所有権

 


「えっ!?」


ファントムが再び目を開けた時、先ほどの閃光は何処へ行ったのか、再び闇に包まれたようだ。

しかし、場所はルーナエの部屋ではない。そんな面影何処にもない。


「何だ、何が……起きた?」


床にはびっしりと骸が敷き詰められる。よく見ればマスカの残骸だ。崖がある。辺りは闇で包まれている。

それどころでは無い。人質に捕っていたフランがいつの間にか、遠くの方でリュクレーヌに救出されている。


何よりもファントムが驚いたのは右手に握っていたはずの銃が消えていた。


「銃がない!?どうなっているんだ、これは、これは……」


混乱するファントムをよそにリュクレーヌはフランに近づき、耳打ちをする。


「フラン、俺達は逃げるぞ」


フランは頷いた。すぐ傍は崖、この崖から落ちれば脱出できることを二人は知っていた。


「しっかりつかまっていろよ」


「うん」


二人は崖から飛び降り、迷宮からの脱出を図った。

一方ファントムはいまだに状況が読めないまま、一人困惑するばかりだった。


「なんだ、一体……どうして、ここは」


「マスカレイドラビリンスの中だよ」


ともなく現れたのはルーナエだ。ファントムの頭の中はさらに混乱を極めた。


「ルーメン……どうして、お前が!お前の魂は食べたはずだったのに!それにここは──」


「よくできているでしょ?一度君に魂の一部を食われて、実物を見たからね。消化機能もちゃんとあるんだよ」


「ボクは出て行くぞ!ここを飛び降りれば……」


リュクレーヌとフランは崖を落ちた。自分も同じようにすれば元の世界へと戻れるはずだとファントムは確信していた。

だが、会ったはずの崖はもう無い。地面は果てしない地平線が続く。


「あ?何故だ!さっきまでここは崖だったはず!」


「もう出られないよ。フランとリュクレーヌが避難したから僕が結界を張った。今やここは本物の迷宮だ」


逃げ道は断たれた。マスカレイドラビリンスと言う迷宮から出る術はもう既にどこにも無い。


「ボクは撃たれていないのに、どうしてここに連れてこられたんだ!マスカレイドラビリンスの呪いは撃たれなければ」


「所有権」


ルーナエが喚くファントムを遮るように冷たく放つ。


「マスカレイドラビリンスの呪いはね、銃の所有者にも宿るんだ。フランがここに居たのはそういう事」


「そんな事……キミは一度も計画していなかっただろう!」


「予想外だったんだよ。この迷宮に来てから気づいた事だ。まあ、よく考えたらそうだよね。僕自身がここに居るって事は、この呪いが宿っているんだ。それは銃の所有者だったから」


ルーナエはこの事実に生前気づいていなかった。フランがマスカレイドラビリンスに来た時に初めて気づいた。

ファントムがルーナエの記憶を監視できたのはルーナエの魂がまだルーナエの躰に残っていた時だ。

つまり、ファントムが「銃の所有者にマスカレイドラビリンスの呪いがかかる」という事実を知るすべはなった。

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