愛しているから
「……やっぱり、そうだったのね」
「やっぱり?」
「……知っていたわ。全部」
クレアの口から出てきたのは、既知の言葉だった。
「何だと!?」
「魔術師であれば当然悪魔との協力者として扱われる。ブラーチさん。貴方に至っては、貴方の関わるところでは大量の殺人が起きていた。当然、アマラ軍は貴方の事をマークしていたわ。ずっとね」
もう一度クレアは銃を突きつける。まるで、獲物を捕らえて逃がさないといったように。
「それでも、アマラ軍が貴方を生かしたのは、対マスカ用の研究員として利用しつくすためよ」
「利用し終わったら殺す気か。私を」
場合によっては戦わなければならない。拳を握りしめ睨むブラーチに対して、クレアは冷徹な表情で引き金に指を掛けて「えぇ」と言い放つ。
「役目が終わった後の貴方の殺害。それが私のガーディアンとしての仕事よ」
「っ……」
「けど、そんな事できないのよ。もう」
「え?」
否定の言葉と共に、クレアは機関銃を下ろした。
そして、団服に誇らしく並んでいた勲章のバッチを全て引きちぎり、床にばらまく。
一体、何が起こっているのか、とブラーチは狼狽えた。
「私もアマラ軍ガーディアンとしてじゃなくて、クレア・スティノモスとして生きる事を選ぶわ」
「クレア……」
「ここから先にあるのはガーディアンとしてじゃなく、私の個人的な感情だけよ」
銃口の代わりにエメラルド色の双眼が向けられる。
「私は貴方を殺したくない。それに私を虐げる人の為に戦いたくない。だから、私はガーディアンの称号も捨てるし、アマラ軍も辞める。勝手でしょ?でもね、それが本心なの。私は私の守りたい物の為に戦い続けるわ」
人を守るのに、称号なんて必要ない。称号のせいで、所属のせいで酷い目に遭うのなら、捨てればいい。
クレアは、ブラーチと同じように自分の所属を捨てる事にした。
地位も名誉も今まで集めていた勲章も全てを捨てて、アマラ軍としてではなく一人のアマラとして生きていく。それがクレアの選んだ道だった。
「どうして、そこまで」
「決まっているじゃない。貴方を、愛しているからよ」
もう一度クレアは笑う。先ほどの威圧感のある笑顔ではなく、優しく慈愛に溢れたものだ
「……そんな事を言われたのは、生まれて初めてだ」
ブラーチは不自然な笑顔でクレアに言う。そう、目尻から、温かい想いが零れ落ちないように。
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