幸せなのは悪なのか

けれども、神に背き不貞をはたらいた人間はいずれ天罰が当たるはず。そう、思っていた。いや、そう思っていないとやっていけなかった。

数年後、結婚した彼女の知らせを教会から聞いた。きっと、何か悪い知らせに違いないとミーナは思った。

が、知らせと言うのは二人目の子供を授かり、幸せな家庭を築いているという内容だった。


──どうして?私はこんなに苦労しているというのに


手紙に同封されていた写真に写る彼女たちの幸せそうな笑顔に、ミーナの感情はぐちゃぐちゃになっていた。

期待していた。神を裏切った彼女が裁かれるのを。

神はどうして彼女を裁かなかったのか、私を救わなかったのか。


あぁ、そうか。それならばいっそ──


壊れた心は一つの結論へと帰結する。


──真面目に生きてきた人間だけの世界を作ればいい


彼女の心は、正しさに蝕まれていた。


「こうして、私はテレーノ教を作ったわ。真面目に清く正しく生きた人間が幸せになれないなんておかしいでしょう?」


動機の全てを白状したミーナは不気味に笑いながらクソ真面目に問う。

フランは暫く何も言えないままだった。だが、リュクレーヌはもう一度強い目線でミーナを睨みつけると、口を開いた。


「……なぁ、そんなに正しい事って大切か?」


「え?」


「正しさの為に、自由を失って、好きなことも出来ない。やらなければならない事しかやらされない。そんな世界でみんなは幸せか?それは本当に正しい事なのか?」


リュクレーヌは問う。全てを失ってまで正しさに拘ったミーナの人生は正しかったのかと。


「それともお前は、幸せに生きる事を悪だと思っているのか?ただの嫉妬じゃないのか」


「……るさい」


「お前が幸せになれないのは、正しさだけに囚われているからだ!どんなに正しくても、心を失った人形になっちゃ幸せなんか掴めっこないんだよ!!」


幸せとは常に正しさと直結するものではない。正しさだけ追い求めたところで残るものが幸せとは限らない。

正しくなくても幸せを掴む者だっている。そう言った人間の幸せを妬み、悪だと糾弾したところで自分が幸せになれるはずはない。


そもそも、正しさの定義も幸せの定義も人間の心が決めることだ。絶対的な正しさも絶対的な幸せもこの世には存在しない。

彼女の言う清く正しく真面目な人間は、彼女の主観でしか決まっていない正しさである。


「五月蠅い!黙れ!ゴーレム共!こいつらを殺せ!殺せ殺せ殺せ!皆殺してしまえ!」


逆鱗に触れてしまったようだ。ミーナはゴーレムにリュクレーヌ達の処刑を命じた。

フランが戦闘態勢に入る。


だが、背後に居たゴーレムたちは微動だにしない。


「どうしたの、ゴーレム。ほら、早くしなさいよ!」


フリーズしたゴーレムに対して再度ミーナは命令する。しかし、ゴーレムは止まったままだ。

おかしく思い、フランは銃を下ろした


「どうなって……?」


分からない。ゴーレムが主人であるはずのミーナの声に従わない。絶対服従であるはずなのに。

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