本物の弟
数分後、事務所にはブラーチが駆けつけた。
「それで、私が呼ばれた訳か」
「そういう事。頼んだぞ。ブラーチ」
魔術師であるブラーチならこの来訪者が悪魔のファントムであるか弟ルーナエであるかを見分ける事も出来るだろう。
単純だ。ファントムの魔力が検知されるか。
たったそれだけでいいのだ。
リュクレーヌは白衣の肩の部分を叩いた。
フランは視点をブラーチの方ではなくその横の人物へと向けた。
「ところで、クレアも一緒だったんだね」
「えぇ、近くにいたからね」
「念のため、緊急事態にはアマラが居た方が良いだろう。」
「なるほど」
もしもここで目の前の人物がファントムだった場合は戦闘に移る事になる。
アマラ軍の中でも群を抜いて強かったクレアを呼ぶのは心強い。
準備は整った。後はブラーチがこの男の正体を調べるだけだ。
「この男がファントムかルーナエか調べるという事だな。分かった」
術が唱えられる。
その瞬間、事務所が光へと溶けていく。
眩くて目を開けられない。リュクレーヌもフランもクレアも目を閉じた。
いったい、彼は、ルーナエなのか、ファントムなのか──
暫くすると光は止んで、みるみるうちに事務所は元の空間へと戻っていく。
ブラーチが、小さく息を吸って、結果を告げる。
「……ファントムの魔力は検知されない」
結果、この男はファントムでは無かった。
「という事は、この人はルーナエさん?」
「そういう事になるな」
彼はルーナエだと分かった。
フランは、構えていた銃を恐る恐る下ろして、ガンホルダーにしまい込んだ。
「やっと分かってくれたみたいで安心したよ」
ルーナエは柔らかく微笑んだ。
その表情は、フランが彼と出会った時のままだった。
リュクレーヌとは違う、物腰の柔らかそうな雰囲気だ。
「……だが、念には念を置く」
ブラーチが再び何やら術を唱えた。
突如、事務所には魔方陣らしき円形の文字の羅列が至る所にびっしりと敷かれる。
魔方陣は、夏の夜空に飛び交う蛍のように淡く光っていた。
「ブラーチさん、何をしたの?」
「この空間では魔術を使えない結界を張った。期間はルーナエがこの部屋から出るまで……だな」
「なるほど、これでこいつがファントムだとしても魔術に関した攻撃を仕掛ける事は出来ないって事か」
「大丈夫ですよ。僕はルーナエなので」
ルーナエは、張り付いたような笑顔で言う。
少し胡散臭いと思いながらも、十年ぶりに再会する弟だ。
リュクレーヌは、弟の面影を感じる表情に複雑な心情であった。
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