剥がされたラベル

「魔術を……。ねぇ、ブラーチさんはどうして魔術を使えたの?魔術師は、悪魔に憑依を赦した人間だけがなれるものだけじゃないの?」


「私は悪魔と契約していない。ただ、魔術師にはもう一つ、なる方法がある」


「それは何?ブラーチさんはその方法で魔術師になったの?」


「あぁ、魔術師……悪魔と契約した人間の血が流れている場合だ」


「ブラーチさんは……魔術師の血が流れているって事?」


「そうだ」


ブラーチは頷く。


「当然、村中にこの事件は知られて、私は悪魔の子だと言われ処刑されそうになったよ」


「されそうになった?何があったの?」


続きを聞き出そうと、クレアが問い詰める。だが、突如ブラーチの表情が険しくなる。

唇をぎゅっと噛みしめ、口を噤んだ。


「……聞かない方が良い」


「ここまで来てそれは無いわ。話して、ブラーチさん」


「やめろ。絶対に、君にだけは話したくない」


「どうしてそんな事を言うの?」


「……」


「……分かったわ」


ようやくクレアもこれ以上は無駄だと諦めたのか、視線を落とし、ため息をついた。


「私も手段は選ばない」


否、食い下がる。アマラの武器である機関銃をブラーチに突き付けた。

ブラーチの一瞬だけ安堵していた表情が、みるみるうちに青ざめる。


「何を考えているんだ!」


「何を言われても、何が起きようと、この先の話を聞くわ」


「……この話を聞いた者は、死ぬ。殺されるんだ!」


「殺される?構わないわ!」


「正気か……?」


「私、強いのよ?そこら辺のアマラよりもよっぽど。簡単に殺されたりはしないわ」


銃を突きつけながら、クレアはにこりと笑う。


「分かった……」


今度はブラーチが観念した。クレアの強く、真っすぐな心にブラーチは固く閉ざしていた過去の続きを語り始める。


「処刑の前日、村は壊滅した。一夜にして村人全員が殺されたんだ」


「そんな……何が、起きたの?」


「さぁな……問題はその後だ、私の行く先々でこの話をどこからか嗅ぎ付け、私に対する差別や迫害が起きるたびに、関係者は殺され、組織は壊されていった」


自分の過去や魔術師であることを知った人間たちは、ブラーチの事を避けた。避けるだけならまだしも、罵倒し、迫害した。

だが、その加害者たちはもれなく何者かに殺され、組織は壊滅に陥っていた。まるで、ブラーチの生まれた村と同じように。


「だから、私は自分の過去も所属も……自分に関する特徴を全て無い事にして、遠く離れた英国の地で生きることにした。所属や特徴が無ければ、そんな目に遭わなくて済むだろ」


「性別を明かさなかった理由も、そういう事?」


「あぁ。生まれ持ったもので隠せるものがある限り隠す。それが私だ」


自分を分類するラベルはいらない。とブラーチはきっぱり言った。出来る限り、自分を現すものを隠して、生きてきた。

クレアは、全てを捨てなくてはならなくなったブラーチを見て、やるせない表情で歯を食いしばった。

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