緊急事態


 

死体をアマラ軍へと引き渡した後にはマスカは撤退したらしく、街は束の間の平穏を取り戻していた。

二人は今の内に、と事務所へ直帰した。


「たくっ……日に日に勢力が増してるな」


「どうして……こんな事に」


「アマラ軍も一度壊滅寸前まで追い込まれているからな」


テレーノ教とネオン新聞社によってアマラ軍は裏切り者だとゴーレムに襲撃を受け、追い込まれて、組織としてバラバラになろうとしていた。

軍だけではどうにもならない。当然、フランやクレアにも協力要請が出ている。

軍に属していなくとも、かつてないほどの脅威をもったマスカ達に、立ち向かい市民を守るために戦っていた。


「僕も戦える限りは戦うけど」


「無理はするなよ」


労いの言葉を掛ける。

いや、無理をするなと言う方が無理かもしれない。

それでも、今のリュクレーヌできる事は限られていた。


ファントムたちはもう、姿を偽り、人間に紛れることなどやめていた。

するとどうだろう。リュクレーヌが推理をする事はもうない。

つまり、リュクレーヌにはフランをサポートする事しか出来ない。その状態がどうにももどかしい。


「……俺に出来る事は、もう」


リュクレーヌが俯きながら呟く。


「仕事ならあるぞ」


すると、脳天から低い声が響いた。

リュクレーヌが、顔を上げて「誰だ?」と確認する前に、フランが来客者の正体を明かす。


「アドミラさんとラルファさん?」


リュクレーヌが顔を上げた先には刑事と司令が居た。

いつの間に、と思いながら眉をしかめる。


「入る時はノックしてくださいよ」


「緊急事態だ。仕方ないだろ」


だがアドミラは謝ることなく、ラルファと共にソファに座った。


「あの、緊急事態って……この、襲撃の事ですか?」


「それもあるが、な。また別件だ。俺達警察は総力を挙げてファントムの行方を捜している。だが、全くもって見つからない」


「心当たりなら俺達にも無いですよ。な、フラン」


フランは「うん」と同調して首を縦に振った。


「あぁ。それにファントムを見つけたところで戦える勢力はもう……」


壊滅しかけのアマラ軍にファントムを封印する余力など無いだろう。

目の前のマスカを倒すので精一杯だ。それでも、多くの犠牲を払っている。

だとしたら、ファントムに遭遇した時に戦うなど不可能。対抗手段はただ一つ。


「封印するしかないって事か」


「そう言えばブラーチさんがファントム封印の方法を探してくれていたはずだったけど、それはどうなったの?」


「あぁ、なんとか手はあったみたいだ。封印する魔術はいくつかある」

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