甘美なる魂

距離を詰めても、すぐに逃げられる。リュクレーヌが捕えようとしても逃げられる。


「くそっ!当たらない!」


「ボクは弾丸を避けるだけでいいからね、とても楽だ」


ファントムは嘲笑うように空中を踊りながら舞う。口笛を吹きながらステップを踏んでしまうくらいには余裕を見せつける。


「余裕があるから、少しだけお話しようか、ボクがなぜマスカを作ったのか」


ニヤニヤと笑いながらファントム喋り出す。

隙が出来たと思って、フランが引き金を引くも、弾丸は呆気なくファントムに掴まれる。


例え銃弾を放っても、ファントムはそれを掴むのであれば、もはや彼を撃つことなど不可能ではないか。

フランは絶望した。その表情をファントムが確認すると、またニヤリと嬉しそうに笑う。


「君たちのお察しの通り、ボクは人間の魂を食べている。生きるためには仕方ない事なんだ」


生きるためには食事をしなければならない。

誰かしらの命を頂かなければならない。動物や植物を食べる人間と同じだ。


それはファントム──悪魔も同じことであった。


食べるものが人間の魂である。食物連鎖の頂点に悪魔が立っている。それだけだ。


「それなら死んだ人間の魂を食えばよかっただろう!わざわざこんな残虐な方法を──」


「フレンチのフルコース」


会話の返事とは思えない言葉をファントムは返す。


「えっ?」


「ブラウニー、玉子サンド、スモークサーモンのシーザーサラダ、鶏肉のフルコース」


「何だ?」


「ミネストローネ、キャビア、残り物のサンドウィッチ、カボチャのシチュー、牛と羊のタン」


つらつらと料理名をファントムは羅列した。

その料理がこれまでフランが作ってきたものだと気づいた時、ファントムは肩をすくめる。


「人間が料理をするのと同じさ。ボクだって魂を美味しく食べたい。哀しみや恨みのスパイスをかけて、怒りや憎悪の炎でこんがりと炙った魂のほうが美味しそうだろ?」


「屑が好きだって言ったのは……もしかして」


「そうだよ。ボクの主食は人間の魂だけど、好物は妬みや悲しみや怒りにまみれた屑な人間の魂だ!だったら悲劇を生んで魂を調理すればいい!そのために僕はマスカを作ったんだよ」


ファントムにとって、マスカは魂を美味しくしてくれる調理器具のようなものだった。

リュクレーヌは目を見開き震えた。たった、それだけの為に、弟の頭脳や心は弄ばれたのかと、絶望した。


「そんな事の為に……ルーナエを」


「あぁ、そうそう。ルーナエの魂も美味しかったよ」


舌なめずりをしながらファントムが冷酷に告げる。弟の魂の味を。

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