時計台ピクニック
ピクニックの会場は、折角だし、とロンドンを象徴するビックベンの屋根の上にした。
マスカであるリュクレーヌの手にかかればあっという間に到着する。
高所恐怖症という事を忘れ、昇ってから後悔したが、それでも景色は良い。ロンドンの街を一望して、まるで自分たちがこの街を見守っているような気分になれる。
「はい、これ」
「サンキュ」
バスケットからサンドウィッチを取り出す。
手軽に食べられることもあり、忙しい時は定番のメニューではあるが今日のものは少し豪勢だ。
白身魚のフリットに市場で購入した玉ねぎとピクルスが刻まれたタルタルソース、隠し味のマスタードがいい仕事をしている。
「自分で言うのもなんだけど、美味しいね。」
「外で食べるとまた格別だな。景色もいいし、仕事終わりというのもいい」
「まだもう一仕事あるでしょ」
アップルティーを飲みながら、「そうだったな」とリュクレーヌは頷く。
この街に蔓延っているマスカとファントムの協力者は人々に恐怖と不安を植え付けた。
心なしか、灯りの数も少なくなった気がする。それだけ、街に活気がなくなったという事だろう。
「俺たちが旅に行ってる間に随分とこの街も変わったな」
「ほんの数日のはずだったんだけどね。でも、随分と大人しくなったよね」
「皆、マスカを怖がって家からも出られないんだろ」
殺戮兵器が潜んでいるとなれば、街は正常に機能しない。リュクレーヌ達が豪華客船の事件を担当している間に、街は不安に包まれていた。
「ただの都市伝説だったのに、公になったらやっぱりこうなるんだな」
「アドミラさんが、マスカの真相を秘密にしろって言ったのも分かる気がするよ」
「まっ、全部事実なんだけどな。この事実のせいでこの街は毎日お通夜みたいになっちまった」
喪に服すような日々が続く。以前の街に戻る事はもう無いのだろうか。
「なんとか、しなきゃいけないね」
「まぁな。けど、なかなかやっかいだぞ?雰囲気を変えるっていうのは」
「そりゃ、そうだけど……」
「こんな状況をどうにかしたいってのはあるけどな。まぁ……こんな状況を喜んでいる奴もいる」
「え?」
フランが聞き返した時だった。突如、付近で爆発音がする。
「危ない!」
時計台が破壊されて二人の元に倒れこむ。逃げなければ。
リュクレーヌは即座にフランを抱え、落ちてくる時計台を避け、地上へと降り立つ。
「大丈夫か!」
「うん、平気。ありがとう」
二人が屋根から降り、地面に足を付けると、どたどたと慌ただしく駆けつける足音がした。
「おい!本当にマスカだぞ!」
「ひゃっほう!今回のタレコミも正解だったな」
「何だ……?この人たち。」
駆けつけたのはカメラを持った若い男とメモ帳とペンを手に持っている中年の男。
若い男は、レンズを上空の方へと向け、シャッターを切る。
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