船旅の終わり

 

船はロンドン港へと戻る。リュクレーヌ達はようやく船から解放された。


船に積まれていた大量の死体は、悪用されないようにと、アマラ軍へと引き渡された。


「なんとか、終わったか……」


ようやく、長い、長い船旅が終わった。

リュクレーヌは港で潮風を浴びながら波打つ海面を眺めていた。


「いや!そんな事よりどうしてアドミラさんがいたの!?」


「依頼だったんだよ。そもそも大量の死体が出る海難事故をアマラ軍がマークしないはずはない」


この度の船旅はアドミラからの依頼だった。

チケットを手配したのもアドミラだ。


当然、彼はリュクレーヌがフランに依頼の事を伝えるものだと思っていた。


「でも、軍が表立っていくわけにはいかなかった……だから俺達に依頼が来たって訳だ」


「じゃあ、どうして教えてくれなかったんだよ?いつも、いつも……」


リュクレーヌはフランに依頼の事を伝えなかった。

共に闘う者として、どうして重大な事を隠されたのか、フランは不満を抱いていた。


「楽しんで、欲しかったんだよ」


リュクレーヌは柔らかく笑う。その笑顔はどこかずるさを含んだものだった。


「え?」


「お前に普通の旅行を楽しんで欲しかった。それだけだよ」


これまで、自分の仕事に巻き込み続けて気苦労をかけていたフランに、どうにか余暇を与えて、心を休めて欲しい。


リュクレーヌなりの気遣いだった。


これではフランも反論できない、と少しだけ悔しそうに歯を食いしばり、ぷいと背を向けた。


「……全部、終わったら……ファントムを完全に封印できたらさ、今度こそ旅行しようよ」


全てが終わったその時は、今度こそ、何も、し絡みの無いバカンスへと行きたい。


「……そうだな」


リュクレーヌもこくりと伏し目がちに頷いた。


「あっ、でも、料理は僕が作るからね」


「楽しみにしているよ」


いつか、この約束が果たされたなら。そんな淡い期待を互いに祈りながら、二人は黄昏時の橙色に染まった海を眺めた。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る