正しき者の理想郷
「俺たちは、何のために……信じていたんだ」
「ふざけるな!降りてこいインチキ野郎!」
「金返せ!ペテン師!」
「畜生!ネオン新聞でこの礼拝堂燃やしてやる!」
これに当然、信者の怒りは爆発。黙って話を聞いているだけの信者たちも拳を上げ、今度はこの茶番劇の張本人であるミーナへと矛先は移っていった。
「……れ」
「何だ?」
リュクレーヌが、俯いて声を漏らしたミーナの方を伺う。
すると、彼女は般若のように怒り狂っているような顔を上げた。
「黙れ!愚かな愚民ども!私を誰と思っている!」
ミーナは信者の方へと、屋根の上から叫ぶ。そこには、かつての慈愛に満ちた声色は皆無であった。
とうとう本性を現したな、と思いながら、リュクレーヌは睨みつけた。
「せっかくお前たちを、正しい人間へと進化させようとしていたというのに裏切ると言うのか!」
「正しい人間……?」
「そうよ、テレーノ教は戒律を守れる清く正しい人間だけの世界を作る。戒律を守れない正しくない人間は皆、ゴーレムになるのよ」
戒律を守れない者はゴーレムに。夜の礼拝堂で言っていた通りだった。
殺された死体はゴーレム──即ちマスカの材料として使われたのだろう。生まれたゴーレムは主人に絶対服従。
決められたルールを守れない、正しくない人間は土人形として、絶対服従を強いられていた。これで、戒律を破る者はいなくなる。
それが、ミーナの求めた正しい者だけの世界──テレーノ教の理想郷だった。
「それがアンタの言っていた理想郷か……」
「真面目に生きてきた者だけの世界にすれば、真面目な者は報われるのよ!正しくない者は排除。皆もそれを求めるでしょう!」
「ミーナさん……あなた、一体何があったんです?」
正しさへの異常な執着をみせるミーナにフランは懐疑な目で見つめた。
「私は……戒律を守って、真面目に神に尽くしてきたわ……それなのに、一緒にいた修道女達は皆、遊び呆けていた。その上、神を裏切り結婚した!神を裏切ったのに、家族に囲まれて幸せになっていた……おかしいでしょう!どうして、真面目に修行をしてきた私が幸せになれないの!!」
ミーナは元々クリスチャンだった。修道女として教会に入り、神に遣えるものとして修行の日々送っていた。彼女は熱心に修行に明け暮れていた。
しかし、彼女の周りはそうでは無かった。他の修道女はと言うと、やっているふりのものがいた。ミーナが注意をすると、鬱陶しそうにしながら渋々修行をした。人間関係などの環境もあってか教会ではその内、修行をやめる者、教会を出て行く者、結婚した者も居た。
神に遣えると言ったのに、こんな事は不貞行為も同然では無いかとミーナは憤った。
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