マスカを作りし者は業火に焼かれ


「流石兄さんだよね。それを見越してフランに囮になるように伝え、ごく自然に君に銃を託した。名演技だよ。本当に。」


リュクレーヌはそれを逆手に取ったのだ。ルーナエの死に絶望して膝をつき、倒れこんだふりをしてフランに作戦を告げた。


「銃の所有権をファントムに渡せ」と。所有権によってマスカレイドラビリンスの呪いをかける事で、ここにファントムを呼び出す為に。


「あ……」


気づいた時には後の祭りだ。ファントムは自分の知りえない情報によってまんまと迷宮へと閉じ込められる。

ここは迷宮であり最後の砦、墓場だ。ルーナエは呪文を唱える。闇で包まれていたはずの空間に紅蓮の火が灯る。

地獄の業火だ。


「終わりだ、ファントム。これからこの迷宮は地獄の業火に焼かれる」


「でも、そんなことしたらお前の魂まで消えるぞ!いいのか!それで!」


「いいよ」


間髪を入れずにルーナエは答えた。嘘偽りも、迷いもないまっすぐとした瞳を向けて。


「僕もマスカを作ってしまった張本人だ。けじめはちゃんとつける」


自分のやってしまった事に対する償いのつもりだった。

マスカと言う悲劇の兵器を生んでしまった自分も、地獄の業火に焼かれ、この世から未来永劫魂を消し去る。そのつもりだった。


「いやだ、いやだ……死にたくない!」


ファントムは往生際悪く、喚き散らしながら、じたばたと暴れる。

そんなファントムをルーナエは抱きしめるようにして抑えつけた。


「大丈夫、一人じゃないよ。一緒に死のう?ファントム」


火はすぐそこまで来ていた。じゅっ、とファントムの体に燃え移る。


「熱い、熱いよ、まだ、まだ……うわああああああああっ」


業火が二人を包む。


炎に呑まれ、マスカを作ってしまった二人の魂は完全に葬られた。


 

月明かりが差す真夜中。


ルーナエの一室で、スチームパンク銃は煌々と燃えていた。


赤々とした炎は銃だけを焼き、それ以外の室内のものには一切燃え移らない。


やがて、炎はみるみるうちに小さくなり、最後にはあっけなく消えて、そこには炭も灰も残らなかった。


「燃え尽きた……な」


スチームパンク銃はマスカレイドラビリンスそのもの。

ファントムの魂を焼き尽くすという目的を完遂し、役目を終えて炎と共に消え去った。


「全部、終わったんだね」


「あぁ」


マスカレイドラビリンスはマスカを生み出した者達を、全てを焼き去った。ファントムの魂、そして──


「ルーナエさんの魂も……」


「……」


リュクレーヌは俯き黙り込んだ。救いたかった。ルーナエの魂の為に戦ってきたはずだった。

それが、最後にはファントムの魂と共にあっけなく燃え尽きたなんて。


暫く無言の時が続く。悲しい現実に向き合うまでは時間がかかるものだ。

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