崇拝と不満

 

デスクに広げられた新聞を二人が眺めていると、今度は穏やかなノックが二回、玄関のドアから響く。

きっと先ほどの客とは違うだろう。フランは玄関の方へと向かい、ドアを開いた。

すると目の前に現れたのはよく見た顔だった。


「ブラーチ、とクレア?」


だが、いつもの二人とどこか違う。ブラーチが来ているはずの白衣を、クレアがアマラ軍の軍服の上に羽織っていた。


「クレア、どうして白衣を羽織っているの?」


「アマラ軍を崇拝する輩がしつこくてな」


「なるほど、身元を隠す為ってわけか」


「アマラ軍を……崇拝?」


フランは小首を傾げる。アマラ軍が崇拝の対象となっている、という状況が理解できなかった。

すると、ブラーチは淡々と説明を始めた。


「今やファントムとマスカはこの世の敵であり、倒すべき存在。マスカと戦うアマラ軍はヒーローで、彼らを崇める者まで出てきている」


「ついこの間までは、普通の軍人だったのに……」


「マスカが他国の兵器だと思われていたからだな」


「ほら、新聞にも『頑張れ!アマラ軍』とか書いてあるぞ。よかったな」


リュクレーヌが開きっぱなしの新聞に綴られた記事を指さす。

兵器を壊すだけの軍人であり、特に感謝もされていなかったアマラ軍が今や悪魔と戦うヒーローとなり、賞賛されている。

アマラ軍であれば嬉しいだろう?と思っていた。だが──


「私……こんな事、別に望んでいない!」


「ク、クレア……?」


クレアは突如、デスクを叩き大声を張り上げた。

思わぬ反応にフランはおろおろと狼狽える。


「確かに、私達を応援してくれている人もいるわ。それは分かっているし感謝している」


純粋にアマラ軍に感謝し、応援してくれいている者は確かにいた。

彼らの存在にはクレアも気づいてはいた。励みにはなっていた。


「けど、あの人たちは、別に私たちを褒めたたえたいわけじゃないのよ。私たちを使って自分の気に入らない人たちを叩きたいだけなの!」


しかし、クレアの元に現れた崇拝者たちはそうではない。

彼女に近づいてまず発したのは、感謝の言葉でも労いの言葉でもない。


「言っていたわ、『警察は何をやっているんだ』『君たちは頑張っているのにこの国と来たら』って……」


彼等にはクレア達アマラ軍の働きを称えるつもりなど微塵もなかった。

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