黒い蛇のような文字列

「まぁまぁ、落ち着いて」


「クレアの言っている事も一理ある。新聞もこの通り、アマラ軍への同情と併せて国の対応を批判している」


怒り心頭のクレアを宥めるフランに、リュクレーヌがもう一度新聞の記事を見せた。

アマラ軍の同情は新聞社の都合のいいように利用されていた。


「私達は……誰かの武器になるために戦っているんじゃない」


「不安が広がると、誰かのせいにして安心したくなるもんだよな、人間は」


つくづく感じていた。人間の心には不安や怒りといった負の感情ばかりが広がりやすいものだと。

事実、黒く濁った感情がこの街を覆いつくしていた。事務所への訪問者やアマラ軍の崇拝者がその証拠だ。マスカやファントムというわかりやすい敵がありながらもどうすることもできない。

だからこそ、国家権力だろうと、自称名探偵だろうととにかく責任転嫁をして、八つ当たりをする事しかできないのだ。


 

「それで、何の用だ?愚痴を言いに来ただけって訳じゃないだろ?」


ブラーチの訪問だ。何かしらの用があるのだろう。リュクレーヌは尋ねる。


「あぁ、確認したいことがある」


ブラーチの表情が一層険しくなった。


「確認?どうしたんだよ、そんな神妙な顔して」


「お前にじゃない。フランに確認だ」


指名を受けたフランは自身を指差し、目を丸くした。


「僕?」


「あぁ、フラン。お前のその銃の出所が聞きたい。その銃はどうやって手に入れた?」


「あ……」


問われた内容はスチームパンク銃の事だった。

フランは気まずそうに口を紬いだ。


「おいおい、どうして今更そんな事を」


「実は、二ヶ月ほど前……そうだな、フランがファントムに襲われた事件があっただろ。あの時、この銃を調査した」


ブラーチはスチームパンク銃の方を見た。

弾丸に残された微量の魔術だけでは何も分からない。本体にかかっている魔術も分かるのであれば。

少し躊躇したが、今しかない、とブラーチはフランが眠っている隙に銃本体を調べていた。


「ただ、この銃本体に刻まれている魔術は銃弾から検出されたものと別物だったんだ。」


「どうして、そんな事が分かるんですか?」


「魔術は文字列だ。魔術師は、この文字列を解読する事が出来る……そして」


ブラーチが全く知らない言語らしき何かを唱えると、銃からぬるりと蛇のような線が沸く。


「わっ!」


線はやがて、うねり、曲がり文字を形成していく。浮かび上がった文字はmasque。

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