチか。そうか、わかった。ありがとう。クレアにも礼を言っておいてくれ」
声色が徐々に明るくなる。
「ブラーチさんは、なんて?」
「たった今、全てのマスカが動きを止めたんだとさ。作戦は成功だ」
ファントムが討伐できた。つまり、マスカの主となる存在が居なくなった。
マスカはこれ以上、人間を襲う事は無い。人間の魂を喰らう存在は消え去った。
ほっとしたフランは笑顔を零した。
「よかっ……」
言いかけたところで、フランの意識が途切れる。
「おい!フラン!!」
どさ、と鈍い音が響く。
冷たいカーペットの上にフランの体が倒れこんだ。
◆
ザク、ザク、と踏みしめる音がする。
真冬なのに、温かい。胸から腹にかけて、温もりを感じる。
「ん……」
フランはゆっくりと瞼を開く。ぼんやりとした視界の中には、一面、ロイヤルブルーが広がる。
もう少し、視界がはっきりした時にようやく、目の前に広がっているのがリュクレーヌの背中であると気づいた。
「お、気づいたか」
「あれ?僕……」
フランはリュクレーヌに背負われながら帰路へと着いていたようだ。
いつの間に眠っていたのだろう。記憶が曖昧だった。
「どうやら魔力の使い過ぎでお前、寝ちゃってたんだよ」
「ごめん……すぐ降りる」
このままでは申し訳ないとフランは下りて自分の脚で歩こうとする。
「あぁ、良いって。かなり疲れたんだろ?」
しかし、フランの体を気づかって、リュクレーヌはそのままで良いという。
幸い辺りには誰も居ない。大の大人がおんぶされるところを見られるなどという心配もない。
そのまま、お言葉に甘えてフランは背負われた状態でいた。
真冬の深夜の凍てついた空気が頬を撫でる中、人肌だけが温かい。
中身は機械でも、リュクレーヌからは人間の温かみを感じた。
「……本当はさ、気づいていたよ。ルーナエが死んでいた事」
「えっ?」
「元々、薄々感づいていた。フランが連れ去られた後、俺はマスカレイドラビリンスに呼び出されたんだ。そこにルーナエが居た。バックアップって言葉でアイツの本当の魂はもうどこにもないんだなって、分かったよ」
自分の救おうとした魂は無かった。それはリュクレーヌに分かっていたという。
「今はもう、そのバックアップも無くなってしまったみたいだけどな」
「……」
フランは黙り込む。
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