船旅の終わり
◆
船はロンドン港へと戻る。リュクレーヌ達はようやく船から解放された。
船に積まれていた大量の死体は、悪用されないようにと、アマラ軍へと引き渡された。
「なんとか、終わったか……」
ようやく、長い、長い船旅が終わった。
リュクレーヌは港で潮風を浴びながら波打つ海面を眺めていた。
「いや!そんな事よりどうしてアドミラさんがいたの!?」
「依頼だったんだよ。そもそも大量の死体が出る海難事故をアマラ軍がマークしないはずはない」
この度の船旅はアドミラからの依頼だった。
チケットを手配したのもアドミラだ。
当然、彼はリュクレーヌがフランに依頼の事を伝えるものだと思っていた。
「でも、軍が表立っていくわけにはいかなかった……だから俺達に依頼が来たって訳だ」
「じゃあ、どうして教えてくれなかったんだよ?いつも、いつも……」
リュクレーヌはフランに依頼の事を伝えなかった。
共に闘う者として、どうして重大な事を隠されたのか、フランは不満を抱いていた。
「楽しんで、欲しかったんだよ」
リュクレーヌは柔らかく笑う。その笑顔はどこかずるさを含んだものだった。
「え?」
「お前に普通の旅行を楽しんで欲しかった。それだけだよ」
これまで、自分の仕事に巻き込み続けて気苦労をかけていたフランに、どうにか余暇を与えて、心を休めて欲しい。
リュクレーヌなりの気遣いだった。
これではフランも反論できない、と少しだけ悔しそうに歯を食いしばり、ぷいと背を向けた。
「……全部、終わったら……ファントムを完全に封印できたらさ、今度こそ旅行しようよ」
全てが終わったその時は、今度こそ、何も、し絡みの無いバカンスへと行きたい。
「……そうだな」
リュクレーヌもこくりと伏し目がちに頷いた。
「あっ、でも、料理は僕が作るからね」
「楽しみにしているよ」
いつか、この約束が果たされたなら。そんな淡い期待を互いに祈りながら、二人は黄昏時の橙色に染まった海を眺めた。
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