腹が減っては何とやら
◆
警察から事務所まではそれなりに距離があった。ラルファが事務所に来るたびにこの道のりを辿っているのだとしたら、流石は警察官だと感心する。
いや、関心などしている場合ではない。帽子を取るリュクレーヌを見ながらフランはやれやれという表情をした。
「本当に帰って来ちゃったよ」
「やっぱり事務所が落ち着くしな」
「いいの?何か手掛かりがつかめたわけじゃないのに」
ソファで横になり、くつろぐ彼を覗き込みながら確認するように言った。
リュクレーヌはというと、ぼんやりと天井を眺めるだけだった。
「……」
「リュクレーヌ!」
痺れを切らしてフランは名前を叫ぶ。
だが、リュクレーヌはぼんやりとしたままだった。
流石に無視をする訳にはいかないと「なぁ」とだけ声をかける。
「フラン……腹減らねぇか?」
「はぁ?」
また突飛もない事をとフランはあきれ顔だ。
「ちょっと早いけど晩飯にしようぜ」
「何を言ってるんだよ!」
「腹が減っては戦は出来ぬって言うだろ?」
「戦って……」
「戦だよ。これは。人間とマスカの、な……」
戦争。マスカと人間の生きる世界の陣地とり。負けた種が滅びる。
自我がないマスカが勝てば、当然この世界はファントムのもの同然だろう。
今はまだ、街一つの話で済んでいる。だが、マスカの勢力がイギリス中に、はたまた世界中に広がったらその時は──
最悪の結末を辿らないために、ルーナ探偵事務所と名探偵リュクレーヌ・モントディルーナは存在する。
断言するように、真剣な表情でリュクレーヌは言った。
要求は「飯を作れ」なのだが。
「分かった。どうしようかな…今夜は。お昼は僕の食べたいものだったし……」
「サンドウィッチがいいな」
「分かった。すぐ作るよ」
フランはキッチンの方へ消えて行く。その背中に補完するようにリュクレーヌは声をかけた。
「あっ、外で食べられるようにしよう。ピクニックだ」
「ピクニック?」
「あぁ」
外に持ち出せる食事を所望する理由をフランは何となく察した。
リュクレーヌが外出したい理由。そんなものは一つしかないだろう。
「……もしかして、また何か調べるの?」
「その通り。さっ、準備するぞ!」
ソファから起き上がり、フランの夕食を待って、二人は黄昏時のピクニックへと向かうのであった。
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