仮面劇の呪文

「このように、可視化する事も出来る」


「えぇと……MA……S…」


「masque。仮面劇って意味だな。」


「これが、この銃にかけられている魔術だ」


仮面劇という意味の言葉が銃に魔術として刻まれていた。


「魔術自体はちゃんとしてるみたいだが……何が問題なんだ?ブラーチ」


「問題はここに刻まれていた、魔術が発動しないことだ」


「発動?」


「魔術というのは、いわばパスワードのようなもので、その言葉を唱えるとこの刻印が反応する」


「ふうん、masqueって言えば良いのか?」


「いや、人間の言語ではないだろう」


どうやら魔術は特別な言語の用だ。先ほどブラーチが唱えた呪文と同様に。

ブラーチはおもむろに白衣の懐から試験管を取り出す。中には薬液が入っていた。


「そうだな、例えば……ここに、私がファントム封印に使った魔酔がある」


「これにも魔術がかかっているの?」


「あぁ、試しに呪文を唱えてやる」


先ほどと同様に全く知らない言語をブラーチが唱える。すると次の瞬間、試験管は閃光を発した。


「わっ、光った!」


「なるほど、呪文を唱える事で光るわけか」


「あぁ、この光は術が発動したサインだ」


「それで、僕の銃は発動しないんですか?」


「そうだ、実際にここに書かれている意味の魔術を唱える」


ブラーチがもう一度呪文を唱えた。何となく、先ほどとは違う言葉である事だけは分かる。

しかし、専用の言葉を掛けられても銃はうんともすんとも言わなかった。


「光って……ない」


「この銃は、呪文を唱えても発動しない」


魔術がかかっているはずなのに発動しない銃。

だが、おかしい。この銃は既にフランの想いに応えて何度も光っているはずだ。


「でも、この銃が光るところ僕は何度も見ています……マスケット銃に変化する時、とか」


「あぁ、それは俺も見ているぞ。どういうことだ?」


リュクレーヌがブラーチに問う。


「だから、不思議なんだ。この銃の魔術は銃にかけられた魔術を解読しても発動できない」


「銃弾にかけられていた魔術と銃本体の魔術は同じものなの?」


「これも不思議な事に、恐らく別物だ。まぁ、銃弾の方は微量過ぎてよく分からない……がな」


銃弾に微かに残っていた魔術とこの銃にかかっていた魔術は別の物。

かけられている呪文が違うという。この銃はどうして発動しているのか。

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