11.ビーバームーン

戦争と地獄

硝煙と血と砂埃の臭いがこびりつくようだ。

日に日に増す、マスカの勢力によりロンドンは壊滅状態だった。約一年前の姿など見る影もなかった。


──あの日見た地獄と同じだ。


テレーノ教襲撃以降、正体を明かしたゴーレム──マスカはより一層勢力を増していた。

あの時、ファントムとマスカによって犠牲になった信者たちは千人近くいた。

それだけでは済まない。その後も人間の皮を手に入れたマスカ達は数を増やし続けていた。


十一月末の今でも襲撃は容赦なく行われる。

正に、戦争だった。


「フラン、上だ!」


「うん!」


リュクレーヌが指示を出す。民家の屋根の上にマスカが居る。

フランは照準を合わせて銃の引き金を引き、マスカを撃破した。


「やった!」


だが、マスカは置き土産と言わんばかりに、屋根を破壊する。

そのまま屋根だったはずの瓦礫は少し離れた別の建物めがけて投げられた。


「……しまっ!?」


「なっ……」


予想外の事態だった。瓦礫はリュクレーヌにも追いつかないスピードで到達し、建物は崩壊した。

その建物は、学校だった。今日のマスカによる襲撃が始まってから、絶対に外には出るなと指示を受けていた数人の子供たちが居る。

瓦礫は、ガラガラと無機質な音に加え、ぐちゃりと生々しい音を立てて崩れ去った。


「あ……」


下敷きになった子供たちは跡形もなくなっていた。体中を流れていたであろう、血だけが瓦礫と地面を紅く染め上げていた。


──一体、何人犠牲にすれば気が済むんだろう?


フランは、命を救えなかった悔しさで歯ぎしりをして、拳を地面に叩きつけた。

膝まずいて肩を震わせるフランにリュクレーヌが寄り添うように近づいた。

すると、フランは「大丈夫」とだけ掠れる声で零した。


「今はとにかく死体をアマラ軍に運ぼう」


「そうだな……」


死体がファントムの手に渡ってしまえば、新たなマスカが増える。

最も避けなければならない事態だ。戦闘中に出た死体は回収。アマラの中で新たに決められた。

死体を運ぶのはリュクレーヌだが、フランの心には鉛のように重たい後悔が積み重なっていた。


「言っておくけど、お前のせいじゃないからな」


「うん……」


そんな心中を察しているリュクレーヌは、呪文のようにいつもフランに声をかけていた。

 



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